第二十話 面会、カルデロンの話。
いい知らせと悪い知らせがある。
どちらからききたい? ……よろしい、では、いい知らせから。
〈聖アンジュリンの子ら〉はきみを起訴しない。
彼らが踏み込んだ瞬間、針金男のそばにきみがいたが、それでも起訴はしない。
きみのほうが犯人に行き着いたことは面白くないだろうがね。
まあ、夕食前には帰ることができる。
悪い知らせはわたしがこうしてきみの公選弁護をしていることが来栖くんにバレた。
それはもう、きみのとっておきの弱点を握ったみたいに言いふらしているよ。
まあ、これも見方を変えれば、いい知らせになる。
時間ができるのだから、じっくりいろいろ考えることができるだろう。
例えば針金男はデゼルヴァロ・ディアス、あるいはデゼルヴォロ・ディアス、あるいはデゼルヴェロ・ディアスを殺害したか?
針金男はただディアスを殺したと言ったのだろう?
これに偽名でディアスを名乗っていたデゼルヴァロ・アンヘルスを入れれば四人。
ディアスは別人物なのか、全ては同一人物なのか。
それに針金男の誕生はカルボノと橋守係のどちらの推定死亡時刻よりも後だ。
おや、きみは何だか面白そうな顔をしてくれるね。
矛盾が楽しくなったら、大急ぎで事件から手を引くんだよ。
謎は精神的に人間を食べるのではない。
物理的に食べる。
謎に食われた人間をひとり知っているが、鵞鳥の羽ペンを傾けた右手を残して、消えてしまった。
その切断面を見ると、鋭い牙が並ぶ大きな顎で食いちぎられたようだった。
そうなると悲しむ人もいるだろう?
それと、身元引受の名前欄にはわたしの名前ではなく、イヴェス判事の名前を書いておいた。
サンタ・カタリナ連合会のディナー券を持っているのだろう?
イヴェス判事の粗食への耐久と潔癖さを考えると、最初で最後の外食になるかもしれんな。
まあ、謎を解くには頭に栄養が必要だ。
たっぷり食べることだね。
三年前 ディアス、カラヴァルヴァに居住
四か月前 【矛盾】ディアス、魔術師街に家と菜園を借りる
ディアス、貸出娘を半年契約で借りる
三か月前 ディアス、貸出娘の中止提案に激怒
紙幣騒動時 【矛盾】ディアス、来栖ミツルにニンジンを納品
三週間以上前 【矛盾】ディアス、妖精取引所に姿をあらわす
【矛盾】ディアス、川に沈められる(橋守の検死)
17日前 ウンベルト二世失踪
【矛盾】ディアス生存(妖精取引所使用人の証言)
10日前 【矛盾】ウンベルト二世、指輪を呪術師に持ち込み、飲み込む
7日前 【矛盾】ディアス、針金職人から錆びた針金を買う
6日前 【矛盾】ディアス、川に沈められる(カルボノの検死)
【矛盾】ディアス、針金職人と最後に会う
5日前 コーデリア、青い帽子を針金男に売る
針金男が生み出される
4日前 貸出娘の貸元のディアス、針金男によって殺害
3日前 ウンベルト二世帰宅
ディアス、死体で発見
→死体には大量の針金が飲まされていた
→【矛盾】死体は指輪を所持か?
→【矛盾】死体の顔にびっしりと穴(川のなかでつけられた)
→【矛盾】顎が百八十度開いていた
エビ漁師、死体の指輪を売る
現在 ウンベルト二世出かける
1日後 呪術師〈まわる蛇〉死体で発見(針金男によって殺害)
→死んだ時刻は午前三時
→錆びた針金を飲まされて殺害
→最後に会ったのは青い帽子の男
貸出娘、指輪を所持
貸出娘の貸元のディアス、死体で発見
→死後五日経過(イリーナの意見)
→本名はデゼルヴァロ・アンヘルス
→死因は錆びた針金を飲んだこと(カルデロンの話)
→青い帽子の男が目撃
→青い帽子の男の手は錆びた針金でできていた
→針金男によって殺害
デゼルヴァロ・ディアス=デゼルヴォロ・ディアス=デゼルヴェロ・ディアス?
ディアスは娘を探している? →三十一人かもしれない
脅迫状には〈におい〉がない(イリーナの意見)
→出したのはイヴェスだった。
謎が人を食うとき、矛盾が快感になる(カルデロンの話)
青い帽子は元傭兵のもの(コーデリアが取り扱いか?)




