第十九話 追及、錆びた針金の告白。
お前が犯人にたどり着いたことは誉めてやる。
だが、お前は事件の端の一角をかじったに過ぎない。
ああ、わたしはもうじき動かなくなる。
寿命なのだ。わたしは一週間だけ動くようにつくられた。
そして、終末はもうすぐだ。
なぜ、わたしは青い帽子を買ったのだろう?
それを見ているとひどく懐かしい感じがした。
買わずにはいられなかった。
わたしのなかには人殺しの種が植えこまれている。
それが芽吹き、わたしの針金を食うとともに、人を殺さずにはいられなくなる。
誰でもいいわけではない。
決まった相手を殺さねば、この痛みは治まらない。
だから、殺した。ディアスと〈まわる蛇〉。
殺さねばならなかった。
わたしは浅ましい存在だ。
もう、わたしはここに横になったまま、動くこともできない。
わたしが持っている真相はほんの少しだ。
誰がわたしをつくり、誰がわたしに人殺しの種を埋め込んだのか、分からない。
錬金術士だろう。
フラスコのなかでわたしは指輪を見た。
赤い石をくわえた蛇の指輪。
それが左手の薬指にはまっていた。
創り手に会いたい。
そして、問いたい。
わたしは無から生み出された存在なのか?
それとも、人間だったのか。
あの青い帽子に感じた懐かしさ。
あれは何だったのだろう?
自分が作り出された命なら、なぜあの帽子に感情を覚えるのか。
わたしはあの青い帽子を知っている人間だったのではないか?
だが、そうだとしても、わたしがどんな人間だったのか。
まったく分からない。
少年よ。頼みがある。
わたしが死んだら細切れにして、畑に埋めてくれ。
誰も傷つけず、何も悲しまない、植物になりたい。
頼んだぞ。
三年前 ディアス、カラヴァルヴァに居住
四か月前 【矛盾】ディアス、魔術師街に家と菜園を借りる
ディアス、貸出娘を半年契約で借りる
三か月前 ディアス、貸出娘の中止提案に激怒
紙幣騒動時 【矛盾】ディアス、来栖ミツルにニンジンを納品
三週間以上前 【矛盾】ディアス、妖精取引所に姿をあらわす
【矛盾】ディアス、川に沈められる(橋守の検死)
17日前 ウンベルト二世失踪
【矛盾】ディアス生存(妖精取引所使用人の証言)
10日前 【矛盾】ウンベルト二世、指輪を呪術師に持ち込み、飲み込む
7日前 【矛盾】ディアス、針金職人から錆びた針金を買う
6日前 【矛盾】ディアス、川に沈められる(カルボノの検死)
【矛盾】ディアス、針金職人と最後に会う
5日前 コーデリア、青い帽子を針金男に売る
針金男が生み出される
4日前 貸出娘の貸元のディアス、針金男によって殺害
3日前 ウンベルト二世帰宅
ディアス、死体で発見
→死体には大量の針金が飲まされていた
→【矛盾】死体は指輪を所持か?
→【矛盾】死体の顔にびっしりと穴(川のなかでつけられた)
→【矛盾】顎が百八十度開いていた
エビ漁師、死体の指輪を売る
現在 ウンベルト二世出かける
1日後 呪術師〈まわる蛇〉死体で発見(針金男によって殺害)
→死んだ時刻は午前三時
→錆びた針金を飲まされて殺害
→最後に会ったのは青い帽子の男
貸出娘、指輪を所持
貸出娘の貸元のディアス、死体で発見
→死後五日経過(イリーナの意見)
→本名はデゼルヴァロ・アンヘルス
→死因は錆びた針金を飲んだこと(カルデロンの話)
→青い帽子の男が目撃
→青い帽子の男の手は錆びた針金でできていた
→針金男によって殺害
デゼルヴァロ・ディアス=デゼルヴォロ・ディアス=デゼルヴェロ・ディアス?
ディアスは娘を探している? →三十一人かもしれない
脅迫状には〈におい〉がない(イリーナの意見)
→出したのはイヴェスだった。
謎が人を食うとき、矛盾が快感になる(カルデロンの話)
青い帽子は元傭兵のもの(コーデリアが取り扱いか?)




