第十六話 夕食、コルネリオ・イヴェス。
今日はコーン・フリッターと塩漬けキャベツだ。
魚はない。釣れなかった。とうもろこしを三十粒も無駄にした。
昨晩はウサギを食べたのだから、あと十日くらいはコーン・フリッターと塩漬けキャベツを食べても死にはしない。
確かに治安判事の給料は安いが、昔は給料はなく、市内の商人から手持ちの商品の十分の一をもらうという特権があるだけだった。
目についた商品を片っ端から十分の一ずつちぎっていったものだから、治安判事は死刑人よりも嫌われた。
それに比べれば、まだわたしたちはマシだ。
少なくとも後ろから刺されることを心配せずにサンタ・カタリナ大通りを歩ける。
それで、今日はどうなった?
……。
様々な事柄が矢継ぎ早に続いている。
青い帽子の男が犯人あるいは犯人につながる手がかりを持っている可能性は高いが、〈まわる蛇〉が指輪を呑んだのが伯爵だと言ったことも気になる。
それをお前に教えた翌日に彼女は殺された。
もちろん、ただの放り出された矛盾かもしれないが。
脅迫状の件?
ふむ。犯罪者の〈におい〉がない、か。
まあ、そうだろうな。あれはわたしが書いた。
なにを驚いている?
理由はお前をあの事件から引き剥がすためだ。
まあ、あまりうまくはいかなかったが。
……どうしても、この捜査を続けるつもりなら、来栖ミツルとの連絡を絶たないことだ。
そう言うな。お前が手をつけようとしているのは正体不明の悪だ。
そいつは矛盾を手のひらで転がしながら、お前を待ち伏せしている。
悪、という点では来栖ミツルほど、悪を飲み込み、きちんと血肉にしているものはいない。
悪には悪でもってあたる。
お前のプライドはあるだろうが、頭の片隅に置いておくことだ。
このコーン・フリッターが最後の晩餐だったなんてことにならないためにな。
というのも、今日のコーン・フリッターは少し焦げている。
明日にはもっといいコーン・フリッターをつくることができる気がする。
死ぬなら、もう少しまともなコーン・フリッターを食べた翌日にすることだ。
三年前 ディアス、カラヴァルヴァに居住
四か月前 【矛盾】ディアス、魔術師街に家と菜園を借りる
ディアス、貸出娘を半年契約で借りる
三か月前 ディアス、貸出娘の中止提案に激怒
紙幣騒動時 【矛盾】ディアス、来栖ミツルにニンジンを納品
三週間以上前 【矛盾】ディアス、妖精取引所に姿をあらわす
【矛盾】ディアス、川に沈められる(橋守の検死)
17日前 ウンベルト二世失踪
【矛盾】ディアス生存(妖精取引所使用人の証言)
10日前 【矛盾】ウンベルト二世、指輪を呪術師に持ち込み、飲み込む
7日前 【矛盾】ディアス、針金職人から錆びた針金を買う
6日前 【矛盾】ディアス、川に沈められる(カルボノの検死)
【矛盾】ディアス、針金職人と最後に会う
4日前 貸出娘の貸元のディアス、殺害か?
3日前 ウンベルト二世帰宅
ディアス、死体で発見
→死体には大量の針金が飲まされていた
→【矛盾】死体は指輪を所持か?
→【矛盾】死体の顔にびっしりと穴(川のなかでつけられた)
→【矛盾】顎が百八十度開いていた
エビ漁師、死体の指輪を売る
現在 ウンベルト二世出かける
1日後 呪術師〈まわる蛇〉死体で発見
→死んだ時刻は午前三時
→錆びた針金を飲まされて殺害
→最後に会ったのは青い帽子の男
貸出娘、指輪を所持
貸出娘の貸元のディアス、死体で発見
→死後五日経過(イリーナの意見)
→本名はデゼルヴァロ・アンヘルス
→死因は錆びた針金を飲んだこと(カルデロンの話)
→青い帽子の男が目撃
→青い帽子の男の手は錆びた針金でできていた
デゼルヴァロ・ディアス=デゼルヴォロ・ディアス=デゼルヴェロ・ディアス?
ディアスは娘を探している? →三十一人かもしれない
脅迫状には〈におい〉がない(イリーナの意見)
→出したのはイヴェスだった。
謎が人を食うとき、矛盾が快感になる(カルデロンの話)




