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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
ディルランド王国 ラケッティア戦記編
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第五十五話 ラケッティア、拳闘日和。

〈頭のなかでロッキーのテーマを流しながらお読みください〉


 さあ、始まってまいりました。

 第一回旅団対抗拳闘大会。


 各旅団からこれはという強者たちが集まっている。

 客席は兵士たちで満員だが、ディンメルの城壁からも試合が見えるよう、西側だけは客を入れていない。


 敵のクロスボウが届かず、念のため、アレンカの風魔法を用意したVIP席にはユリウスをはじめ、解放軍の幹部たちが並ぶ。


 ちなみにそこにマグナス・ハルトルドの姿はない。

 あのおっさんは氏族旅団の代表選手として出場が決まっている。


 おれとエルネストはリングそばにノミ屋を開き、ひっきりなしに入ってくる賭け金をせっせと計算し、オッズを叩き出していた。正直な話、リングにちらりとも目を上げられないほどだ。


 カネはすさまじい勢いで流れ込み、どうも近隣住民すらこの試合を見に来ている。


 もし、これがきっかけにディルランドでボクシングが人気になって、カタギのボクシング組織が出来上がったら、そのときはぜひとも八百長を仕組みに加えるとしよう。


 まあ、今は真面目に賭け計算をする。


 賭けは最初に誰が優勝するかを当てるタイプと一戦ずつ勝者を当てるタイプの二つで行く。

 当然、前者のほうが払い戻しは大きいが、前者の賭けを外した客を後者の賭けで拾っていくので、収益性に問題はない。


 オッズが出揃う。


 やはり、一番人気はマグナス・ハルトルド。

 六十を越えても衰えぬ肉体の頑強さは数多の戦いで実証済み。


〈インターホン〉は三番人気だ。


 ところでラウンド・ガールだが、なぜかうちのアサシン娘たちがやることになった。

 ホントはマダム・ミレリアのとこのおねーちゃんに頼む予定だったのだが、断られた。

 そこに脅迫の気配があったが、しょうがない。


 ちなみにアサシン娘たちは例のアサシンウェアでラウンド・ガールをやるつもりらしい。

 露出度ほぼゼロの黒装束のラウンド・ガールなんてきいたことがないが、まあせいぜい数字書いたプレートを掲げて、リングをぐるぐる歩いてもらおう。


 さあ、第一試合開始だ!


     ――†――†――†――


 ボクシング賭博の胴元がこんなにしんどいとは正直思わんかった。


 計算して計算して払い戻して、また計算して。


 試合なんか全然見れてないよ。


 もちろんアサシン娘たちのラウンド・ガール姿なんてちらりとも見てない。

 見てないと間違いなく後で文句を言われるが、でも、そんなこと言ってるあいだにまた賭け客が来る。


 マフィアはこれに合わせて、ギャンブル中毒者への貸付もやるんだから、えらいもんだ。

 儲かるのは間違いないが、これを毎日やっていたら死んでしまうし、これで高利でカネなんか貸し始めたら、複利計算が入ってきて、頭がパンクする。


 わーっ! と歓声。

 誰かが別の誰かの顎にアッパーカットを食らわせたらしい。


 あー、試合見たい。

 けど、その暇がない。


 しばらくのあいだ、耳には「足を使え、足を!」とか、「ジャブもらいすぎてんぞ!」とか、外野の声がきこえてきた。


 そしてトーナメントに勝ち進んだのが、マグナスと〈インターホン〉だ。


 五十三ラウンドに及ぶ死闘で両者血まみれになりながら、最後にマットに沈んだのはマグナスのほうだった。


 これには観衆も驚き、発掘された才能に対し、惜しみない拍手が寄せられた。


 ところが、そこで奇怪な出来事が起きた。


 ガルムディア兵が一人、城壁をロープで降りてきて、飛び入り参加をしようというのだ。


「どうするんだい?」


 エルネストがたずねる。

 興行主はおれだから、この飛び入りを許すかどうかもおれが決められる。


 ただ問題は〈インターホン〉だ。

 連戦でふらふらしてる。


狂騒のロアーリング・20年代トゥエンティーズ作戦』のことを考えると、これは大きな前進だし、飛び込みもありだが、問題は本人のやる気だ。


「おれ、やれますよ」


「え? でも、さっきフラフラだったじゃん」


「少し休んだら快復しました」


 もうオッズは適当に二対五にして、試合を始める。


 飛び込み野郎は十七ラウンド目に右フックをもろにもらって、ノックダウンされた。


 えいどりあーん!


 第一回旅団対抗拳闘大会の優勝は〈インターホン〉に決まった。


 蹄鉄鍛冶と錬金術師につくらせた金メッキのトロフィー。


 鳴りやまない観客席の「インターホン!」コール。


 そしてマグナスと飛び入りに賭けてフイになったおれの金貨百枚。トホホ。


 すると、巨額の払い戻しを求めて、アサシン娘たちがやってくる。


「え、マスターは〈インターホン〉にかけてなかったのか?」

「それはお気の毒なのです」

「わたしたちはもちろん〈インターホン〉に賭けたわよ。ねえ?」

「(こくり)……」

「そもそも〈インターホン〉に賭ければ儲かるって言ったのは、マスターだ」

「む-、マスター、アレンカたちを騙したのですか」

「でも、それで損してれば世話ないわね」

「……ぷっ」


「ええーい! やかましーっ! 胴元として儲かってるからいいの! ギャンブルなんて、試合がどう転ぼうと胴元が一番儲かるようにできてるんじゃ、バーカ!」


「あ、マスターキレた」

「逆切れなのです」

「やあね。敗者って」

「……歯医者?」


「ウワーン! エルネストえもーん! アサシンどもがいじめるーっ! なんか道具出して!」


「仕方ないなあ、来栖くん。はい、お昼寝許可証~!」


「……あの、お聞きしますが、なんすか、これ?」


「文字通り、いつどこでどんな状態でも昼寝ができる許可証だよ。トキマルくんに頼まれてつくってみたんだけど、なかなか出来がよくてね。最近一押しの子だよ」


「昼寝許可証って……げっ、おれやユリウスのサインだけでなく、スヴァリスのサインまで入ってる」


「勅令並みの効力を持つ書類だよ」


「えーと、これでステレオでいじめかかるアサシン娘たちにどう対抗すればいいんですかね?」


「嫌なことは寝て忘れてしまえばいい」


「えー」


 すると、アレンカが、なんというか、寝返った。


「お昼寝するときはアレンカが膝を貸してあげるのです!」


「あ、アレンカ! 抜け駆けなんて卑怯だぞ!」


 そこでアサシン娘たちのファイトが始まる。

 すると、ボクシングの興奮冷めあらぬ観客たちがわいわいと集まり、第一回マスター膝枕おねんね大会が始まった。


 観客の一人で銀貨を三枚握りしめた髭オヤジがおれにたずねる。


「おい、賭けはやらねえのか?」


 ご冗談を。できるわけねえでしょ。おれ、もう、ヘトヘトで――。

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