第二十五話 ラケッティア、ボクっ子的すっとろべりぃ・かのおり。
「ふふん。まったくマスターはボクがいないとダメなんだからなあ!」
セディーリャはいつも通り、大量の不良債権を残してドロンした。
スヴァリスは国のカエルたちに食べさせると言って、ターコイズブルー・パンケーキの素を持てるだけ持って、ディルランド行きの船に乗った。
「これに懲りたら、もっとボクを大切にすることだね」
バブル崩壊名物カサレス塔からの紐なしバンジーが起こったが、イヴェスがあらかじめマットレスを十枚重ねていたので、全て未遂に終わった。
「三月に入ったことだし、春のおいしいお菓子が食べたいなあ」
一セディーリャ愉悦なりて万紙屑大発生。
ロンドネと近隣諸国から集められた紙屑が街を埋め尽くしていて、別に恐喝を絡めなくても、清掃業務でがっつり稼げた。
「ねえ、マスター。ボク、ストロベリー・カノーリが食べたい。作って」
「はい、すっとろべりぃ・かのおり、喜んで」
そして、ここにひとりのボクっ子奴隷が彼女のあらん限りのわがままを叶えんと平身低頭、靴を舐める勢いで絶対服従をしている。
「でも、マスターもダメダメだなあ」
「はい、マリスさま。わたくしはダメな奴隷でげす。マリスさまがいなかったら、今ごろ、あの美形鬼畜どもに血が出るまでケツを掘られて、その有様が小説になってカラヴァルヴァじゅうに――」
「そうじゃなくって」
マリスは耳を塞いで、アーアーきこえなーい、をやった。
「はい。なんでげす?」
「女の子がアーアーきこえなーいをやったら、それよりももっと大きな声でボクのことを称えなくちゃ」
「あ、あれ、そういう前振りだったんでげすね」
「そうでげす、って、マスターの変な語尾がうつったじゃないか。女の子に変な語尾をうつしたりしたらいけないんだぞ」
「勉強になるでげす」
春風、と言い切れるほどの温さはまだないが、カラヴァルヴァは基本的に温暖にふれている気候だから、そのうち何でもかんでも春まみれ、温野菜がおいしくなる季節が来るだろう。
街は元通り。
混ぜ物入りのヤクが出回って、賭博のイカサマが原因で指が切り落とされて、サアベドラが今日も売人の額を叩き割り、詩人どもがクソバケツみたいな詩をつくる。
スカリーゼ橋の脚に死体が引っかかって、イヴェスは栄養失調、生き残ったわずかな金融業者が愛人の裸踊りを眺め、もふもふは今日もかわゆく、ボクっ子がおれの肩にぐりぐりと頭を押しつけてくる。
お前がいま第一にすべきはな、来栖ミツル。
闇カノーリ相場の不透明さは置いておいて。
季節がすっとろべりぃの旬を抜け切る前に。
ボクっ子美少女を喜ばせる、とびっきりの。
すっとろべりぃ・かのおりをつくるんだぞ。
カラヴァルヴァ 神権政治と闇カノーリ編〈了〉




