第十二話 アサシン、革命的終わりの始まり。
マリスは決意した。
来栖ミツルをぎゃふんと言わせると。
と、いうのも、封鎖されたリーロ通りのバリケードの近くで、来栖ミツルとロベルティナ・ペトリスが一緒にいるのを見つけてしまったからだ。
もちろん、そのそばにはヨシュアとリサークもいたはずだが、怒りのあまり、ふたりの姿を見落としたらしい。
「ぐぎぎぎぎぎぎ~」
歯軋りするマリスを眺めながら、スヴァリスとセディーリャは、そういえば、カノーリ無料配給をしたとき、あ、という感づき顔をしたのは自分たちの他にもうひとり、それがあのお嬢さんらしい、と言ってしまったので、
「うぎぎぎぎぎ~っ!」
と、余計悔しがらせることになった。
だが、悔しい時間は思ったよりも短かった。
「マスターは、ボクのこと、どうでもいいのかなあ」
こんなふうにしょんぼりするマリスを見て、「うん、そうじゃないかな」と言ったりする人でなしはいないだろうが、
「うん、そうじゃないかな」
スヴァリスとセディーリャである。
「そこは、そんなことないよ!って慰めるところでしょ!」
「嘘はカエルの声をきく耳を堕落させる」
「まあ、でも、そうだね。確かに、来栖くんのカノーリ配給計画をきいて、わたしもスヴァリス元帥も、あ、と思った。これはヤミ市で儲けるつもりだろうなとね」
「ヤミ市?」
「もうじき、この街には怒涛の食料不足がやってくる」
「そうなの?」
「わたしの兵糧戦の経験から言わせてもらえば、カラヴァルヴァほどの都市には一週間分のカノーリをつくることができるくらいの穀物と砂糖がある。だが、それを使い切ったら? 強烈なパン不足がやってくる」
「マスターはそれを見越して、カノーリをタダで配ったってこと?」
今度はセディーリャが説明する。
「つまり、来栖くんは市民に食べ物の無駄遣いを覚えさせてから、飢餓状態を惹き起こすつもりでいる。いや、来栖くんが惹き起こすのではなくて、無能な聖職者たちが惹き起こす。それを見越して、彼は聖職者の定める値段の何十倍もの額でカノーリを売るんだ」
「カノーリだけではない。チキン、インク、馬車、各種リキュール。様々な物資が欠乏し、ヤミ市で売られる」
「それをあなたたちは知ってたの?」
「うん」
「で、ロベルティナ・ペトリスも知ってたわけだ」
「たぶんね」
「やっぱり、ボク……」
しゅんとするマリスを見て、いい加減かわいそうだと思ったのか、まずスヴァリスが、
「資金があれば、〈清貧派〉を今日じゅうに引きずりおろせる」
と、いい、するとセディーリャが、
「資金は用意できるよ」
と、請け負う。
「どのくらいで?」
「三時間かな」
「〈清貧派〉を引きずりおろすというが、それは内面的な話で、一応、表面としては庶民革命の体裁は保たせるつもりだ」
「そのほうがいい。聖職者というのは実に腐敗しやすい」
マリスが、何の話をしているの?とたずねると、スヴァリスが片目をつむり、
「マリス嬢。わたしとセディーリャでとびきりのラケッティアリングを用意しよう。それこそ、ロベルティナ嬢が考えている以上の、ひょっとすると、来栖くんが考えている以上のね」




