第十三話 ラケッティア、午後六時。
「今年も一年お疲れさまーっ!」
「さまーっ!」
「今夜の食事は〈金塊亭〉特上おまかせコースでーす!」
「でーす!」
「じゃあ、来年も今年と同じく悪党らしくえげつなく生きていきましょう! いただきまーす!」
「いただきまーす!」
ディアボロスのクソッタレどもにぶっ壊されたのをなおして以来の全員集合である。
印刷所軍団もいるし、〈ラ・シウダデーリャ〉、〈ハンギング・ガーデン〉もいる。
今日は無礼講。
メシ食べながらババ抜きしてもいいし、天井に銃をぶっ放してもいい。
奇声もあげれば、頭突きもするし、粗相はジャンピングフラッシュ土下座で清算。凄惨な清算。ダジャレもいくらでも言っていい。
何の脈絡もなく語尾にござるをつけてもいいし、ケーキのことをスイーツと呼んでもいい。
これぞ無礼講よ。
六時半になって、宴もたけなわになると、西棟――キャンディストアになっている一階のドアを叩く音がした。
「誰よ、こんなときに」
「騒音にムカついてるのかな?」
「マスター」
「頭領」
「ミーツールー」
「なんだよ」
「下、見てきてよ」
ボスを顎で使う殺し屋がどこにいるってんだ、ぶつぶつ、と言いながら、一階に降りる。
ざっと見た感じ、売り物のキャンディの減りが速いので、あいつら、また太るぞ、なんて思っていると、カーテンを閉じたドアがバンバン叩かれた。
ドアを開けた途端、ズドンな可能性もあるが、年末年始に働きたがる殺し屋なんてそうそういないだろう――と、思いつつ、食堂に戻って、〈インターホン〉に声をかけ、一緒に来てもらい、その上でドアと対話する。
「どなた?」
「仕事を頼みたい」
「今日は十二月三十一日だぜ」
「分かっているが、急ぎ頼みたい仕事があるんだ」
ふーむ。貴族かな。言葉のイントネーションがそんな感じだ。
「一応、当人たちにきくだけきくけど、きっとやりたくないって言うぞ」
で、結果は――
「却下」
「却下なのです」
「却下よ、却下」
ジルヴァも黙って、ふるふる、と首をふった。
「誰も仕事したくないって」
「くそっ。もう、いい。時間がない」
馬蹄が通りに響く。
ちょっとドアを開けてみると、人馬一体のでかい影が寒々しい路地をリーロ通りへと走っていく。
もうちょっとドアを開けようとすると、斧や山刀を手にしてたいまつをメラメラ燃やした危ない連中が「どこだ! どこに行きやがった!」とわめいていた。
極めて危険な連中だ。そして、そいつらと目があってしまった。
「おい、やつはどこだ!」
おれはリーロ通りを指差した。
極めて危険な連中は木靴をバカバカ鳴らしながら走り去った。
別にアリガトウの言葉は期待していない。だって、極めて危険な連中だったから。
「ボス。あいつらの何が危険なんすか?」
「あいつら、カタギだよ。それが斧なんか持って街をうろついてる。よっぽどのことが外部の環境か当人たちのオツムに起こらない限り、あんなことしないよ。カタギは」
「そんなもんすか」
「そんなもんす。さ、行こうぜ。宴の再開だ」




