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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カナリア島 ラケッティアホリック編
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第十一話 ラケッティア、ちみの名は。

 二日前にカラヴァルヴァからやってきた白鑞商人からきいたのだが、カラヴァルヴァは急に冷え込んで大変らしい。


 みんな、おれがリゾート地でバカンス楽しんでると思ってるんだろうな。


 選挙で不正しようとしているなんて思うまい。


 手ぶらの庶民が有権者になり、賢しい連中はその権利とやらを現金化する手段を早速模索し始める。

 その需要と供給にこたえるのがラケッティアだ。


 とりあえず今、するべきは入り江に流れ着いた〈命の水ウイスキー〉の壜を拾い集めるところから始める。

 

「マスターはもっと派手な活躍の場をよこせーっ」


「よこせーっ」


「だからどきどきわくわくなゲームを用意しただろ。浜辺に流れ着いた壜を拾えゲーム。一番多く拾ったガールには〈命の水ウイスキー〉一本プレゼント」


「そんなのいらないわよ。わーわーわー」


「わーわーわーなのです」


 選挙や有権者という言葉がガールズたちに権利意識を芽生えさせ、声を上げることを覚えさせる。

 そのうち、暗殺業界のゼネストとかを指導する立場になるかもな。


「お前ら、文句が多いぞ。こんなこと言う日が来るとは思わなかったが、ヨシュアやリサークを見習え」


 ヨシュアとリサークは服を脱ぎ捨てて、海に飛び込み、イルカみたいにウオーッと泳ぎ、一本でも多くの壜を集めようとしている。


 壜を多く集めたほうが壜で関節キッスというデマを信じてな。


 いや、おれ、下戸だから。ゲコゲコ。


 その昔、来栖一族では関節キッスを回避して壜の酒を飲む技術が考案された。

 大きく開けたお口にちょろちょろと酒を流し込むのだ。


 いや、でも、おれ下戸だから。ゲーコゲコ。


「あの――」


「うん?」


 振り向くと、やんごとなきカナリア色のドレスを着た見目麗しき美少女が立っている。


 その後ろにはビーズでにぎにぎしく飾り立てた白馬四頭立ての馬車があり、小麦粉をかけた召使いがふたり乗っている。


 この世界、馬車を見れば、その人の経済力が分かる。

 昼間に乗る馬車と夜に乗る馬車を分けているのが金持ちで、夜に乗る馬車でも劇場に行く馬車と夜会に行く馬車を分けるやつは超金持ち。

 昼も夜も同じ馬車に乗るのは偽セレブだ。


 そして、この世界に生きる人間のほとんどは馬車をもたない。辻馬車の御厄介。

 辻馬車にもランクがあるが、面倒なので省略。


 後は農村の荷馬車である。


 その判定で考えると、いまおれに話しかけているのは超超超金持ちだ。

 年齢をそろえた白馬四頭というのはそうそう手が届くものではない。


 ああ、おれは何やってんだ?

 目の前に美少女がいる。それなのに馬車の話をしている。

 ここは鼻の下を伸ばしてガールズに制裁を受けるのが定番だろうに。


 まあ、とりあえず――、


「何の用でしょう? 我々は決して、酒類の密輸をしているのではありません。これは海洋環境保護活動です」


「はい。それで、あの」


「はい?」


「あの――あちらのおふたりの殿方のお名前を教えてくださいまし」


 見た感じどんな美少女かというと、爆発しないウェティア。

 爆発ばかりが取り沙汰されるが、ウェティアの見た目はヤバいくらいヤバい。

 これぞエルフ! これぞ金髪美少女!

 でも、爆発します。


 以前、道を歩いているエルフの吟遊詩人にエルフは爆発する種族なのかとたずねたら、何言ってるんだ?って顔された。


 さて、とりあえず、おれの選挙戦略はあのふたりの知名度を上げるところから始まるのだから、


「あっちで壜集めてるのがヨシュアで、あっちで壜集めているのがリサーク」


「どちらの方も壜を集めているようですが?」


「蒼白いほうがヨシュアで、色黒なほうがリサーク」


「ヨシュアさまとリサークさま――」


 なんかときめいた顔してる。ヨシュアとリサークが助けた総督の隠し子かなあ?


「あのぉ、失礼ですが、お名前うかがってもよろしいでしょうか?」


 その後、ソフィア、の後にピカソの本名クラスの長い名前が続いた。

 そのなかにサリニャーナの名前があったので、本土で傭兵の取りまとめしてるサリニャーナ侯爵と親戚ですかといったら、やつは家来筋の分家だという。

 こっちは公爵令嬢のソフィアさん。

 そして、総督の隠し子だったお姫さまじゃない。


 別荘へ行く途中で海を見て、素敵な殿方を見かけて、こんなこと恥ずかしいこととは思いながらも、自分で名前をきかずにはいられなかった、らしい。


 しかし、これは序章に過ぎず、この後も超金持ちな馬車がひっきりなしにやってきては、あの殿方のお名前は?ときた。


 どの少女もブラジル皇帝ドン・ペドロ二世クラスの長い名前を持っていて、みんなそのなかにサリニャーナの名前があった。そして、みんながサリニャーナ侯爵は分家の家来だと言った。

 みんなの家来ってわけだ。


 こんな島にたくさんの上級貴族がいるのだなあ、と思ったが、カラヴァルヴァでも寒いくらいの本土なら、温かい別荘に来るのも当然か。


 しかし、これで選挙戦略に道が開けた。


 女性の選挙権確保と投票年齢の引き下げ。

 具体的には十二歳からの選挙だ。

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