第二十八話 ラケッティア、サンタ・カタリナ連合会結成。
場所は傭兵たちに行商を割り振ったサンタ・カタリナ大通り沿いのイワシ倉庫。
アンチョビの樽を端に寄せてつくった空きスペースで傭兵テキヤが集まって、サンタ・カタリナ連合会の結成式が始まった。
これまでも行商人の互助組織みたいなものはあったが、だいたいがお菓子売り、ブラシ売りと商品ごとに分かれていた。こんなふうに行商という横のつながりで、これほど大規模なものは初めてだろう。
媒酌人というか見届け人というか、とにかく誰かファミリーの人間が出ないと始まらないし、マルムハーシュの強い希望でヴィンチェンゾ・クルスがやってきたのだが、いきなり五十八回も『よろしく』を言われた。
よく分からんのだけど、まあ、細かいことをあれこれ言ってもしょうがない。
傭兵たちは戦時大隊の結成式を真似て、いろいろ祝詞を述べたり、推薦人の言葉やらを言い出したりして、最初はテキヤ系暴力団の結成式だったが、後半は中学の生徒会選挙になっていた。
生徒会選挙では投票会場を襲撃して投票箱を奪いアカの票を焼き捨てたり、スマホ・ジャンキーどもに何度も投票させたりといったマフィアみたいな票の取りまとめを行い、生徒会長に恩を売りたかったのだが、いかんせん生徒会長という仕事は一部のかっとび母ちゃん以外には誰もなりたがらず、ひとりしか立候補しないから、何もしなくても、みなその母ちゃんに入れる。
ところが中二のとき、公民の授業で選挙では不信任という選択肢があることを教えられ、ほう、そんなものがあるのかと思い、おれはかっとび母ちゃんの名前に○をつけなかった。
まあ、おれひとりが入れなかったからといって、どうってことないだろ、と思ったら、不信任の話はかなり広まっていて、今まで馬鹿みたいに○を書いてきたが、それ以外の選択肢を教えられたら、やってみたくてうずうずしてくる。で、やりました。
母ちゃんの得票率はまさかの一桁。母ちゃん大泣き。
先生激怒。真面目にやれ!
選挙がやり直され、今度は得票率100%。ドミニカ共和国の独裁者ラファエル・トルヒーヨだってこの数字は弾き出せない。
まあ、こっちは別にかっとび母ちゃんに恨みがあるわけではないし、むしろ生徒会長という貧乏くじを率先して引き受ける母ちゃんにはただ頭が下がるばかりだ。
悪気はないんだよ。ただ、○以外の選択ができたからしただけ。
それにおれは空欄にしただけだし。
野川や鎌井みたいにでっかく赤鉛筆で×を書いたりしなかったし。
だいたいマフィア的な選挙妨害や買収ができない生徒会選挙なんて意味がねえんだよ。
よくアニメとかで生徒会選挙が主人公とライバルの熱い戦いになったりするけど、あんなの見たことがねーよ。
別の学校に入ったダチりんこにきいたことがあるのだけど、そいつのとこの生徒会選挙では必ずふたり立候補させないといけないらしいのだ。
おうマフィア的選挙妨害できるやんけ、と思ったけど、ひとりは本気で生徒会長になりたくて、もうひとりは頭数をそろえるための生贄。
そしたら、ちょっと魔が差したのか、自分ひとりなら問題ないだろって生贄に投票したら、得票率100%。
本気母ちゃん大泣き。生贄蒼白。
先生マジ切れ。真面目にやれ!
で、選挙をやり直した結果、母ちゃんがぶっちぎりで当選。
衆議院選挙の投票者の年齢を下げるって話が現実日本でもあったけど、そのときはこの生徒会選挙の逸話を思い出したほうがいいかもしれない。
昔の選挙を思い出していたら、サンタ・カタリナ連合会の出来レースも終わって、無事ミカエル・マルムハーシュが当選した。
就任演説は「?」である。
こうして今日からどこぞの馬鹿が彼らを引っぱって傭兵隊に入れようとしたら、全員で全力で阻止するという第一鉄則が出来上がった。
結成が決まると、それぞれの傭兵がイエーイ!とそれぞれの元商売道具を真上に掲げた。
剣、槍、火縄銃、魔法、弓。なんでもござれ。
テキヤ系となめると痛い目に遭うイケイケ武闘派組織である。
しかし! イケイケ武闘派テキヤ系暴力団にも、事務総長というか、まあ、本部の建物を管理して、いろいろな事務作業をやるやつが必要だ。
「で、それを誰にするんだね?」
おれがマルムハーシュにたずねる。
きっと少年のようなあどけなさで「?」としてくると思ったが、
「大丈夫だよ。ひとり、心当たりがある」




