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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
〈ハンギング・ガーデン〉 ロムノス釣り紀行編
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第十二話 ラケッティア、テキヤGメン・ミツル。

 みんなのテキヤを守るため、テキヤGメンは今日もゆく!


 いや、ちゃんとやってるか、というかやっていけそうかをね、見ていこうと思うのです。


 酒飲んでないか、人殺してないか、ベビーカステラが『ちんちん』と呼ばれることを知らずパニくってないか。


「マスター、ちんちん買って!」

「アレンカもちんちんが欲しいのです!」

「えーと……おれも、ちんちん欲しいです」

「わたくしも姉さまのおみやげにちんちんを――」


「おおお、女の子がちんちんとか言うんじゃありません!」


 たまにはハーレムらしいことしようと目についた女の子全員誘って、テキヤ巡視ツアーをやってみたわけですが、パニくったのはおれのほうでした。


 いや、おれの地元のお祭りじゃベビーカステラのこと、ちんちんって言ったんですよ。

 嘘じゃないっすよ。


 ちなみにあのとき、いまきかなかったら、一生きけないと思って、ちんちん屋のおっちゃんになんでちんちんなんて名前なのかきいたんだけど、ちんちんを焼くあの大きな機械。ぐるっとまわしてちんちんを焼くやつ、あのぐるっとまわしたそのときに留め金が鳴って『がちちちちちちちちん』って音がするからちんちんって呼ばれるようになったらしい。つまりちんちん電車と同じ理屈。


 まあ、それならいいのだけど、そのおっちゃん曰く、同業者で悪乗りしたやつがいて、たい焼き機をつくるメーカーに特製の焼き型を注文したのだが、それが、亀の頭の棒一本タマタマの雄性配偶子関連のまさにあのちんちんの形そのままのカステラをつくって、ちんちんとかのたもうた。

 PTAは大激怒。ただ、警察は民事不介入ってことでギリギリ許した。

 ところが、そのテキヤ、何を勘違いしたのか調子に乗って、なかにカスタードクリーム入れて焼きやがって、さすがにそれはということで警察から地元のテキヤの親分に連絡が入って、そのちんちんはお蔵入りになったそうだ。


 すごいな。

 初めてPTAが正しいって思えたよ。


 それと、おっちゃんは知り合いの話と言っていたが、どうもあれはおっちゃん本人がやったんじゃないかと思う。


 さて、この失業傭兵が売っているちんちんは――つまり、よい子のパンダのみんながベビーカステラと呼んでるちんちんは白ワイン通りのパン屋でつくったもので、それを下に火のついた石炭を仕込んであるバケツにいれて、天秤棒の前後に割り振って売り歩いている。だいたい数人の売り子がいる。


 このちんちんをつくるときに、飢饉などで市の食糧事情が著しく悪化したときはパンと等価でちんちんを売ること、という市との誓約書にサインさせられた。


『パンがなければちんちんを食べればいいのよ』というわけだ。


 さっきからちんちんちんちんって言ってて悪いけど、おれにとってベビーカステラってのはコンビニの百均ブランドの鈴カステラのことであって、お祭りで一袋五百円で売っているあれはちんちん以外の何物でもないわけ。

 これはガキんちょのころからの刷り込みだから勘弁してほしい。


     ――†――†――†――


 サトゥルニノ・ガルバーノはかつての王国軍第三傭兵大隊の伍長で、背がすげえ高い。

〈インターホン〉ほどではないが、百九十センチは間違いなく超えている。


 くすんだ金髪で目つきが怖い。

 名前は南国風だが、実際の生まれはたぶんどこかの雪国だろう。


 得物は剣と斧の二刀流だ。


 これはそんなに珍しくない。

 ジルヴァやジャックがときどきやるのだが、ふたりの場合、逆手持ちにした短剣と手斧だ。


 ところが、このガルバーノはロングソードとバトルアックスで二刀流をするらしい。


 なんかおっかないので、みんなでジルヴァの背に隠れるのだが、ふたりがお互いの目を見合っていると、ズゴゴゴゴゴゴとか効果音がなりそうだ。


 さて、このガルバーノがやっているのはトロルの油売りだ。


 トロルというのはゴブリンよりもオーガよりもデカい魔物で、こいつには強い自然治癒効果がある。

 そのトロルの脂肪分を煮詰めてつくったのがトロルの油。


 見た目は白くてラードに似ているが、ちょっとした切り傷から乾燥肌まで何でもござれの塗り薬なわけだ。


 実際、需要はかなりあり、非常に儲かる魔物討伐系クエストの筆頭的存在――それがトロルの油なわけです。


 ちなみにダンジョンなどで出されるトロル討伐のクエストは駆け出し冒険者の味方だそうな。

 駆け出し冒険者で倒せるような魔物じゃないが、三十人くらいでいっせいにヤッと襲いかかれば、なんとかぶち殺せるらしい。


 ひとりでゴブリン三匹狩るよりも、三十人でトロルを狩ったほうが割りがいいし、安全でさえある。


 それにトロルを三十人で狩るというのは向上心につながる。

 つまり、この儲けをひとり占めできたらと考えるわけだ。


 で、そこそこ腕に自信が出てきたやつがトロルにひとりで挑む。

 初心者と上級者にとっての資金源なトロル討伐は中級冒険者の墓場というわけだ。


 ガマの油に似ているトロルの油だが、売り手に求められるのはよくまわる口上ではない。

 むしろ、しゃべってくれないほうがいい。


 トロルをひとりで片づけられそうな剣士が効能について、べらべらしゃべってはいけない。

 何もしゃべらず、剣の柄に両手をあてて座り、じっと往来を眺める。


 すると、客は、こいつならひとりでトロルを倒せそうだと思う。


 何分、トロルの油は売れる一方で偽物も多い。

 そして、偽物を売るやつはたいてい口がまわる。

 ペテン師の宿命だ。


 それよりは口下手の傭兵剣士をひとり、トロルの頭蓋骨を置いた売り台の隣に座らせたほうが信憑性がある。


 言っておくけど、おれが売らせてるのはちゃんとした本物のトロルの油だよ?

 まあ、関所の下にトンネルつくったから税金払ってないけど、モノは本物。


「ぼちぼち売れてます?」


 ガルバーノは物凄くしかめ面しながら、ズゴゴゴゴとおれを見つめ、うなずいた。


 こえー。こえーよ、この人ぉ。


 きいてないから、っていうか、きくのが怖いからきいてないんだけど、この人、マジでトロル倒してそう。ひとりで。素手で。


 いや、この人、めっちゃ怖いよ。


 どのくらい怖いかというと、カネにがめついカラヴァルヴァの住人がお釣りの間違いを訂正するくらい怖い。


 トロルの油はひしゃく一杯銀貨一枚。


 そこに客が大銀貨一枚を払う。

 大銀貨一枚は銀貨六枚相当だから、お釣りは銀貨五枚。


 ところがガルバーノはお釣りとして大銀貨五枚を渡してしまう。

 カネに無関心すぎるだろ。


 買い物したら所持金が五倍に増えるわけだから、まあカラヴァルヴァの人間なら十人が十人、そのままがめる。


 が、ガルバーノを相手にはカラヴァルヴァっ子もお釣りの間違いをきちんと報告する。


 だって、お釣りをがめたら、お前は悪い奴だ死ね、っていきなり襲いかかってきそうなんだもん。


 それにお釣りを払うときは顔が一段と険しくなる。

 性善説が正しいかどうかをお釣りの受け渡しで見極めようとしているかのようだ。


 お釣りをごまかすやつには死あるのみ。そんなルールがあるのかどうかきいてみたい気もするが、怖いから無理。


 この調子でいけば、カラヴァルヴァのお母さんたちはわめくクソガキに『サトゥルニノ・ガルバーノがやってきて塩をかけて食べちゃうよ』と脅かす日はそう遠くない。


 さて、次の失業傭兵をたずねよう。


     ――†――†――†――


 女傭兵アマビスカ。

 これが名前なのか名字なのか知らん。

 おれがもらったリストにはこうとしか書いてない。


 というか、傭兵目録にはこういう記述が多い。

 給料支払う以上、きちんと名字と名前を確かめるものだろうが、それをしないあたり、やつらはハナッから給料を支払うつもりがなかったということだ。


 アマビスカはランツクネヒト隊の剣使いだった。


 ランツクネヒトというのは何かの罰ゲームみたいなド派手な服装の傭兵で、とかく乱暴で生き方考え方が刹那的な連中だ(ちなみに中学生だったとき、誰かの家に遊びに行ったら、そいつの妹のプリキュアの変身セットがあったので、トランプで負けたやつがそれを着て、近くのコンビニに行くってのをやったことがあり、佐々木が負けた。やつはプリキュアに変身しておれたちのためにコーラを買いに行ったのだが、その途中で祭りの神輿とすれ違ったらしい。それ以上は知らん)。


 このランツクネヒト、たいていはヒゲのむさいおっさんがなるものだが、そこに女ひとりで飛び込んだあたり、アタシをなめんじゃないよ的な気負いが感じられる。


 戦場で好きな服を着てもいい。司令官よりも派手な服を着てもいい。

 これらはランツクネヒト隊の特権である。

 そのかわり、他の傭兵よりも危険な戦いに使われる。


 だから、アマビスカは戦場に出るのと同じ服装で正業に就くことになった。


 彼女におれがあてがったのはアヒル舟だ。


 これはカラヴァルヴァの海運と渡り蟹料理を担う重要な仕事だ。

 小舟にアヒルを入れた籠を積めるだけ積んで河口へ下り、河口からカラヴァルヴァに戻るときは渡り蟹を入れた籠を積めるだけ積んでさかのぼる。


 なんでこの仕事にアマビスカを登用したかというと、この人、ツヴァイハンダ―の使い手なんです。


 中二っぽい名前でわくわくしたよい子のパンダのみんなもいるかもしれない。

 まあ、実際は両手持ちの剣のことだが、これが自分の背丈ほどあるでかい剣なのだ。


 それにこの剣には鍔の上に金属製の輪っかがついていて、そこと柄の端を握って、鐘でもつく要領で刺すと特注のプレート・メイルをつけた騎士を串刺しにできる。


 こんな強力な兵器だが、まあ、とどのつまりは鉄の棒。

 鉄の棒を両手でふりまわす力があるのなら、ぜひともアヒル舟の櫂を操るのに使っていただこう。


「ずっと不思議に思ってたんだけど」


 と、アマビスカが言う。

 いま、河岸の桟橋で河口から積んできた蟹を魚市場の人夫たちがどんどん降ろし、そして次のアヒルたちが籠から首を出してガアガア鳴いている。


「なんでアヒル舟って言うんだい? 蟹も載せるんだろ? じゃあ、蟹アヒル舟って言うのが筋じゃないのかい?」


「さあ。おれにきかれても困る」


「蟹がかわいそうだよ、これじゃ」


「アヒルもかわいそうっすよ。結局、食われるし」


「まあ、そうだけどさ」


 一度河口とカラヴァルヴァを往復すれば大銀貨一枚になる。


 三往復すれば大銀貨三枚。

 日給九千円。バイトとすれば割がいいかもしれない。

 差っ引かれる税金もないし。

 四往復、あるいは五往復できる日もある。トロルの油売りよりもいい仕事だ。


 ただ、アヒルが集まらなかったり、蟹が不漁だと一往復もできないなんてこともあるから、油断ならない仕事だ。


「それでも貴族どもよりはマシさ」


 と、アマビスカ。


「侯爵ってのは手元に自分のカネがないときは太っ腹でね。そなたの奮闘に対する褒賞として金貨三枚をさずける!なんて言うんだよ。それで払ってもらったことはないんだけどね。で、侯爵に直談判しようとすると側近どもが立ちはだかって、会計官にきけっていうから、会計官のとこに行くと、主計官のところに行けって言うんだよ。で、主計官のところに行くと、帳簿係のとこに行けっていう。で、帳簿係のとこに行くと、そんなカネはない! 会計官にきけ!ってことになって、ふりだしに戻るわけ。何度、あいつらまとめて串刺しにしてやろうかと思ったことか。もう褒賞ももらえなくてもいいし、おたずねものになってもいいから、あいつらまとめて焼き鳥みたいにしてやれたらって、何度も本気で考えた。でも、思ったんだ。払えるカネもないくせにみんなの前でかっこつけた、あの侯爵のウスラバカが悪いんだってね。だから、やっこさんの胴をぶち抜くチャンスを狙ったわけだけど、そんなふうにしているうちに休戦になっちった。それに比べれば、アヒルが集まらない蟹が死にたがらないなんてかわいいもんだよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 屋台でベビーカステラを見かけるようになったのは5年くらい前からですかね… ちゃんと屋台の垂れ幕みたいな看板にはベビーカステラって書かれてましたw 縁日やお祭りでヤの付く自由業の方々は締め出…
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