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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
〈ハンギング・ガーデン〉 ロムノス釣り紀行編
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第七話 出入り要員、ひゃっはー。

 出入り決定の翌日、来栖ミツルが用意した五台の荷馬車に分乗した五十七名の腕っぷし自慢たちがサンタ・カタリナ大通りを西へ下って、ディアボロスが買ったというレストランへ向かった。


 ちょうど開店日でカラヴァルヴァと東セヴェリノから送られた花で店の前は埋まっていた。


 一見すると紳士らしい男がレストランの花の前で立ち止まり、付け木をのせて、火打石を打ち始めた。花はメラメラと燃え始めた。


「おい! なにしてる! あんただよ! おい!」


 店の表を見張っていた用心棒らしい若者が紳士のほうへ駆け寄ると、別の男が用心棒の足を引っかけて転ばし、それからはどこからあらわれたのか数人の男が倒れた用心棒を寄ってたかって、蹴りまくった。


 すでに店の前には馬車が五台止まっていて、荷台から次々に武装したならずものが飛び下りて、花を倒し、店の表のガラスを割りまくった。


 メリケンサックと砂鉄入りの小さな棍棒を持った男たちがレストランに殺到して、見かけた人間を片っ端から殴り、蹴り、突き倒し、壜で頭を殴る。

 店内は混乱の巷で客たちは逃げ惑い、ディアボロスのメンバーは叩き潰され、床を四つん這いにテーブルの下に逃げようとするが、すぐ足を掴まれて引き戻され、蹴られまくる。


「皆殺しにしろぉ!」


 カサンドラ・バインテミリャが叫ぶ。フルスイングを受けた用心棒が腰を曲げて、そのまま鏡に突っ込むと、割れた鏡に顔を押しつけ、肘で打ち据えた。


 皿や壁の絵に棒を叩きつけ、ディアボロスたちを壁の隅に追い込んで、そこで好きなように殴り蹴る。


〈インターホン〉たちは裏口から入って厨房に出た。

 若いコックが肉を焼いていて、パイプを吹かした四十がらみのチンピラ風の男がちらりと目を上げて〈インターホン〉を目にすると、手に持っていた艶本を置いて立ち上がった。


「なんだ、てめえ。コックになりにきたのか?」


〈インターホン〉の振り下ろすような右フックがチンピラの頬に入ると、チンピラは床に一度バウンドして、オーブンまで吹っ飛んだ。


「店じまいだ! 出ていけ!」


 コックたちが逃げると、樽の水に頭を突っ込んで、髪についた火を消そうとしていたので、その足をつかんで引っ張り上げ、逆さにして樽に突っ込んだ。


 きっかり二十秒数えてから引き上げるとチンピラはむせて水が〈インターホン〉の顔にはねた。


「賭場に行く階段を教えろ。あと、ここで売ってるヤクも全部出せ」


「くたばれ!」


 ぶくぶくぶくと三十秒。


 また引き上げると、チンピラは少し素直になった。


「調理台の下だ! そこに留め金があるから外せばいい!」


 チンピラを放り捨て、調理台の下の果物箱の後ろに隠れた留め金を外すと、天井が十個の箱に分かれて落ちてきて、それを吊るす長さの違う鎖がじゃらっと鳴って、階段になり、一方、反対側の汚れた壁が開いて、下り階段があらわれた。その階段からは〈蜜〉の甘ったるいにおいがする。グラムが賭場へサアベドラが地下へ向かったので、〈インターホン〉も地下へと走った。だが、階段口が小さすぎて額をもろに打ち、くそぉ、とうめく。


 サアベドラが階段を駆け下りて、扉を蹴破ると、〈蜜〉でラリッた客たちを踏みつけながら、水キセルを蹴飛ばして割った。

 ヤク中たちは大切なヤクを台無しにされて悲鳴を上げながらサアベドラに立ち向かったが、彼女はこれに全て頭突きでこたえた。


 ディアボロスの組員たちは別で、ナイフやピストルを手にサアベドラに襲いかかる。


 サアベドラは一番丈夫そうな分厚いガラスの水キセルを取り上げると、管や火口を引きちぎって、水がまだたっぷり入ったキセル壜をそのまま棍棒に使った。


 ひとり目は袈裟懸けに振り下ろされた一撃でそのまま倒れ、ふたり目はナイフを振るって、肩にかすり傷を負わせたが、すぐ反撃で壜で顔を突かれて、歯が全部折れ鼻骨が陥没するほどの目に遭い、仰向けにひっくり返った。


 その後、三人目が後ろからサアベドラを羽交い絞めにし、四人目と五人目と六人目はいっせいに襲いかかり、肩にナイフが刺さり、頭を三度思いきり、棍棒に殴られたが、サアベドラは壜を後ろにまわして床を蹴って仰向けに倒れ、三人目の顔を壜と自分の頭で上下に挟み、グシャッという音が鳴るほど強く打ちつけた。


 羽交い絞めから解放されると、ピストルの弾をすれすれで避けて、近くにいた四人目のチンピラに闘牛のように頭から突進し、相手の腹を捉えると、体じゅうの空気が抜けるような声をさせ、そのままテーブルや花瓶やよろついたヤク中を薙ぎ倒しながら壁に激突した。


 肩に刺さったナイフを抜き、その刃を素手で曲げて割ると、六人目が撃ったピストルの弾がサアベドラのこめかみの上に見事命中した。


 これで死んだと思ったが、実際は脳漿がまき散らされるかわりに潰れた鉛玉が下に落ち、ドクドクと血を流すサアベドラが首を左右に倒して、コキコキと音を鳴らすだけ。


 五人目と六人目は恐怖のあまり、背を見せて逃げようとしたが、そこで逃がしていてはサアベドラの名がカラヴァルヴァじゅうに語られないのである。


 五人目の後頭部にキセル壜を投げて、一発ダウン。壜は最後まで割れることはなかった。


 六人目はサアベドラが捕まえて、顔面に金物付きの手袋をはめた拳をお見舞いし、後ろに吹っ飛びそうになるのを服をつかんで引き戻して、顔面を殴るというのを五回ほど繰り返して、最後に胸を蹴飛ばすと、六人目は後ろ向きのまま〈薬品倉庫〉と書かれた扉をぶち破ったのだが、そこから火が出て、六人目は炎に包まれた。


 そのころ、二階の窓からはディアボロスの組員が次々とガラスを破って、前の通りに落ちていった。

 

 カードとチップが飛び散り、カウンターの上にはガラス片が散らばり、グラムは大きなコブがある棍棒でひとり叩き潰すごとにナイフで刻みを入れていた。刻みは斜めに四本入れるたびに五本目をその四本の上に引いていて、そのなかには名の知れたナイフ使いや暗殺部隊の上級メンバーもいたが、グラムはサツ以外の人間は差別しない人格者で、どれも平等に叩き潰した。


「サツだ!」


 カサンドラ・バインテミリャの声がして、みな大急ぎで店から出た。

 グラムは〈インターホン〉とサアベドラと一緒に最後の馬車で逃げたが、そのころには治安裁判所と聖院騎士団がやってくるのが遠目に見えた。


「ちくしょう」


 グラムが呻いた。棍棒についた血をボロきれで拭っていたのだが、これを見てくれ、と言って、刻みを叩いた。


「あとひとりでちょうど百人だったのによ。サツが来なけりゃなあ。よし、決めた。百個目の刻みはサツにするぞ」

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