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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
カラヴァルヴァ ケッレルマンネーゼ戦争編
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第二十九話 怪盗、十月四日夜。

 おれに力があったら。


 そう思わずにはいられない。


 人を殺せる術があれば。


 だが、ストリモールはダメだと首をふる。


「怪盗クリスに殺しは似合わん。これ以上、いい腕の泥棒がいなくなるのを見たくない。それは〈砂男〉も一緒だ」


 ストリモールは施療院に運ばれた〈砂男〉を見たのだ。

 安らかに眠っているようだったが、肋骨より下は内臓も背骨も吹き飛んでいた。


「カルロス・ザルコーネに」


 ストリモールはグラスをかかげた。


「やつは洗練とは何かを知っていた。錠前製造ギルドが満を持して送り出したダニエーロ式金庫を一番最初に破ったのはやつだった。錠前ギルドはギルドのプライドをかけて、その改良型のセント・クレアーナ式金庫で挑んだが、〈砂男〉はいとも簡単にそれを開けた。〈鍵〉の盗賊ギルドを全国に知らしめた。まさに泥棒のなかの泥棒だった」


「飲み過ぎだ。ストリモール」


「クリス。覚えているか。ほんの二日前、そこに〈砂男〉がいたんだ。ジンか何かを飲んでいた。眠そうな目をして、自分の口ひげを噛みそうになりながら、みんなに祝福されたんだ。なのに死んじまった。神さまは盗賊の祝福がお気に召さないらしい。でなきゃ、どうして〈砂男〉があんな死に方をしなきゃいけないんだ? ディ・シラクーザはケダモノだ。ポルフィリオ・ケレルマンよりもひどい。にこにこ笑いながら、背中から刺すような真似しやがって。ぶっ殺してやる」


「あんた、おれに自重しろっていったばかりだろうが。あんたが死んだら、おれは誰からガジェットを買えばいい?」


「リザリアがいる」


「わたしはまだ修行途中だから」


「ああ、リザリア。そこにいたのか。なあ、クリス。リザリアにあの話をしてやってくれよ。ほら、お前さんがマキド侯爵の屋敷に忍び込むとき、裏口の扉を開けるために〈砂男〉と組んだあの話を。〈砂男〉はどうやって扉を開けたんだっけ?」


「蹴り破ったんだよ」


「そうだ。傑作だよなあ。〈鍵〉の盗賊ギルドのギルド長がさ。華麗な鍵開けを期待してたら、一撃で蹴破ったんだ。あいつにはユーモアのセンスってもんがあった。傑作だったよ。ホントに。ああ、くそ。涙が止まらねえ。まったくざまあない。そうだ。カラヴァルヴァじゅうの泥棒でディ・シラクーザの家に押し入って、なかにあるもの全部かっぱらってやろう。全部だ。錆びたフォークみたいなもんも全部。それで二束三文で叩き売ってやるんだ。あいつを一文無しにして、この街から叩きだすんだ」


     ――†――†――†――


 その後、すぐに倒れて、ぐーぐーいびきをかきだしたストリモールをリザリアとふたりで二階まで引きずっていき、ベッドの上に放り出す。


 今度はクリストフとリザリアがテーブルにつき、きついジンをちびちびとなめながら、〈砂男〉に関する思い出を話していた。


 そのうちリザリアは思い出したように〈聖アンジュリンの子ら〉のルイゾンのことを思い出した。


「施療院で会ったの」


「おれ、あいつに正体が割れたんだよ」


「誰にも話すつもりはないって。〈聖アンジュリンの子ら〉は特殊だから、その手のルールくらいは認めてくれるって言ってたわ」


「それなら助かるけど。でも、それだけじゃないんだろ?」


「〈聖アンジュリンの子ら〉は暗殺もやる。詳しくは言わなかったけど、ディ・シラクーザは暗殺要件を満たしたんだって。ルイゾンは是非とも暗殺したがったけど、結局、治安裁判所と聖院騎士団にゆずって逮捕することにしたって」


「本人の悔しさは分かるよ」


「でも、司法官だから。それには従わないといけない。それに〈聖アンジュリンの子ら〉はドン・ガエタノを逮捕したことが今回の騒ぎにつながったと思ってるから、少し抑えているみたい」


「あいつらだって、ディ・シラクーザに更生の可能性が全くないことは分かってる。ぶっ殺したほうがいいことだって。でも、法律家はおれたちには分からない理屈で動いているわけだし」


「ドン・ヴィンチェンゾは? ディ・シラクーザについてどう思っているの?」


「特に何も言っていない」


 これは本当だった。


「まるであいつのことを忘れたみたいだ」


 これは嘘だった。


「でも、今度のことに頭にきてるのは間違いない」


 これは本当だ。


「そう……」


「あいつの屋敷に忍び込む」


「でも、それは――」


「狙いは命じゃない。帳簿だ」


「帳簿?」


「やつの裏商売に関するカネの動き全部をつけた記録があるはずだ。それを盗み出す。そいつはきっと金庫に入ってるはずだ。それを破る。それが〈鍵〉のギルド長へのおれの手向けだ」

ポルフィリオ・ケレルマン派(ポルフィリスタ)

†ポルフィリオ・ケレルマン 10/1 殺害

†ミゲル・ディ・ニコロ 9/9 殺害

†パスクアル・ミラベッラ 10/1 殺害

†ディエゴ・ナルバエス 9/25 殺害

†ガスパル・トリンチアーニ 10/2 殺害

†ルドルフ・エスポジト 9/8 殺害

†アニエロ・スカッコ 9/12 殺害

†ピノ・スカッコ 10/3 殺害



フランシスコ・ディ・シラクーザ派(フランキスタ)

フランシスコ・ディ・シラクーザ

バジーリオ・コルベック

バティスタ・ランフランコ

†サルヴァトーレ・カステロ 9/7 殺害

†アーヴィング・サロス 9/13 殺害

†アウレリアノ・カラ=ラルガ 10/3 殺害

ロベルト・ポラッチャ 10/3 転向


〈鍵〉の盗賊ギルド

†〈砂男〉カルロス・ザルコーネ 10/4 殺害

†〈キツネ〉ナサーリオ・ザッロ 9/3 殺害

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