第七十七話 ラケッティア、全面攻撃。
宇宙滅亡の危機。
それをバーテンダー、入れ墨マニアの錬金術師、魔族の発掘人、出待ち幽霊、空飛ぶ船のAI、コケると爆発するエルフ二名、同性愛者二名、尊すぎるおれっ子幼女、血を見ると泡を吹いて倒れる暗殺者、それにラケッティア一名で回避せよというのだから、無茶な話だ。
いや、メンツが弱いっていうんじゃない。
暗殺者、元暗殺者、たまに暗殺者、暗殺者の尊い卵とスピードと技術重視のアタッカーがいて、ウェティアとフェリスで火力は十分、ギル・ローもなんだかんだで支援ができる。
カルリエドも火力加算かな。つーか、カルリエドがすげえ魔法を使えると知ったときも驚いたが、それ以上に魔法使うときのカルリエドって、まさに上級魔族って感じのしゃべり方ができるんだよ。魔族って奥が深いなあ。
と、なかなか揃ったメンバーだが、贅沢を言うなら、アサシン娘たちがいれば心強い。
「師匠たちも一緒に大砲で飛んだはずなんですけど」
「うーん。じゃあ、そのうち合流できるかな。ってことで、それまで一時停戦ってわけにはいかないかな……いかないよなぁ」
総動員でぶつかるのを離れた位置から見る。
味方の戦いぶりよりもフレイオス三十八世の不甲斐なさにばかり目がいく。
あれだけ錆の星の皇帝を馬鹿にしていたフレイオス三十八世だが、自身も結局は結晶の力に呑まれた。
言葉は通じるようだが、巨大な樹と結晶が融合した化け物になったことは変わりない。
この最上階の救済センターCEO専用の巨大サンルームから移動することもできない。
ジャックとヴォンモが吹っ飛ばされたが、空中でくるっと体勢を整えて、なんとか着地し、「まだまだぁ!」と攻撃に戻る。
一方、燃えよ爆ぜよと魔法を矢継ぎ早にぶっ放すカルリエドと刻印から守護神を召喚するギル・ローが援護して、イスラントが袈裟懸けに斬り捨て、爆弾姉妹が追い打ち爆撃を仕掛けるが、フレイオス三十八世の体と幹は斬っても燃やしても再生する。
こんなん毎ターン、ベホマかけてるようなもんじゃないかとひとりのラケッティアとしてはハラハラドキドキするのだが、気づいたことがある。
この宇宙樹の化け物、徐々に成長している。
しかも、こっちの攻撃を吸収してでかくなっているようで、青い結晶がはまった蔦が増え、体も大きくなり、ついには最上階の外郭となっていた結晶全てがメリメリと音を立てて崩れ、鉄骨が落ちてきた。
「みんな、攻撃やめ! こいつはこっちの攻撃を吸収してやがる!」
それをきき、みながそれぞれの攻撃手段を控えると、なるほど確かに成長は止まった。
止まったが、既に十分な数の蔦と毒の花と焼けつく光線を放つ飛行結晶体をまとった化け物は逆にこっちに攻勢を仕掛ける。
攻撃すると敵が強くなるが、しなければジリ貧だ。
とにかく、いまの願いはアサシン娘たちがやってこないことだ。
だって、あの子たちの攻撃が入ったら、こいつ、めちゃくちゃ成長して……。
おい、待て。これはフリじゃないからな、って思った瞬間、見よ、群青の空を落ちてくる四つの流れ星を! 見よ、その剣のきらめきを! 見よ、そのあふれん魔力を! 見よ、その絶滅の毒薬を! 見よ、その必殺の影を! と、まあ端的に言うと、これまで宇宙を飛びまくって十二分に勢いのついた四人のアサシン・ガールズが、マスター求めて、軌道をいくつも乗り換えて、ついに見つけた、よし、あいつがマスターの敵か、最高の一発をお見舞いしてやる×4でユグドラシル・モンスターに四連撃をくわえた。
その結果、やつは二倍の大きさになり、四人のガールズは出現早々、柴犬みたいにドヤ顔し、ジャックとイスラントは余りのひどさに開いた口が塞がらず。
「おお! アサシンなブラッダたち、すごすごなんよ~。ユグドラシルのブラッダ、育ったんよ~」
カルリエドだけは楽観的だ。
「くくく。まったくすごい人たちですね。おかげで力が満ち溢れるようです」
成長速度が速すぎて樹皮がついていけていないようだが、まあ成長痛のようなものなのか、あちこちに裂け目ができたが、それを見る限り、こいつの芯は例の結晶でできているようだ。
――ん、待てよ。
「オーナー、どうする!?」
ジャックが叫ぶ。
「……総攻撃」
「―ーは?」
「全員総攻撃! 持てる全てをこいつにぶつけろ!」
「きみは馬鹿なのか!? そんなことしたら――」
イスラントが信じられない様子で叫ぶが、おれは止めない。
「持てる全てだ。アレンカ、試したい破壊魔法があったら、今のうちだぞ。試しまくれ! ウェティアとフェリスも今日は無礼講だ、転びまくれ!」
「わたしも効果を確かめたい毒薬があるんだけど?」
「おう、ツィーヌ、ガンガン汚染してやれ!」
「マスター、おれも闇魔法使ってもいいですか? いつもは地価が下がるからって――」
「かまへん、かまへん! 土地の値段なんぞくそくらえ! なんなら星丸ごと瘴気で冒してもかまへん!」
みな試したい新技がある。
生身の人間や魔物相手じゃ消し飛んで、効果をつかみきれない必殺技の数々を、このサンドバッグにぶち込ませる。
イスラントだけは馬鹿げていると首をふっていたが、やつにも試したい必殺技『ギガ・ブリザード』があった。
クルス・ファミリー設立以来、最大火力の攻撃が宇宙の破滅を引き起こす元凶目がけて放たれ、その元凶であるやつはどんどん成長する。
「さすがにやり過ぎたか……」
「うー。作戦を変更する必要があるのです」
だが、おれはそんな弱気になったファミリーに引き続き総攻撃を命ずる。
クルス・ファミリー設立以来、最大火力の攻撃が新記録を更新し、またまたユグドラシルが成長する。
よい子のパンダのみんなはおれが自棄を起こしたと思っているだろうが、そうじゃない。
この広々としたサンルームには生命反応がふたつあった。
ひとつはクソガキ、もうひとつはフレイ。
だが、目に見える限り、クソガキしかいない。
じゃあ、フレイはどこにいるのか?――フレイはクソガキ樹木のなかにいる。
やつはどんどん成長していく。
だが、樹木としての成長は追いついていない。
樹皮が裂け、やつの体表面積の八割が結晶化する。そして、見えた。やつの幹の中心に――フレイがいた。
フレイを見つけるなり、おれは走った。
フレイを閉ざした青い光に頭から突っ込む。
すると、細かい泡に引きずり込まれるように沈んでいき、真っ青な海のなかを静かに漂っているフレイを見つけた。
手が届いた。
精いっぱい抱きかかえ、フレイがいつもやってくる命令系統再構築を今回はこちら側からやったのだ。
――†――†――†――
元警官は業務用ジムビームを卒業してワイルドターキーを飲み、女シンガーソングライターはヘロインをマリファナに切り換え、店のオヤジはもうスラヴ系の名字を持つギャングにみかじめを払わなくてもよくなった。
世界がほんの少しだけ素晴らしいものになった。
――†――†――†――
海の底のもうひとつの水面から弾き飛ばされるような感覚とともにおれは抱きかかえたフレイと一緒に外に転がり出た。
それと入れ違いに神聖属性以外のあらゆる属性の必殺技がユグドラシルへと飛んでいき、宇宙を支配するはずだった光の樹はドイツ軍の重機関銃で断ち切られたみたいなひどい切株を残し、断末魔の叫びを上げながら、ビルの外へと落ちていった。
尻餅をついたもの、膝からがっくりきたものと全員がへとへとになっている。
だが、ファミリー一丸となって、フレイを奪還し、諸悪の根源をぶち倒したのだ。
疲れ果てた面々は上を向いている。
屋根がぶち抜かれ、青い空にはシップが飛んでいて……。
「うそだろ」
空に巨大な〈門〉が開いていた。




