第六十九話 レジスタンス、荒野の組織。
帝都の郊外に広がる荒野に新たな抵抗組織が出来上がったという噂がやってくると、レジスタンスとして共闘が可能かどうかを判断しなければという方向に自然と話が持っていかれた。
「どのくらいの規模かは分からない。ただ、帝国軍は相当手を焼いているらしいわ」
リギッタの言葉にうなずきながら、ヨシュアはどろっとしたシチューのなかから具材を探している。
レジスタンスはあれから、クルスミツル・ウィンドウズ・カンパニーの主任社畜であるクラウツァンとヨシュアを脱税で抹殺しにくるも返り討ちにされ、帰るところがなくなった糸目の女暗殺者を仲間に入れていた。
リサークも落書き消しに使っている浮浪者たちを勧誘して、2対0のスコアをひっくり返そうとしたが、浮浪者たちはこれ以上働いていたら、酒を飲む時間も、地べたで寝転がる時間もなくなるとして拒否しされてしまったのだ。
「そこであなたたちのどちらかに共闘関係を結べそうな相手かどうか判断してほしいのだけど」
「どうだろうな。おれはクルスミツル・ウィンドウズ・カンパニーの面倒を見るので忙しい。リサーク、お前が行け」
「わたしもクルスミツル・クリーン・カンパニーの経営がある。このままミツルくんに渡しても納得がいってもらえるよう社を発展させなければいけない」
「お前の会社はただのペテンだろうが。それに比べて、おれのほうが悪の知恵をどんどん使ったミツル好みのラケッティアリングだ」
「この世に絶望して死にたいのなら、そういってくれればいつでも手伝おう」
「それはこっちのセリフだ」
他のメンバーはテーブルから飲み物と食べ物をさっと避難させる。
ヨシュアとリサークは長いテーブルのそれぞれ端と端に座っているのだが、それでもスローイング・ダガーがテーブルの上を右から左へ、左から右へと飛んでいく。
しかし、ウェティアが合流して以来、殺し合いは割と短時間で終わるようになった。
あわわ、とふたりを仲裁しようとし、どっちへ行けばいいか分からずにうろうろし始めると、すぐに停戦となる。
ウェティアが仲間になって以来、ヨシュアは使っている職人で石工の仕事もできる男に床の石で出っ張ったり、逆にへこんでいたり、つるつるしていたりする敷石を全部取り換えたが、それでもここにいる全員が爆死しかねないきわどい瞬間が何度もあったのだ。
このときもウェティアがジョニー・トーリオあるいはサルヴァトーレ・カタラノッテのような仲裁マフィアにならんと椅子から立ち上がると、ふたりは慌てて殺し合いをやめた。
「まったく……それで、その荒野の組織については分かっていることは何もないのか?」
「ふたりのメンバーだけが分かっている。ひとりは、その、ウェティアのような転んだら爆発する少女で――」
「まあ、きっと姉さまですわ」
「もう、ひとりはかなり幼い少女だということだ。一人称がおれで、丁寧な言葉で話すが、凄まじい魔法を使うという」
そうきいて、ヨシュアとリサークの頭に浮かんだのは、いつもはにかんでいるヴォンモの顔だった。
来栖ミツルはヴォンモに父性のようなものを感じている。そのヴォンモに優しくする。すると、心のきれいな優しいアサシン素敵!となる。そして、みなが幸せになる。
対立相手以外は。
「わかった。おれが行こう。貴様はついてこなくてもいいぞ。ここで落書きでも消していろ」
「きみこそ、ここで大人しく窓でもとりつけていたら、どうだ?」
「やはり貴様とは決着をつけなければならないようだな」
「それはこちらのセリフだ」
ウェティアが立ち上がり、飛び交ったスローイング・ダガーは三十二本。
過去最低記録である。




