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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
星々の世界 ラケッティア宇宙へゆく編
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第六十二話 ラケッティア、ジェントルマン・ユア・オナー。

 なるほど、それは紳士であった。


 見た目は火打石のような質感の鱗に覆われたワニ人間だが、その挙措動作や服装の趣味などは宇宙空間をまたぎ、異世界との境目をまたぎ、とにかくあらゆる時代のあらゆる世界線において、紳士、もしくはそれに相当する言葉や概念でもって表されるにふさわしいものだった。


 もちろん、感極まると恐竜みたいに前のめりになり、そのうち四つん這いに歩いたりもしたが、そんなことは些末なことだ。


 こういうことは生まれつきなのだ。


 のちにシチリア・マフィア初の情報提供者になるトンマーゾ・ブシェッタは若いころ、ラッキー・ルチアーノにあったことがあるが、物凄くいい男だったと言っている。


 顔がいいと言っているのではない。

 動作や服の趣味ににじみ出る洗練が他を圧倒していたというのだ。


 最終学歴は小学校中退だが、そういうことではない。

 ニューヨークの縄張りを五つに分け、戦争の原因になる〈ボスのな(カポ・デ・トゥ)かのボス(ッティ・カピ)〉を決めず、五つのファミリーが対等な立場で話し合う評議会(コミッション)によって重要事項を決定することで抗争を回避して禁酒法時代以降のマフィアの収益構造を強化し、国外追放されてからはマルセイユ、シチリア、イスタンブール、チュニジア、ナポリと飛びまくり、国際的なヘロイン・コネクションを作り上げるのに、小学校を卒業する必要はないのだ。


 生まれつきなのだ。


 で、この砂の星の守護神はそういう生まれつきがある。


 生まれつきの紳士。


「他の守護神たちが砂漠にやってきたのが気配で分かったのでね」


 砂の星の守護神テツザンが言う。このワニ人間は丸い眼鏡をかけている。


「風の守護神グリホルツヴァイとも以前、フレイア文明がもたらす騒乱について、話したのだが」


 グリホルツヴァイの赤い頭のほうが青い頭、


「へ? そんなこと話したっけ?」


「兄弟が覚えていないだけだ。ちゃんと一千年前に話した」


「そんな前に? 覚えてられねえよ。二、三年前なら覚えてられるけど」


「兄弟。我らは千年に一度、星域に異変があるときにあらわれる存在であることを忘れていないか?」


「お前、馬鹿にすんなよ。自分の神性くらい覚えてら」


 滑り出しは上々だ。

 いきなり砂の星の守護神と出会い、それがとても好感の持てる紳士である。


 さぞ、この星の住人の神を敬うこと、ヘロインの売人を崇め奉るチャーリー・パーカーのごときだろうと思い、かの神のために作曲してサックス吹いて奉納してるに違いないと思った。


「残念ながら、この星でわたしを信仰しているものは小トカゲ一匹もいないのです」


 と、悲し気に言いつつ、優雅に手に取って、歯で赤い石製の吸い口を傷つけたりするような無様をさらすことなくキセルを吹かす。


 きいたところ、砂の星を支配している帝国軍のメガリスはまさに、これまでおれたちをさんざんやっつけちらしてくれたあの巨大爆撃機であり、トカゲ人たちはこれまで十七次にわたる抜刀突撃をして――。


「え? 抜刀突撃?」


「その通りだよ、わが友よ(モナミ)。彼らはそのたびに蛮刀で空飛ぶ要塞を撃墜できるようにと、軍神――この場合はわたしのことだが――に供物をささげてきた。だが、十七回、わたしに供物をささげても勝利を得られなかったとして、わたしには勝利の王冠を授ける力がない、無力な神だと罵った。神とて可能性や物的限界の例外ではいられないことを分かってくれればいいのだが、それがトカゲ人たちには分からない。ともあれ、わたし抜きで第十八回目の抜刀突撃を敢行しようということになったのだ。今度こそ盤を跳ぶのだと――ああ、この盤を跳ぶというのは『なにもかもがひっくり返る大勝利』という意味なのだけど、この慣用句ひとつとっただけでも彼らがどんな将棋をするのか理解する一助になるのだが、ともかく山刀が少し分厚くなっただけの刀でメガリスを串刺しにせんとしている。だが、わたしが見たところ、あのメガリスを倒すには数十万年単位で翼を生やす進化を遂げるか、数十年単位で気球以上の飛行機械を発明させることが必要なのだ。そこで相談なのだが、彼らの第十八次総攻撃という名の愚劣な集団自殺を止めてもらえないだろうか? 彼らは愚劣で、恩知らずだが、それでもわたしは守護神だから、寛大な心でもって許してやらねばならない」


「まあ、ギブ・アンド・テイクはいつものことだからいいけど、どうやったらいいかさっぱり分からん。そいつら、十八回目の集団狂気を実行するって決めてるんだろう?」


「そこで鍵となる重要事実が明らかになる。巫術士ふじゅつしを探すのだ」


「巫術士?」


「守護神とトカゲ人をつなげる祈祷師だ。とはいっても、わたしは自由にトカゲ人と接触できるから、なぜそんな職業が生まれたのか理解ができないが。もし、わたしの失脚のあおりを受けていなければ、まだ生きているはずだ。とにかく巫術士にこの世界でわたしがどんな状況にあるのか知らせて、協力をあおぐのだ。なに、大丈夫だ。失敗するとしても、トカゲ人たちと一緒に滅亡するだけだ。諸君、滅びの道を歩くとするなら、紳士らしく滅ぼうじゃないか」

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