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ラケッティア! ~異世界ゴッドファーザー繁盛記~  作者: 実茂 譲
星々の世界 ラケッティア宇宙へゆく編
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第六十一話 クール系ライバル、魔法剣士の難しさ。

 八つのプロペラが唸りを上げ、胴体底部を覆い蠢く青い肉塊から魔法生物が次々と滴り落ちてくる。歪な仮面と赤い髪、ギラギラと光る剣や槍をペイズリー模様の体に組み込んだ意思のない兵士たち。


 イスラントはシャツを引っかけて立ち上がると、抜き様の一太刀で贅肉人形を両断した。

 ふたつに分かれた肉体が異なる方向に回転しながら飛び過ぎていく。


 右に振り切った刃を返して跳躍しつつ剣を持ち変えて、槍を外した足下の敵の、頭部のない肩を真上から突き通す。


 さらに敵が突っ込んでくると、戦斧の一撃を下にかわし、左ひざを地につけて斜めに切り上げると、敵の形を持たない足が浮き上がり、ゼリー状の肉が破裂した。


 敵はまだまだ尽きない。

 剣が白い冷気を帯びて、一気に魔法で片づけてしまえと誘惑してくる。


 だが、この灼熱の地での氷魔法の使用が力の激しい消耗に繋がることが分かっている。

 その誘惑に乗らず、一匹ずつ確実に屠っていく。


 だが、雫のような肉塊はメガリスから落ち続ける。

 ブルー・スパイラルを一発撃ち込めば、空中にいる段階で全てをシャーベットにできるだろう。


「ヴ、ヴ、ヴ」


 魔法生物たちが目玉に相当するらしいガラス玉を光らせて唸る。


 丸太のような棍棒を持った巨漢があらわれると、会敵先制で敵に構えるヒマも与えずに袈裟懸けに斬り捨てる。


 立ち眩み、視界が目のなかを蝕む黒い影で狭まる。

 強敵とみて、魔力を斬撃に封じ込めたのだが、その程度の魔法でこれほどに消耗したのだ。


 背中に殺気を感じ、断末魔がきこえ、そして馴染みのある殺気に入れ替わり、背中合わせにトンとぶつかってきた。


「遅いぞ」


 視界が戻り、一時的な消耗から復活する。


「すまない」


 そうこたえるジャックの足元には一瞬とはいえイスラントの背後を取った敵が倒れている――仮面の顔と胴体を異にして。


「ふん。まあ、いい。一気に片づけるぞ」


 ふたりは背中をぴたりとくっつけたまま、お互いの死角を潰し、寄る敵は斬り捨て、退く敵は追わず、確実に倒せる敵が見つけるまでは攻撃を自制し、ひとたび隙を見つければたくみに斬撃を組み合わせて、屠る。


「イース、飲め」


 そう言いながら、ジャックは肩越しに水筒を突き出す。


「なんだ? 毒か?」


「そんなわけないだろう。塩を少しとあとは水だ。汗で搾り取られた分の水を飲まないと倒れるぞ」


 イスラントはその平べったい太鼓みたいな水筒をひったくると、飲み口に口をつけ、片手に剣を握ったまま、あおった。

 少し温いが、潤いのある水が気持ちよく喉を通っていく。


 そこでふと気になり、水筒を降ろし、襲いかかる敵の脇を巻き打ちにし、たずねた。


「お前は飲んだのか?」


「ああ」


「うそをつくな」


 水筒をまた肩越しにジャックに渡すと、喉を鳴らして水を飲む音がきこえた。


「これで復活したな。敵の数も少し減った。このまま押し切るぞ」


     ――†――†――†――


(おれの剣、魔法に頼り過ぎていたか)


 先ほどの戦いで見えた、無駄な動きや自分が繰り出したとは思えぬ無様な刀身の軌道を思い出し、イスラントはため息をつく。

 魔法に隠れていた技の不備が明らかになったのだ。


 シップは何とか巨鳥型メガリスの追撃を振り切り、いまは砂漠を断ち割る深い谷を飛んでいる。


(もっと剣を鍛錬しないと――)


 魔法剣士、というものは滅多にいない。

 適性者が極めて少ないというわけではない。多いとは言えないが、それなりにいる。


 問題は運用面に発生するのだ。


 刀身に炎や稲妻を宿らせ、剣士にない火力と魔法使いにない身ごなしを生かす優秀な魔法剣士も、そのうち剣技に傾き過ぎてただの剣士になるか、魔法に頼り過ぎてただの魔法使いになってしまう。


 大切なのはバランス感覚だが、剣技に優れ、同時に魔法も魔族に準ずるほどの強さを持ちながら、ステゴロで押し通すサアベドラのようなものもいるので魔法剣士を奥の深いものとしている。


(それに比べて――)


 甲板に散らばった敵の武器を舷側から捨てているジャックを見る。


 ジャックは魔法はほとんど使えない。威力の点ではイスラントよりも下だ。

 だが、剣技は悔しいが、イスラントはかなわなかった。

 とくにはるかに有利な攻撃範囲の敵に対する間合いの詰め方は他の追随を許さないほどに洗練されていた。


 攻撃範囲が小さい短剣の弱点を完全に殺して、斬撃の速度と取り回しのよさを生かし、瞬きする間に対象を千枚斬りにしていく姿は純水を凍らせたときの白い光を思い出すほどに美しかった。


「……くそっ」


 舷側に寄りかかり、左舷のかなたの地平に広がる茫漠とした砂漠を眺めていると、来栖ミツルがやってきて、魚が食いてえ、と言ってきた。


「魚ならもう一生分眺めただろう」


「でも食べたわけじゃない。正直、海に潜ってるあいだ、うまそうなカンパチを見かけたことがあったが、海のなかじゃあ、醬油もたらせない。水族館ってきいたことあるか? 動物園の海産物版だ。そこらじゅうにガラスの水槽があるんだが、鯛は尾頭焼きに見えるし、カツオはタタキに見えるし――」


強盗(タタキ)?」


「ああっと、分捕るタタキじゃない。タタキってのは表面だけをあぶって切ったカツオのことだ」


「表面だけ? それじゃなかは生のままじゃないか」


「そだよ」


「……まさか生のまま魚を食べるのか?」


「んだんだ」


「……」


「……」


「……」


「え? これってそんな深刻なこと?」


「――以前、夜間暗殺任務の帰還途中に夜な夜な墓に忍び込み、骨をかじる男に出会ったことがある。ゾンビではなく、ただ骨をかじる嗜好のある人間だった」


「いや、ちょっと待って。なんで、お刺身の話したら、墓場で骨をかじるとかそんな話になってるの? 脂ののったカンパチの刺身をわさび醤油で食べて、小皿の醤油に脂が浮いてるの見て、ボクはなんておいちいカンパチを食べたんだろう、そのカンパチがあと六切れもあるなんてのはとてもスバラチイことだ、ボクは感動したって話だよ? この話に骨要素ないよね? ね?」


「どうだろうな」


「感じ悪」


「コショウとレモンでローストすればいいだろう?」


「なにを?」


「カンパチだ」


「おやおや」


「なんだ?」


「いや、クール系イケメンライバルキャラが食べ物の嗜好を述べるとは大変興味深い」


「食べ物の好みくらいはある。それにおれに言わせれば、クルス・ファミリーのボスが生魚を食べているほうが余人には興味深いんじゃないか?」


 そうかなあ、と言いながら、来栖ミツルは船内の階段を降り、ギル・ローが入れ替わりであらわれた。

 体じゅうに焼きついた守護神の刻印が総出で砂の星の守護神がいる位置を指し示している、いや、むしろ何も刻印の入っていないまっさらな左腕が羅針盤の針みたいに砂の星の守護神がいる方向へ勝手に伸びるのだが、どうも砂の星の守護神のほうから彼らに会いたがっているらしい。


 気持ちを切り替えねば。


 自分の顔をパチンと叩き、炎熱にゆらぐ大気越しに見える谷間を見下ろし、そんな自分も誰かに見上げられているのだと思い、剣の柄を握る。


 鹿革を巻いた柄は氷のように冷たかった。

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