第五十九話 アサシン、ロード・トゥ・ラストランド。
えーと、何から話したらいいんでしょうか?
まず、おれなんですけど、平原にいます。
あまり地味は豊かではないですね。
土は水気がなくて、さらさらで枯葉みたいな草がなだらかな起伏のある土地を覆っています。
太陽、みたいなものがふたつありますから、影もふたつ違う方向、違う長さに伸びています。
こんなところに人が住めるのかなと思ったんですけど、でも、よく見ると、ポツポツ家があります。よく見ると、細長いカボチャみたいなものを育てた畑があって、農家みたいです。
カレイラトス島でよく見た日干し煉瓦で出来ているみたいで、ガラスの代わりに木の板でつくった鎧戸みたいなものが窓にかかっているんですけど、鎧戸は釘ではなく、丈夫な蔓草を巻きつかせて、一枚にくっつけているのが珍しいです。
あまり豊かではない土地ですが、工夫があるんですね。
おれがサトウキビ農園で働いていたときは工夫をするだけの力も何も残っていなかったから、ここは過酷でも人がへこたれるほどの過酷さではないみたいです。
ここがマスターたちが飛んでいった星なんでしょうか?
「あのー、すみません」
一番近くの家の布を払ってみたら、ぶかぶかのローブをつけた男の人がいて――幸い言葉が通じました。よかった!――、ここが錆の星という星だと教えてくれました。
「錆の星?」
「都の連中は新生フレイア帝国と言っているが、誰がなんと言おうと、ここは錆の星だよ」
「そうですか。あ、そうだ。人を探しているんですけど、特徴は――」
「――ふうん。見かけてないな。都に行けば、会えるんじゃないか? ちなみに都はあっちだ」
あっち、と指差した先で突然、爆音がして、キノコ雲が上がりました。
「なんだろうな。たぶん政府の新兵器の実験かもしれん」
たぶん、フェリスさん。
「ありがとうございます。じゃあ、都に行ってみますね」
「そこにあるパンを持っていけ。ろくに食べ物になる動物がいない土地だ。その革袋に水も入れていくといい」
「わあ、ありがとうございます! 何かお礼ができるといいんですけど」
「子どもなんだから、そんなことは考えなくてもいいさ」
そうは言ってもお礼はしたいです。
精霊の女神さまはちゃんと見ているんですね。
お礼をする機会がすぐにやってきました。
制服をちょっと着崩した、いかにも不良軍人らしい連中がやってきたのです。
「おい、税金の徴収にきたぞ」
「税金ならもう払いましたよ」
すると、不良軍人の頭目らしい人が親切な農夫さんの顔をバシッと叩きました。
「それじゃ足りないって言ってるんだよ。家じゅうひっくり返して、ゼニ出せや」
「勘弁してくださいよ」
「あのー。その税金ですけど、物品で納めることは可能ですか?」
「なんだ、ガキ。てめえも痛い目に遭いたいのか?」
「遭いたくないです。でも、おれが自分を税金のかわりに納めるって言ったら、それで納得してくれますか?」
農夫さんはびっくり仰天して、そんなことはいけないと言ってくれました。
悪い人たちは相談して、そして、おれを売り飛ばしたら、どのくらいの金額になるのか、大まかな予想をつけたようです。
たぶん、女の子を売り飛ばすのは日常茶飯事なんでしょうね。
不良軍人たちはおれを連れていくことにしました。
そして、農家から十分離れたところで、まわりに巻き添えになる人がいないと確認して、闇魔法を発動させました。
太陽がふたつあるので影もふたつあり、寸詰まりの影からはカラスのお化けが、長いほうの影からは魔人の腕が伸びて、不良軍人さんたちをバラバラにしてしまいました。
肉片に染みついた瘴気のせいで、草が枯れ始め、ぶすぶすと黒くて粘っこい煤が上がりました。
よい子のアサシンとして、食べ物と飲み水のお礼ができたことを感謝しつつ、またまたどかんと爆発する地平線のキノコ雲を目指して、てくてく歩くことにしました。
そこに都があるのだと信じて。




