混迷するエイプルと母の帰還
「エイプル、あなた……将来の進路を決めていないの? わたくしたちはあと数年で大人の仲間入りなのよ。今後の身の振り方について、あてはあるんでしょうね?」
「そんなの……ないよ。お父さんの仕事も、私が継げるようなものじゃないし」
「じゃあ、しばらくは見識を深めるのもいいわ。学べる場所はカーレル・シズネ町だけじゃない。他の場所を見て回って、やりたいことを探すというのもひとつの手ね」
「いやだよ! 私、この町から出ていきたくないもん!! みんながいなくなるのも嫌。想像しただけでさみしいよ。怖いよ」
「エイプル……」
それはずっと目を背けていた未来。どんなに今が愛しく、大切でも、時間だけは平等に降り積もる。自身も皆も、いつまでも子供のままではいられない。
大好きな町を守るためなら、エイプルはどんな危険な戦いにも挑める。しかし、現状の生活を手放すのは躊躇われた。それが"大人になる"ためだとしても。
「子どもみたいに、わがままなこと言ってるってわかってる。でも……私、メイちゃんもジュディちゃんも、オーガスタちゃんも、ずっと私のそばにいてほしかった。大人になって、お仕事を始めても、この町を拠点にしてくれるんだと思ってた」
「本当にひどいわがままね! わたくしたちの将来を決める権利なんて、あなたにあるわけないでしょう!? それに、お互い別の場所で暮らしたって、わたくしたちは仲間でしょ! 切っても切れない絆があるってこと、わかってくれないの?」
「そうっすよ! みんな同じ気持ちっす、わたしだって、皆さんと離れ離れになったら、不安とさみしさのあまり、五日間寝込む自信があります!!」
「どんなに離れても、時が経っても……私たちはエイプルさんを忘れたりしません! いつまでも友達でいたいんです……!」
仲間たちからの温かい言葉を受けても、エイプルの表情は曇ったままだった。誰とも、視線すらも合わせようとしない。オーガスタは、そんな彼女の両肩に手を置き、無理やり自身の方を向かせた。
「こんな"魔法少女(略)"っていう役目まで与えられて!ええ、とっても濃い時間をいっしょに過ごしたわよ! こんな体験を共有した仲間なんて、一生大事にするに決まってるじゃない!! それでも、あなたは不安なの? 別の道を選んだって、心が離れることはないのに」
「……心は離れない? 気持ちだけは、すぐそばにいるの?」
「ええそうよ! だからあなたも……」
「それ、私のお母さんも同じこと言ってた!」
三人の顔が凍りつく。商隊の護衛として旅立ったエイプルの母は、未だ還らず、彼女の心に別離への恐怖を植え付けた。
「あれから二年経つのに、何の便りも送ってくれなかった!!」
母と子。家族としての血の絆。そのような深く、濃い繋がりを持ってしても、別れを阻止することはできなかった。
もう二度と会えない。言葉も交わせない場所へと行ってしまった。
エイプルは恐れている。
皆も、母のように自分を置いて、いなくなってしまうのだと。
◇ ◇ ◇
もう心乱されないよう、エイプルはいつもの日々に埋没する。普段以上に笑って振る舞い、いつも通りを強調し、仲間たちに有無も言わせなかった。
そんなもの、いずれ皆が旅立つまでの現実逃避だと知りながらも、エイプルはそうやって過ごすしか自身を守れなかった。
今日も元気よく登校し、オータム先生の授業を待つ。だが、教壇に立った彼はいつもと違い、何も教本を持たずに語り始めた。
「これから、君たちの将来の話をしよう」
「え?」
生徒たちはざわめいた。特別授業があるとは聞いていない。しかも主題は、エイプルが今、最も目を向けたくない、"いつもと違う未来"について。
「シズネとカーレルの町が統合されて、半年以上が経過した。みんなはすでに体感したと思うが、町は大きく変化したよな? もちろん見た目、町の構造も変わった。だが、それ以上に大きいのは……人々の意識の変化だ」
生徒たちは同意する。目に見える以上に、この町は変わった。初めて顔を合わせ、共に生活を営む二つの町の住人。町が拡張されると同時に、商人たちの往来も増えた。
新たな出会い、新たな価値感が交差した。年若い彼らにも、これまでと違う未来が拓けていることに気づいていた。
さらに、この町にはもっと特別なものがあると、オータムは嬉しそうに続ける。
「統合時に配備された"獣除けの陣"のおかげで、この町は世界でも"黒き獣たち"の脅威が少ない場所になった。今や国全体、いや世界からも注目を集めているんだ。安心をもたらす効果、いわば"希望"がこの町にはある。それを求めて、今後はもっと人が行き交うようになるだろう。君たちはその流れの最先端にいるんだ」
気づけば誰もが真剣に聞き入っていた。自分たちは、生まれ変わったカーレル・シズネ町から巣立つ最初の世代となる。数年前までは思いもつかなかった未来が、自らの前に続いている。
代り映えもしない生活、諾々と先祖代々の家業を継ぐことに辟易していたシズネの子。
故郷を失い、何も持たない状態でありながら受け入れられ、再出発を迎えられたカーレルの子。
皆、新しいこの町で希望を見出し、理想へと一歩踏み出したいと望んでいる。
「この状況を踏まえ、あらためて君たちの夢を問う。土地に縛られることも、家の仕事を強制されることもないんだ。自由に進路を選べるんだと、薄々でも気づいているんじゃないか?」
自身に向ける生徒たちの瞳が、輝きを帯びていることにオータムは気づき、笑った。
今日の話は皆に、理想を追い求める自由があると自覚してほしかったために始めたものだ。
ひとりでも多くの子どもたちの未来を、幸福なものに繋げたいと、オータムは常日頃から願っていた。そして、そのための準備はもう完了している。
「今後、君たち個別に進路相談の時間を設ける予定だ。どんな途方のない夢でも野望でも構わないから、俺に話してくれ。志した分野に応じて相談できる人も、視野を広げるための勉強先も紹介できる。その時まで、自分自身や家族とよく考えて決めてほしい」
ではここで休憩を、と話を区切るオータム。その途端、教室中が会話に溢れた。
親しい友人に進路を訊ねる者、声高々に理想の未来を語り出す者、中には進路相談の順番も待てずに、オータムを追って話しかける者まで現れた。
誰に強制されたわけでもない、自分の進路について目を向けるなか、エイプルだけはじっと座ったまま、視線を下に向けたまま呟く。
「……やめて」
オータムの話を受けて、想起したのは希望などではなく、別離の恐怖。
彼は心から生徒たちを思っており、その未来に幸多かれと祈り、夢の実現のために惜しみなく力を尽くしてくれる。とても、いい先生だと痛感している。しかし……
「みんなを、連れて行かないで」
彼女にとっては、皆を連れ去る扇動者にしか見えなかった。
ずっと変わらぬものはない。どんなに希っても、"いつもの日々"は永遠に続かない。
……否、エイプルはその"例外"を知っている。この世でたった七人しか該当しない存在であるが、幸いにも彼女の足で会いに行ける距離に暮らしている。
「急にどうしたんだい? ジュディくんならエリュンストくんの家に遊びに行ってるんだけど」
まだ授業がある時間じゃなかったかな? と不思議がりながらも、不死者"博士"はエイプルを快く迎え入れた。
彼女は永久不変の存在に問いかける。
「博士は、この町にずっといるよね? 不死者だから……ずっと変わらないで、この町で暮らしてくれるよね?」
「それは難しいね。不死者だからこそ、いつかは去らないといけない。いつまで経っても変わらない存在なんて目立つに決まっているよ。もとより"この僕"は、獣除けの陣の実証実験を担当する機体だ。研究が終われば、この町から去るつもりだった」
「そんなっ……!! いなくなる必要なんかないでしょ! この町は博士のおかげで守られてるんだもん。みんなに正体を話しても、きっと受け入れてくれる。だから、今までと同じように、ここで研究を続けてよ!」
博士は困ったように笑い、まずは落ち着いて話そうかと、あたたかい飲み物を用意しながら呟いた。
エイプルが理解してくれるまで、時間がかかりそうだと判断したうえでの行為だった。
「君の僕に対する印象はね、世間一般のものとは少し違うんだよ。僕は昔から、善悪の基準も関係なしに、研究を続けることを第一に考えて行動してきた。そうやって生きてきた結果、狂った学者だと言われたり、大罪人として、どこかの国の歴史に刻まれたこともある」
「博士は、悪い人だって思われてるってこと? そんなことない! 博士はいつも私たちを助けてくれる、優しい"いい人"だよ!」
「決してそんなことはないよ。本当のいい人だったら、年端のいかない子どもたちを、自分の代わりに戦わせたりしない。それに、僕と深く関わることは将来的に要らぬ危険を招く。僕の悪評に君たちを巻き込むわけにいかないからね」
正体を隠し生きていかなければならない理由なら、エイプルにも察しがつく。自身も"魔法少女(略)"になったばかりのころ、博士から強く念を押されている。さらに彼は、また別の不死者の名前を使うことで、少女たちの正体が暴かれぬよう尽くしてくれた。
それもこれもエイプルたちを思ってのこと。裏返せば、それだけ博士は変わらぬ存在としての苦労を重ね、長い時を過ごしてきたのだ。実験体として囚われていたこともあると、以前に語ってくれたのを覚えている。
「君は多感な年頃だし、進路について迷いもあるだろう。そんな大切な時期なのに、集落防衛の仕事に巻き込んでしまったのは、間違いなく僕の罪だ。魔道具との融合はあと少しで解除されるから、その後は自分自身の課題に専念してほしい。本来、君が戦うべきは黒き獣たちじゃなくて、そっちの方なんだからね」
いらぬ戦いに巻き込んだと博士は詫びるが、魔道具融合の一件にはエイプル自身にも悪い部分がある。それでも彼は、自分たちを守ろうと手厚い支援を惜しまなかった。エイプルを庇って、その身を使い潰したことすらある。
博士の献身は、手にする飲み物のようにあたたかく、エイプルの胸に沁みている。そんな彼に、ずっとここにいてくれという、わがままはもう言えない。
「魔道具と融合させてしまったことは悪かったと心底思う。けれど、君たちが"魔法少女(略)"になったおかげで、想像以上の結果を得ることもできた。それこそ、真の意味で世界を守る方法の仮説だって立てられた」
「それって……狩人のフォークスさんが話してた、"浄化の魔法"?」
「その通り。今まで捕まえた獣たちが魔法の暴走、限界を迎えていないのはどうしてだかわかるかい?」
「ううん。あの子たちが暴走してひどいことになってないのは、博士がちゃんとお世話してるからじゃないの?」
「僕だけじゃ不可能だった。君たちのやり方が正しかったんだ。全力を持って彼らを打倒し、必ず生け捕りにする。獣は自身の魔法を破られることで、進化の方向性を正すことができた。魔法に頼る生き方はダメだと学ばせることができた。結果として、魔法の過剰使用を抑え、限界までの時間を伸ばすことができた。すべて、君たち……いいやエイプル。君の優しさから始まったことだよ」
獣は魔女に与えられた魔力を用いて、独自の魔法を身につけた。戦いのなかその力を打ち破れば、獣は自身のあり方を再考する。
また、"ある適性"を持った獣と接触できれば、汚染そのものをなくすことができるかもしれない。
魔法自体をなかったことにできる魔法……それが老狩人フォークスが提唱した"浄化の魔法"。該当する適性を持った獣とは、過去に数体出会っている。
幻を発現させる"夢幻黒蝶"。任意の障害物をすり抜ける"激走透過狸"……あいにく前者はすでに消滅し、後者の獣は限界まで猶予がない。だが……
「探究を続けて行けば、いつか適性のある獣に出会えるかもしれない。けれど、これ以上君たちの手を煩わせることはできないよ。きっかけをくれただけで十分。魔道具から解放されたあとは、今度こそ自分の将来のために活動してほしい」
これまでの戦いは無駄ではなかった。世界を救うきっかけになったと聞き、エイプルは誇らしさに少し笑った。
けれど、もう戦わなくていいと繰り返し諭す姿からは、突き放されたような気持ちにもなる。
飲み物もおしゃべりも尽きた。帰り際、エイプルを研究所の門から見送る博士は、ふと口を開く。
「もう少しだけ話していいかな? すごく……個人的なことなんだけど」
「どうしたの、博士?」
「ずっと君にお礼を言いたかった。僕をひとつの生命として扱ってくれてありがとう。世界中に配備された、ただの"量産機"でしかないこの僕を、君だけはちゃんと心配してくれた。守るって言ってくれた。すばらしい研究成果じゃなくとも、ずっと記録しておきたいくらいに嬉しかった」
エイプルは目を丸くして博士を見上げる。本人も言うように彼は"不滅の人形"。研究のために増やした分身の一体だ。最低限の感情しか載せていなかった博士だが、エイプルからもらった優しさというあたたかさがその身に宿っている。
「この先、どんな未来を選んだとしても……願わくば、そのままの君でいてほしい」
不思議な感情が湧くのを感じたが、同時に居心地の悪さも覚えた。エイプルは頷くのみで返事もなく、足早に歩き去る。
今はただ、少しでも別れを感じさせるものすべてから距離を置きたかった。
◇ ◇ ◇
秋も深まり、夕日は早々に身を隠す。街灯の明かりが散らつくなか、その女性の周りだけ火が灯ったかのように人目を引く。背まで流れる鮮やかな赤茶色の髪のせいか。あるいは笑顔の明るさのせいかと、すれ違う者たちは思った。
左手のみでかなりの荷物を引いているが、重さを感じさせない軽い足取りで大通りを歩く。護身用に佩いているのか。よく手入れされた細身の剣が、もうわずかな夕焼けの光を弾いた。
自身を見つめる通行者のひとりと目を合わせ、一瞬で距離を詰めて話しかける。
「こんにちは! あなたはカーレルから来た人かしら? ねえ、私の娘がどこにいるか知らない?」
「えっと……学校に通ってる子ですよね? 娘さんのお名前は何と?」
「エイプル!」
名前を呼ばれた気がして、エイプルは振り返った。息を切らせて走るオーガスタとメイが手を振りながら駆け寄ってくる。あたりが薄暗くなる時間まで、エイプルを探していたようだった。
「今までどこにいたのよ!? 授業の途中で抜け出したりなんかして。あなたらしくないわ」
「そうです……オータム先生もびっくりしてました」
「やっぱり最近のエイプル、ちょっとおかしいわよ。あからさまに進路とか、将来の話を避けてる。いつまで逃げる気なの!? それじゃなにも解決しないじゃない!」
「エイプルさん……悩んでいるなら、オータム先生と面談をする前に、みんなで話し合いをしませんか? 私の時も……みなさんに相談して、すごく助かったから……」
「そうよ、賑やかしにジュディも交えて……あら、噂をすればだわ」
「ふおおおおおお帰るの遅くなったっす!! あっ! 皆さんごきげんようっす! いや、違うんすよ! こんな時間まで遊んでたんじゃなくて、ちょっとエリュンストくんちで勉強会を……」
「聞いてないし、別に責めたりもしてないわよ。もう遅くなったし、明日研究所で集まって話をするわよ。ジュディ、帰ったら博士にも伝えておいて。いいわね?」
「いらないよ」
四人の少女はその場に立ち尽くす。
街灯だけの乏しい光源では、エイプルの表情は窺えない。
「どうせ、みんなもいなくなっちゃうんでしょ?」
「いつまでもひねくれたこと言って! あなたのお母様とわたくしたちは違うの!!」
「そんなのわかんない!! これからみんな進路を決めて……どこか遠い場所に行って……二度と会えなくなっちゃうんでしょ!? あの時もそうやって、お母さんと別れた。二年経ってやっと、もう会えないことを受け入れられたのに……今度は、みんなまで……」
「誰ともう会えないって?」
聞き馴染みのない声が響く。
気配もなく、いつの間にか見知らぬ女性が近くに立っていた。
「ええーひどいじゃない、エイプル。お母さんのこと、死んじゃったって思ってたの?」
雲が晴れ、目映い月が町を照らす。月光を得て見る女性の顔は、確かにエイプルと近しい風貌をしていた。明るく元気な態度もまた、普段の彼女を彷彿させるも、今はどれも軽薄な印象しか周囲に与えない。
奇跡の再会であるにもかかわらず、エイプルは声も発せず、硬直するばかりだった。
「はじめまして! 私、エイプルのお母さんです。名前はハナっていうの! みんなはエイプルのお友達?」
「はあ……わたくしはオーガスタ。首都から越してきた者ですわ。御機嫌よう」
「じ、自分はジュディと言います! どうもっす!」
「うんうん! 可愛い子たちばかりじゃない。あら、そちらの青髪のお嬢さん。隠れちゃってどうしたの? 恥ずかしがり屋さんなのかな?」
「あ、私は…………っ!!」
オーガスタの背後から顔を出した……正確には、紫の瞳を視認された瞬間、メイは俊敏に距離を取った。
放たれた殺気と威圧感に本能が反応したのだ。この女性は相当の手練れであり、メイの一族のこともよく知っている。
「何で、"メイガン"がここにいるの?」
「え……? あ、お母さん!? メイちゃんに何をするの!!」
「こっちに来なさいエイプル! そいつに近寄らないで!」
エイプルは慌てて母に抱きついた。剣の柄を握り、今にも友達に斬りかかろうとするのを止めるためだ。
「違います! 私の名前はメイです!! メイガンではありません」
「今の身のこなしを見せられて、納得できるはずないでしょう!? おまえは危険な存在だ!! 言え! 誰の首を取りに来た!」
「その生き方を私は選ばなかった! 信じてください」
ただですら突然の再会に気持ちが追いつかないうえ、仲間のひとりに敵意まで向けられる。少女たちの内心はかつてないほど混乱を極めた。
なんとか事態を収拾しようと、オーガスタは手を広げ、間に割って入る。
「ちょっと、これはどう言うことなんですの? ハナさん。あなた、なにか誤解があるように見えるわ。冷静に話をしましょう?」
「……お言葉だけど、召使いを連れたあなたと同じ価値観で話ができるとは思えないわ。その緑髪の子、虜囚として連れてこられた異民族でしょ? 奴隷として買ったのよね?」
「わたくしの大事な友を侮辱しないで! 今すぐ謝罪なさい!」
「エイプルさんのお母上といえなんたる無礼な! わたしは誰のモノでもないっすよ!」
ひやりとする夜風が、より緊迫感を煽る。少女たちの反感は高まる一方で、もう和解の糸口すら見えない。
エイプルは別世界に来たかのような錯覚を覚えた。月の青白い光の下、目に映るこの情景すべてが受け入れられない。
「ねえ、お母さんおかしいよ……どうして……?」
「なんなのこの町。なぜ、こういうのまで受け入れてるの?」
「"僕"を見てもそんなこと言えるかい?」
張り詰めた空気をものともせず、ぶらり散歩に訪れたかのような白衣姿。博士が来てくれたことに、少女たちは安堵のため息が漏れる。
「馬鹿な……」
反対にエイプルの母ハナは総毛立ち、体の震えを押し留めるよう、より強く剣の柄を握りしめた。
「おまえは不死者"学者"か」
肩をすくめて苦笑する態度は肯定を表すもの。博士は、どこか懐かしそうに灰色の目を細める。カーレス・シズネ町に滞在するようになってから、このような敵意を久しく浴びていなかった。
本来、外界にて彼と対峙する際には、こういった対応が正解なのだ。




