首都へ行こうよ! とある大捕物の終幕
エイプルがウェザーたちとした約束、彼らの外出を助け、口裏を合わせるという計画は続行しつつ、彼女自身も活動を開始する。
ぬいはかせと二人でする、"獣"探しである。
この大都市のどこかに、カーレス・シズネ町から逃げ出した、白銀の獣がいる。
銀色の豊満な毛皮を持ち、障害物をすり抜ける魔法を使う獣、"激走透過狸"。エイプルが魔法少女として戦い始めたばかりの頃に遭遇し、捕獲していた。
研究所の地下に収容されてからは、少女たちと親しく触れ合うようになった。危険が迫った時に、力を貸してくれたこともある。
だが、この獣の真意は誰にも分からなかった。
「地下大森林から自力で上がって来た時、妙だとは思ったんだ。彼は、その気になればいつだって、あの場所を抜け出せたんじゃないかって」
彼の魔法は、僕たちが思っていたより強力なものだったよ。エイプルの外出準備が整う間、ぬいはかせは、これまでの研究結果を話す。
「そういえばあの子、最初に会った時以外、全然捕まらなくなったよ。抱っこしようと近づいても、手からすり抜けていくんだもん」
「重要なのはそこだよエイプル! 一部の現象を除き、だいたいの攻撃を透過して防ぐ。しかも、効果範囲も広いなんて! 今まで発生した獣のなかでも、上位に入る魔法だ……だからこそ、限界を迎えたときが、危険なんだ」
荷物を鞄に詰めるのをやめ、"限界"って? と、エイプルは聞き返す。
ぬいはかせは綿でできた身体を震わせて、少しためらったあと、意を決して告げた。
「彼らの魔法はね、時間経過とともにどんどん強くなる。変異して寿命が延びたとしても、いつか制御できなくなる日が来るんだ! 君は、"嵐纏馬"の魔法を覚えているかい?」
「う、うん。英雄さんの相棒だった馬……すっごく強い風魔法を使ってた。みんな、何度も吹き飛ばされてたよ」
「まさにあれは限界を迎える寸前だったんだ!! あのままいけば、自分もろともまわりを引き裂いていたことだろう。あの馬だけじゃなく、すべての獣は、いずれ自分の魔法で滅びる運命にあるんだ。そして残った死骸は、世界を汚染していく……」
「そんな! じゃあ、町で捕まえたあの子たち全員、ひどいめに遭わないといけないの!?」
「仕方のないことなんだよエイプル。でも、少なくとも研究所の地下にいれば、町に影響は出ないよ。汚染も最小限で済む」
「そういう心配をしてるんじゃないの!! こんな最期しかないなんてひどいよ! かわいそうだよ! やっぱり私、みんなを獣に変異させた"魔女"って人、許せない!!」
「落ち着いて! こわがらせるようなことを言って悪かったよ。僕だって、獣の被害を防ぐために、研究をしているんだ。君たちの将来のために、できることはしてあげるから!」
「わかってる、私も協力するよ! だからまず、"激走透過狸"を探しに行かないとっ!」
"黒き獣たち"を待つ非業な運命を知り、優しいエイプルは元凶たる魔女への対抗心を燃やした。
気合充分に身支度をし、ぬいはかせも鞄に押し込み、市街地への扉を開く。
「さあ、しゅっぱー、つ!? うわああああああ!!」
「きゃああああぁぁぁ!!」
飛び出したエイプルは誰かにぶつかり、宿屋に押し返された。はずみで、相手の持っていた書物が、バサバサと地面に散らばる。
「うわーんエイプルぅぅ!! ごめんねぇ、大丈夫だった!?」
「おぉ、これは大惨事だ! エイプルちゃん、申し訳ない。怪我などありませんかねぇ?」
「平気だよリーネちゃん、リーンベルゼさんも心配しないでください! 私が前をよく見ていなかっただけなので!!」
首都中を歩き回っていた作家親子は、休憩しに戻ってきたようだ。
投げ出された絵本などを拾い集めるため、エイプルの獣探しは、しばらく後回しになった。
◇ ◇ ◇
もしかして外出するつもりでしたかねぇ? そうリーンベルゼに聞かれ、エイプルはぶんぶんと首を振った。重大事件があったばかりの首都は、危険だとして子供だけで遊びに行くのを禁止している。
なので、彼ら親子の申し出を断ることができず、エイプルは宿屋の食堂で軽食を取っている。
「ふぇ~疲れたよぅ……本当に足が棒になっちゃったみたい」
「だから先に忠告しただろぅ、リーネや。こんな大荷物で歩き回るものじゃない。入院先がわかったら、あとから送ろう」
「やだよぅ! フォークスさんに直接渡したいの! この日のために、朗読の練習もいっぱいしたんだから!」
「無理はよくないよリーネちゃん。リーンベルゼさんの言うとおり、大事なものだけ持っていったら?」
消耗している友人を見かねて、エイプルも忠告する。それでも、むむむと唸りながら水を飲むリーネ。
このように悩んでいる様子から、彼女たち親子は探し人に対し、相当な思い入れがあることがわかる。
「私、動物研究家の"フォークス"って人、ほとんど知らないんだけど、リーネちゃんたちと仲がいいみたいだね。前にカーレルの町にいたの?」
「いやいやぁ。そういうわけじゃないんですがねぇ、エイプルちゃん。彼は動物について世界屈指の有識者で、執筆のためによく助言をもらっていたんですよぅ。とくにリーネは、フォークス氏の昔話が大のお気に入りで」
「そぅ!! フォークスさんと銀色のたぬきの捕物劇!! 私が書いてる絵本も、その実話がもとになってるの!」
好きな話題に反応して、疲労も吹き飛んだらしい。リーネは興奮して、エイプルに概要を説明する。
この世界で"黒き獣たち"が発生したころ、その対策に多くの人員が集められた。
多くの傭兵、冒険者たちが、変異した肉食獣たちを抑え込むなか、動物の専門知識を持つ者も召集を受けた。
凄腕の狩人として活動してきたフォークスも、その一員である。
防衛砦の前線に立ち、獣たちの習性と魔法の特徴を分析した。獣と汚染の関連を証明したことも、彼の功績として認められている。
また、決して獣を殺すなと、早期から訴えていた。
戦後も観察を続けていくうちに、一匹の獣と出会った。
それは、白銀の体毛をそよがせる狸。触れようとしても、腕からすり抜けていく。自由に生きていけるはずの彼は、どうしてだか何度もフォークスの前に姿をちらつかせた。
"捕まえてみたまえ"と言わんばかりに。
フォークスはその挑戦を受け、銀色狸の捕獲に全力を費やした。獣も手段を変え、仲間を増やし、老狩人を翻弄した。
彼らの追跡劇は、老狩人が病に倒れるまで続いた。
あと少しのところまで追い詰めはしたが、最後まで獣を捕まえることはできなかった。フォークスはその顛末や無念を、取材に来た親子に語り、リーネは昔日の彼らを"視た"。
そうして誕生したのが、連作絵本「すばらしき銀たぬきの冒険」シリーズである。
「……獣の処分に反対してたことと、所属していた狩人の組織から抜けたことでも、フォークスさんを恨んでる人、結構いるんだよねぇ……危害を加えられように、入院先を秘密にしてて。お見舞いにも行けないの」
「仕方ないだろぅ、リーネや。私たちは地道に探すしかないんだ。家族の方に出会えれば、面会の許可が貰えるかもしれない」
軽食を終えたリーネは、父親に促されるまま、荷物を置きに部屋へ戻った。身軽になってから、またフォークス氏のいる施設を探しに行くつもりだ。
親子が離れると同時に、エイプルの鞄からぬいはかせが這い出してきた。
「なるほど……今のは、実に興味深い話だったよ」
「リーネちゃんたちも大変だね。首都にはたっくさん病院あるもん……うわっ、それって私たちもいっしょだ。ここで獣一匹捕まえるのって、すごく難しそう!」
「その点は心配いらないよ。たった今、いい方法が思いついたんだ」
「本当!? すごいね、ぬいはかせ……でも、どうやって?」
「フォークス……いや、"エフ氏"に会いに行こう。きっとそこで"銀たぬき"を見つけられるはずさ」
準備が整ったリーネとリーンベルゼが、再び出発するのをエイプルは見送った。扉からウェザーら悪童三人組も顔を出し、留守は任せろと意気込みを伝える。
親子が去るのと同時に、エイプルたちの姿も薄まっていく。これはぬいはかせの魔法による幻だ。部屋に置いていった"万象改変機構"を中心に、少年少女の映像が放映される。
本物のエイプルは、ぬいはかせの道案内のもと、首都の市街地をさまよっていた。
「ねえ、教えてよぬいはかせ! どうしてフォークスさんを見つけるのが、獣を捕まえることにつながるの? 確かに"エフ氏"と"銀たぬき"は好敵手だけど、それは絵本の中のお話でしょ?」
「疑うのも無理はないけどね、僕は彼らの絆が本物だと考えているんだ。そうすると、"激走透過狸"が僕たちに便乗して首都に来たという状況も、納得がいく」
「そうなの!? リーネちゃんの描いた通りだ!! すごい!」
不死者"博士"にしては非現実的な発想と思われるが、その裏にはしっかりとした根拠がある。
リーネの絵本はただの夢物語ではない。彼女には、運命の流れを感じ取る"異能"が受け継がれている。眼鏡の奥の瞳で、"過去の真実"を視ているのだ。
とある狩人と獣が繰り広げた大捕物も、実際に起こった出来事。
ゆえに、エイプルたちはフォークスの居場所を探す。そこが"銀たぬき"の、冒険の目的地なのだ。
「該当する治癒魔法の痕跡を探知した! あの病院で間違いないよ! 待っててくれ。今、病室の位置を調べるから」
「本当!? やっぱりすごいね、ぬいはかせ! 世界一の大天才だよ!」
「そこは高性能と言った方が正しいよ。さて、ここからは君の運動能力の見せ所だ。この建物の四階まで、誰にも見つからないように登ってくれないかな? もちろん"魔法少女(略)"への状態変化なしで」
「はいはーい!」
老狩人を蝕んでいるのは、国内でもあまり例のない、珍しい病気である。治療のために必要な魔法も特別なもの。ぬいはかせはその気配を辿り、居場所を突き止めた。
ただ、実際の移動はエイプルの足で行う。外壁を登れというのは、およそ少女に求める要求ではないが、エイプルは慣れた手つきで壁に張り付いた。
◇ ◇ ◇
病院に忍び込んだ二人は、無事フォークス氏の病室を探し当てた。ぬいはかせの手で開錠した部屋は昼間に関わらず薄暗く、足元すら瞭然としない。
厚手のカーテンが窓を覆い、小さな隙間も光が漏れないように塞がれていた。
暗がりに目が慣れたエイプルは、壁につばの長い帽子と、使い古された狩装束が掛けられているに気づく。続けて寝台と、その上に横たわる人物を発見した。
彼こそ、かつて世界に名を馳せた名狩人。
リーネの絵本において、"エフ氏"のモデルとなった人物である。
「お、おじゃま、しまーす。私、カーレス・シズネ町から来た、エイプルって言います……あっ、出ちゃダメだよ、ぬいはかせ!」
「彼の前ではかまわないよ、エイプル。ここからは僕が話をしよう」
博士たちの正体を隠すため、ぬいはかせの人前での活動は禁止している。だが、この老狩人のところでは別だ。
寝台からゆっくりと身を起こした老爺は、目元を布で覆っている。病によって視力を奪われ、光の下を歩けぬ身体となっていたのだ。
侵入者を咎めると思いきや、彼は声のする方に目も向けず、言った。
「この大都市で、たった一人の人間を見つけるのが、どんなに困難なことか……いや、貴様にすり抜けられぬ壁など、ないのだったな……"銀たぬき"よ」
困惑するエイプルの肩の上から、ぬいはかせは静かに指をさす。
彼女の予想に反して、フォークス氏の病室に着いても、獣を見つけられなかった。どういうことか問いかけた口は、開けたまま固まる。
丸っこい耳から順番に、獣の形が浮かびあがった。
白銀の豊かな毛並みは暗室でもよく映える。もふもふしい体毛を弾ませて、古狸は寝台に飛び乗った。
「"激走透過狸"!! 今までいなかったよね!? なんで? どこから入り込んできたの!?」
「急にやってきたわけじゃないよ、エイプル。僕たちは彼に出し抜かれたのさ。この獣は、最初からずっと、僕たちのあとをついてきていたんだよ」
人探しが難しいことは獣にとっても同じ。なので、この賢き古狸は、はじめから人を利用して、好敵手を見つけ出すつもりだったのだ。
はじめはリーネたち親子の足元に。捜索が難航していると察してからは、エイプルたちに乗り換えた。
「彼は、本当に力のある獣ですね。僕の探知魔法もすり抜けてみせた。こちら以外で姿を現す気はなかったのでしょう。まったく、いいように使われてしまいました」
「はははは……ええ、無理もありません。こやつは、私の、生涯の強敵ですから……病に倒れる前に、捕まえてやれなかったのを、ずっと悔やんでおりました」
「でも、どうしてなんですか? フォークスさんと、この子の関係は、リーネちゃんの絵本の通りだって聞きましたけど、なんでそうなったのか、気になって」
「なるほど……君はリーネさんのお友達かね。あの子の才能は素晴らしい。新作絵本が届くたびに痛感する……あなたも、かの"結界集落"、カーレル・シズネ町の技師とお見受けする」
居住まいを正したフォークスは、獣と向かい合ったまま、異邦者の二人に告げる。
「あなた方になら、話していいかもしれません。私が立証できなかった仮説……獣の汚染から世界を救う、"浄化の魔法"について」
浄化の、魔法ですか……、ぬいはかせは復唱し、しばらく考え込む。彼にも聞き覚えのない理論のようだ。
「"黒き獣たち"は、不死者"魔女"の手によって変異し、魔法の力を得ました。ただ、それには個体差がある。獣によって、使用できる魔法は千差万別……理由として、どのような魔法を得るかは、獣自身の意思が反映されていると、私は仮定しました」
「その点は僕も同じ考えです。獣が使う魔法は、獣自身に有利に働くものばかりですから。魔女は動物たちに力を与えましたが、それがどんな力か、定めることはしなかった」
「私は……それこそが、獣の問題を解決する、突破口になると考えたのです。彼らはいずれ"限界"を迎える。自身の使う魔法が、自らに牙を剥く……そうなる前に、その力を危険と気づき、改めさせねばならない……彼らの魔法で、魔法自体を捨てさせるのです」
エイプルは理解が追い付かず、黙っているしかなかったが、ぬいはかせは驚愕のあまり、彼女の肩の上から落ちかけた。
「無謀です! 獣にそこまで期待をかけるなんて! 彼らが、自分にとって都合のいい力を否定できるはずがない。そんな知性はないはずです」
「ですが、彼らはたったの一代で、世界を変えるほどの力を手に入れた……その変革を、もう一度だけ起こすのは、そんなに難しいことでしょうか?」
「獣一匹につき、使える魔法は一つだけです! ただでさえ、"魔女"に無理やり変異させられた彼らは、それ以上の容量は持たない。しかも、自滅するときまで、魔法は強まる一方で……」
「でもっ! でも、絶対できないことじゃないよ! ええと……獣の魔法で、その魔法自体をなかったことにすればいいんでしょ? 今持ってる魔法しか使えなかったとしても、"この子"だったら……」
慌てて声を放つエイプル。呼応して、病床のフォークスも静かに片手を上げた。
指し示すのは、この場に鎮座する"激走透過狸"……
「そう。こやつの魔法は"透過"。自身が障害と認定したものを"すり抜ける"のです。魔法が強化されていけば、効果範囲も増す……いつか、自分の力にも、その効果が及ぶ……」
だが、私には証明できなかった! そう言って、獣に伸ばした手は落ちた。
悔しさのあまり、毛布をきつく握りしめる。
「……動物の進化を促す方法は、挫折を経験させることです。"変わらなければならない"と、強く認識させるには、全力をぶつけ合っての対決が必要でした……殺しても意味はないのです。生存させたまま、獣自身に別の道を選ばせなければならない」
「じゃあ、フォークスさんがずっと追いかけていたのは、この子を助けてあげたかったからなの!? 捕まえることができたら、この子は魔法を捨てるかもしれない。ただの動物に戻れるかもって」
「それだけじゃないよ……もしこれが実現できたら、本当の意味で、この世界は救われるだろう」
「どうして?」
ぬいはかせが語るのは、この世界の魔法の定義。
魔法とは経験の具象化。過去、実際に起こった現象を再現すること。
たったの一匹でもいい。獣が魔女の力から脱却できれば、その現象を魔法にし、世界に広めることができる。応用によっては、すでに汚染された大地でも、浄化できる方法が見つかるかもしれない。
「私でも……暴論だと思っていますとも。浄化の魔法……習得には、銀たぬきのような魔法を持つ獣が不可欠。しかも、発現には途方もない量の魔力が要ることでしょう。"そのようなことができる存在"は、この世に七人しかいない……」
言葉を発しかけたエイプルを、ぬいはかせは制した。彼の正体をうかつに話すべきではない。
普通ならば一蹴される仮説であるが、二人にとっては難しいだけで、不可能ではなかった。
「……銀たぬきを捕まえるため、力の限り追い求めましたが、あまりにも時間が経ちすぎた……私はこの有様。こやつも、もう限界が近いようだ。今から進化の行先を変えたとしても、寿命が持つまい……結局、私のやってきたことに、何の意味もなかったのです」
「そんなことないですフォークスさん!! "この子"も、"豪速で飛ぶからす"も、"赤い縞のあるリス"も、"人にくっつくきつね"も、私たちが町で捕まえました! 全力で戦って勝ったんです、今でもみんな元気に森で遊んでいます!」
「彼女の言うとおりです。今思えば、彼らは皆、"激走透過狸"の冒険仲間だったのでしょうね。それに、実証への道は閉ざされていません。以前僕たちが遭遇した獣も、彼に近い適性を持っていました」
「それは……どういう?」
「"夢幻黒蝶"。幻術を操り、人々の不安を具現化する蝶でした。あの獣は限界を迎え、消えてしまいましたが、世界に汚染を残さなかった。その理由を解明できていなかったのですが、あなたの話を聞いて、ようやくわかりました」
老狩人の仮説に半信半疑だったぬいはかせも、ある事象を思い返し、確信を得ていた。
「あの蝶は、最後に魔法で自分自身を幻に変えていたんです。目覚めると何も残らない、夢幻のように」
夏祭りの夜を荒らした黒い蝶。かの最期は、フォークスの理論を肯定するものだった。
獣の魔法は、魔法自体にも適用する。浄化の魔法は空論などではない。
「わ、たしは……間違って、いなかった。あなた方も、私の仮説を信じてくださるのですね……厚かましい願いと思いますが……どうか、私の遺志を継いでいただきたい。汚染の片棒を担がされ、狩られ続ける現状では……獣たちがあまりに、哀れではないですか」
「わかったよ、フォークスさん! 私たちも、助けたいって気持ちで、獣に向かい合うから! 全力をぶつけて捕まえて、いつか浄化の魔法をつくってみせる!!」
「実証は僕たちが引き継ぎます。これからも、カーレス・シズネ町には銀たぬきの冒険仲間が訪れることでしょう。そのなかには、彼のような適性のある獣がいるかもしれません」
老身を歓喜の思いで震わせて、今日の出会いに感謝するフォークス。エイプルはその手を取り、優しい約束を交わした。
絵本の中の彼は、一心不乱に銀たぬきを追いかける、風変わりな狩人であった。
"このままでは済まさないぞ銀たぬき!"
"今日という今日は絶対に逃がさん!"
"貴様を確保、収容、保護させてもらう!"
必死に追い求めることは、必ず助けるという決意の表れ。
獣を救いたいという強い思いが、ここまで彼を突き動かしていたのだ。
「フォークスさんは、本当に動物が大好きなんですね! だからこそ、きっとこの子も心から信頼してたんだよ。だって、こうやって首都まで会いに来たんだもんね!」
それまでじっと動かなかった"激走透過狸"は、寝台の端を歩いて、フォークスのそばに身を寄せた。
エイプルの介助の下、老狩人はおずおずと手を伸ばし、獣を腕の中に閉じ込める。
銀たぬきは、もう逃げない。
「捕まえた……ついに、おまえを捕まえたぞ、銀たぬき……はは、思い描いていた以上に、もふもふしているな…………力が足りなくてすまない。だが、ずっと私は、おまえを救ってやりたかったのだ」
"わかっている"、彼のすべてを理解しているように、獣はおとなしく身をゆだねる。
この日、世界のどこかで繰り広げられた、ひとりと一匹の大捕物は、人知れず終幕を迎えた。
"さらばなり、フォークス。我が最高の好敵手よ"




