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あなたの暮らしに寄り添うきつね

「決起しろ! "シズネ"の同胞はらからたちよ!」


 祭りのための料理講習を終えたエイプルたち少女五人は、学校からの帰り道の途中、公園に人だかりができているのを発見した。

 小柄な群衆を見るに、集まっているのは子どもたちだけである。ひとりの子が台の上に立ち、身振り手振りを交えて、何事か語りかけていた。


「あ、ウェザーが演説してる」

「演説ってなによ!! なんで九歳児がそんなことするのよ!?」

「私これ知ってるよぅ! 活動家の集会っていうの。集落自治を憂うなんて、あの子たち、まだちっちゃいのにしっかりしてるねぇ」

「ラリィ君もいますよ……ウェザー君の身辺警護してるみたい、です」


 集まりの中心となっているのは、やはり悪童三人組のようだ。子どもらしからぬ弁舌に、オーガスタは不可解に震えるも、エイプルはいつものことだとして、取り合わない。

 メイは、義弟ラリィに向けて小さく手を振るが、気づいた彼は恥ずかしそうに目を逸らした。


「かつて大人たちが、俺たちの意見に耳を貸したことがあるか? 町の大合併に際しても、俺たちの要望はガキの我儘と捨て置かれ、見向きもされなかった! そうして子ども同士の交流を怠った結果がこれだ! 未だカーレルの年少児童は教会図書館に引きこもり、今日こんにちまで学校に来ていない!」


 こんな状況が許されるか! と、ウェザーは熱を帯びて主張する。どうやら彼は、自治組織の児童への配慮不足を批判しているようだ。


「おかげで奴らは一日中野放しだ。無秩序に遊び場を占領し、公園を荒らして回っている。俺たちの進言通りにしていれば、すべて防げた問題だ。今更泣きついたって自業自得、若者を無知と決めつける集落に未来はない! だからこそ! 今こそ! 舐め腐った者共にわからせなくてはならない。俺たちの将来性を! 俺たちの無限の可能性を!」


「すごいねぇ、りっぱな扇動になってる。草案を書いたのはエリュンストくんかなぁ。でも、ウェザーくんの表現力も秀逸だよぅ」

「なんと力強い言葉っすか……! 体から勇気が湧いてくるみたいっす!」


 根が単純なジュディは、あっという間に感化されていた。聴衆に合わせ、拳を掲げて同意を叫ぶ。

 盛況が高まるなか、ウェザーは大声で同志たちに指示を出した。


「今の時勢、俺たちが手っ取り早く影響力を得る方法はひとつしかない。"黒き獣たち"……襲撃動物の有力な情報を集めるのだ。手始めに、現在よく出没する"獣"の正体を暴いてやろう。未だ未確認である、変異した"きつね"についての情報を!」



「ん? んんんっ?」

「どうしました……エイプルさん?」

「ねえ、みんな。ウェザーの肩に何かついてない?」


 馴染みの少年を指差し、エイプルは仲間たちに問う。彼女は演説中のウェザーの肩の上に、ぼんやりとした影を見た。まるでよく慣れた動物のように寄り添っている姿を。


「うおおっ!? 本当だ、なんか見えるっすよ!」

「確かに、そうね。ちょっと金色っぽい影がちらついてるわ。ここからじゃ輪郭しかわからないけれど」

「尖った耳に、ふさふさの尻尾……動物だとしたら、きつねさん、でしょうか……?」

「ねぇみんな、どうしたの? 私には変なもの見えないよぅ!」


 五人いる少女たちのうち、リーネだけは首を横に振った。丸眼鏡を外し、目をこすっても、ウェザーの肩から何も発見できない。思えば、多くの子どもたちが彼を見ているはずなのに、誰ひとりと気づいていないようだ。


 考察の時間を経て、エイプルたちは理解した。金色の影が見えるのは"魔法少女(略)"だけ。かの魔道具には洗脳耐性がつけられていた。


「その……"きつね"って、もしかして……」


 新たに出没するようになった"獣"は、おそらく人の認識を歪める魔法が得意なのだろう。

 今もウェザーは弁舌振るい、未確認の獣を拿捕すべく呼びかけているが、標的となる"きつね"はすぐそばにいた。


 ああ、肩に! 肩に!



 ◇ ◇ ◇



「うん。憑いているね」

「やっぱり……いるんですか」


 遠目からウェザーを見た博士は、少年の肩に獣が乗っているのを認めた。皮肉なことにそれは、彼らが探している狐に間違いない。


「"隠密憑依狐アンブラコーン"、人に取り憑いてこっそり食べ物を奪う狐だね。存在まで憑依元に浸透させるから、くっついてる間は誰にも気づかれない。だからこそ、"獣除けの陣"にも引っかからなかったんだろう」


 博士と四人の"魔法少女(略)"たちが、気配を消しながら見守るなか、悪童三人組は獣捕獲の作戦会議をしている。

 その間も、彼らの持ち寄った菓子類は、次々と"隠密憑依狐アンブラコーン"に食べられていった。


「今のところ大きな悪さをしないようだけど、三人が不憫だから、早めにとってあげた方がいいね」

「でも、博士。どうやって獣を捕まえたらいいの? 私、さっき引き剥がそうとしたんだけど、あの状態じゃ触ることもできなかったよ」

「この場合の魔法は、物理的な手段よりも当人の気づきが大事なんだよ、エイプル。獣自身がウェザーくんを見限るか、彼が気づくかしないといけない。でも、あの懐きようはすごいよ。彼の近くは居心地がいいようだ」


 ふーん、とエイプルはおもしろくなさそうに相槌打つ。博士が魔道具を調整したおかげで、霞んでいた獣の姿もはっきりと見えるようになった。


 全身に金粉まぶした如くの輝ける狐。ピンと尖った耳から、ふくよかな尻尾までの毛並みが滑らかで神々しい。

 笑っているかのような狐目は、常にウェザーへと向けられており、彼の肩と首の広範囲にかけて、べったりと毛皮をすり寄せている。


「ふわっふわじゃないすか! いいなあ〜もふりたいっすねえ〜」

「でも、ジュディさん……取り憑かれてたら、それも認識できないんですよ……」

「あれだけ豊満な毛皮を見せつけておいて、触らせないだなんて、意地の悪い獣ね。すぐ捕獲しましょう」


「ああ、だけど気をつけてくれ。"隠密憑依狐アンブラコーン"は住処を守るために憑依元を強化する。取り付いた人物の勘をよくしたり、機転を働かせたりとね。僕より君たちの方がウェザーくんと親しいから、ここは任せてもいいかな? まあ、なるべく彼が傷つかない方法で捕まえてくれ」


 少女たちへの信頼とも、丸投げとも取れる言動を残して、博士は去った。これから研究所で獣を迎え入れる支度にかかるという。


「今回は簡単ね。要は、あの子に獣の存在を気づかせたらいいんでしょう? わたくしにまかせてちょうだい」

「オーガスタちゃん、さすが! いい考えがあるんだね、すぐやろっ! 今すぐ!!」

「あ、あらエイプル。今日はとってもやる気ね……」



 悪童三人組は会議を終え、少年たちはそれぞれが帰路につく。ひとり家までの道行くウェザーの前に、四人の"魔法少女(略)"が舞い降りた。


「本当に……この状態なら、話を聞いてもらえるんでしょうか……?」

「そうに決まってるじゃない。わたくしたちはこの町を守る英雄なのよ。その言葉なら何だって信じるはずよ」


 オーガスタが決行した計画は単純なもので、魔道具を発動し、町の救世主としての姿で説得にあたるというもの。

 いくら年不相応に思慮深い少年でも、格上からの言葉なら聞き入れると考えたのだ。


 彼女の目論見通りか、ウェザーは珍妙な装備の少女たちに囲まれて、やや面食らった風である。琥珀色の瞳を細めて辺りを眺め、退路が完全に断たれたことを確認した。

 正体がばれないと知りつつも、エイプルは彼と目を合わさず、照れくさそうに声をかける。


「あっ、あのね。君、ちょっと私たちについてきてくれない? 話したいことがあるの」


 カーレル・シズネ町では、彼女たちの存在は不死者"騎士"と連なる者として認識されている。世界における超絶強者から接触を受けても、ウェザーは恐縮せず、かしこまらず、毅然と返答した。


「任意ですか?」



「"任意ですか?"、ですって!? あなたねえ、わたくしたちが直々に声をかけているのよ? 普通なら光栄に思って、二つ返事で了承するものでしょ!?」

「悪いが、知らない人について行くなと教えられているものでね。いくら町の守り手とはいえ、俺とあんたたちに個人的な面識はなかったはずだ」


「本当に小賢しいったらないわ! いいからこっちに来なさい! 大人しくわたくしたちに従いなさいよ!」

「お、落ち着いてください……言ってることが完全に誘拐犯です……」

「そんな渋らなくていいじゃないっすかあああ! これはキミのためでもあるんすよ!!」


 その後もいろいろと言い繕って、少年を誘い出そうとするが、危機管理のしっかりとしたウェザーは彼女たちを信用しない。一瞬の隙を見つけしだい、逃走を図る構えだ。そうなれば、肩に乗っている"獣"の捕獲はより困難となる。


 早く終えられる任務と思いきや、舌戦において少年は手強く、どう説得しても言い包められてしまう。


「これだから勘のいいガキは嫌いなのよおおおお! こうなればもう実力行使しか……!!」

「どうか抑えてくださいっす、お嬢様! 相手はまだ子どもなんすよ!」

「でも……私たち、すごく警戒されてますよ……ここはもう出直した方が……」

「待って! 今度は私が話してみる!」


 匙を投げかけたオーガスタと交代し、エイプルがウェザーの前に立つ。少しかがんで視線を合わせ、少年に微笑みかけた。

 簡単に引き下がらないのはウェザーのことを思えばこそ。彼を利用している獣を、見過ごすわけにはいかないのだ。


「ねえ、聞いて。私たちはね、君にひどいことをしたいわけじゃないの。ただ、人目につかないところで、話をしたいだけなの。どうしたら信じてくれるか教えて? 私たちにできることだったら、なんでもやってあげるから」


「……あんたたちが悪い人じゃないってことはわかる。だが、勝手に町を救おうとする、その行動の意味が理解できない。何にも益なんてないだろうに……俺に構うのも、人助けのためなんだな?」


 エイプルは笑みを深め、表情だけで肯定の意を示した。ウェザーは黙って考え込み……しばらくしてから、小さく頷いた。


「なら、俺の要望を叶えてみせろ。さっき"なんでもやってあげる"って言ってたよな? こんなガキのお願いを聞いてくれるんなら、あんたたちは本当に、人助けが趣味の物好き集団だってことだ。害意はないと判断する」

「わかった! それで、何をすればいい?」

「俺に剣の稽古をつけてくれないか。数ヶ月後に剣術大会があってな、今回だけはどうあっても負けるわけにいかないんだ」


 少年が望んだのは強者との模擬試合。不死者から教えを受けられるのは、滅多にないことだと言って、彼は好戦的に笑う。


「じゃあ、赤色のねーちゃん。俺の相手をしてくれよ」



 ◇ ◇ ◇



 魔法の使用なし。特殊技能なし。得物は剣のみと条件を定め、エイプルは木の枝でこしらえた木刀を手に、ウェザーと向かい合う。

 他者の注目を集めないように、稽古場所に林の中を選択した。仲間たちは二人から距離を置いて、物見遊山とがてら観戦する。


「まさか、エイプルに剣の心得まであるとは思わなかったわ」

「ええ。お母さんから……教えてもらったって、言ってましたね。ウェザーくんにも、小さい頃から指導をしてあげていたとか。でも、エイプルさんにまかせてしまっていいんでしょうか……」

「いいのよ、メイ。願ってもない機会じゃない。手の内も知っている以上、エイプルが圧勝してすぐ終わるわ。そうすれば、獣もあの子を見限って離れるはず。ジュディ、獣が逃げ出したら、すぐに風魔法で捕まえるのよ」

「はいっす! 合点承知っす、お嬢様!」



 審判もつけず、号令もないままにウェザーは打ちかかる。これは肩慣らしだ。双方とも、はじめから勝敗を決めようとは思っていない。

 上段に構えた木刀を素早く振り下ろし、そこから続けて打突を見舞う。緩急つけた連撃を、エイプルは反撃せず、躱すか受けるかしながら後退していく。


 実力を測らせ、教え側の力加減を調整させるための行為だが、彼女が攻勢に転じる直前、ウェザーは隠し持った武器を放つ。


「……っ!」


 投擲用の短剣……を模した木片が、エイプルの前髪を掠った。驚きで乱れた足取りは、地面に撒かれた"きのみ"を踏む。あれはいつか、獣が町に持ち込んだ時期外れの種。普通の打ち合いと見せかけ、接近した折に、ウェザーが仕掛けておいたものだ。


 足裏の種子で滑り、体の平衡を崩したエイプルに、少年は遠慮なく飛びかかる。しかし、渾身の強打を食らわす前に、彼女はどうにか踏み止まり、襲い来る彼を剣ごと弾き飛ばした。

 意志強くも小柄な体は、草木の伸びた地面に転がる。


 意図せず過剰な反射となり、エイプルはしまったと、顔を曇らせる。だが、そこまで追い込まれたのもまた事実。


「卑怯ー! なんでもありって許したけど、小道具使うなんて反則よおおお!!」

「あっ……今の不意打ち、いいところを狙ってます……」

「なるほど、そうきたっすか。なかなかっすねえ」


 稽古を見守るオーガスタは、ウェザーの戦略に憤慨したが、裏社会で育った少女二人は彼の戦略を賞賛する。

 闘争に手段の清濁はない。死ぬか生きるかの瀬戸際では、武器となるものすべてを行使することが許される。


 なので、追撃を防ぐため、転がった茂みに"草結びの輪"を作ることも、相手の目に向け小石を弾くのも、非難される理由とならない。


 純粋な剣技ではラリィに劣る。知識量、計算高さはエリュンストに及ばない。だが、大局を見る目と応用力は群を抜いて優れている。それはまさしく指揮官の才だ。

 肩の上の獣は、ふくふくと美しい毛並みをそよがせる。"隠密憑依狐アンブラコーン"は資産家、王侯貴族など、裕福な者に取り憑くというが、この個体は、未来の英傑と寄り添うことを好んでいた。



 怯めば隙を与えることになる。久しぶりに手合わせしたとはいえ、ウェザーの戦闘技術は日に日に進化しており、しかも今回は獣による強化恩恵まで受けている。

 ただ、基本的な戦い方を教えたのはエイプルだ。そのためか、機転の利かせ方も彼女と似通っており、対策を立てられる。


「はああっ!」


 気合をあげ、エイプルは激しく打ち込む。ウェザーが次の道具類を装備する前に、潰しにかかった。

 猛攻で圧せば、はったりは仕掛けられない。あらかじめ罠を張っていないのなら、このまま白兵戦で打ち倒せる。


「なんで危険なことばっかりするの!?」


 防戦一方となった少年に語り掛ける。

 気を逸らす効果もあるが、これはエイプルがずっと彼に聞きたかったことでもあった。


「君たちのことは知ってるよ! まだ小さいのに"黒き獣たち"を捕まえようとしてるって! どんなに危ないかわかってるの? 心配してる人、いっぱいいるんだよ?」


「……っ、危険だからこそ、やるんだ!!」


 金色こんじきの体毛が輝いた。"隠密憑依狐アンブラコーン"の強化発動により、発した大声とその内容は、エイプルの意表を突く。


「この町には、あんたみたいなお人好しがいる! "ただの町娘"のくせして、みんなを守りたい、いなくならないためならなんだってやる……そんなことを平気で思う、馬鹿みたいに優しい奴が!!」


 あえて名を出さずとも、それが誰を指しているかは、この場の全員が知っていた。

 カーレル・シズネ町にやってきて、悩み、迷った時には手を差し伸べてくれた少女……その優しさに救われたことも、一度や二度ではない。


 少年の意外な返答に驚いて、オーガスタは声をこぼす。


「それって……エイプルのことじゃない」




「今はまだいい。獣の被害は、あんたたち少女騎士や自警団のおかげで抑えられている。だが、カーレルの町で起こった大災害や、それ以上の事態が発生すれば、あいつは戦うって言い出すだろう。俺は、そうなるのが嫌なんだよ!!」

「じゃあ君は、その子が心配で……」


「そういうのじゃねえ。結局、俺は……誰よりも我儘で、どうしようもないガキってだけだ」


 "隠密憑依狐アンブラコーン"は今が好機と見た。相手が動揺している間に畳みかけるべく、最大の強化を施す。

 次の一手が必ず決まるよう幸運値を操作する。相手の退路を予知できるほどの観察眼、急所への攻撃威力も一時的に向上させる。さらに、武器破壊の確率も格段に高めた。


 ウェザーに取り憑いて間もないが、獣は彼のことをとても気に入っていた。

 これほど有望な子どもはいない。どの道を選んでも大成するだろう。成長をそばで感じられるのは、どんなに心躍る体験だろうか。



 少年を勝利させるための能力強化は、対戦で役立つ前に、体の違和感へ向けられた。最高まで研ぎ澄まされた直感と観察力は、これまでの小細工が"うまくいきすぎている"ことに気づかせる。

 ウェザーは原因を探すべく、背後を見ようとし……


 金色の狐と、目が合った。


「おい、なんだよ? おまえ……」



「獣が離れたわ、今よ!!」

「ういっす! 風編み、"獣取り網"!」


 気づかれたら憑依を続けられない。"隠密憑依狐アンブラコーン"は少年から剥がれ、ジュディの風魔法に捕らえられた。あとは獣を研究所へ収容するだけ。少女たちの任務は、これで完了である。

 聡い少年は、これらの展開だけで、彼女たち接触の理由を察した。


「だからって、俺に気を使いすぎだろ」


 バツが悪いとばかりに、ウェザーは俯き、誰とも視線を合わせようとしない。


「あんたたちは、俺にくっついていた"きつね"を捕まえに来たんだな。確かに、そんなところを見られでもしたら、今後の信用に関わる。けどさ、もっと手っ取り早い方法もあっただろ。だが、まあ……助かったぜ」

「そんなのいいの! だって、心配なのはおたがいさまだからね!」


「はあ?」


 問い直すのも待たず、"魔法少女(略)"たちは獣を連れて去っていく。

 ウェザーを助けることができ、しかも彼の真意が聞けた今、エイプルは上機嫌となっていた。喜び勇んで火球を打ち上げ、楽しく空を弾んでいく。





 明るくはしゃぐような閃光に、馴染みの少女の笑顔が重なる。ウェザーは、あの赤色の少女騎士とエイプルとの間に、何の関連性も見出せなかったが、それらがなぜか近しいもののように感じていた。

 底抜けに優しいところが共通しているのかと、適当な理由を挙げて、自身を納得させる。


 自宅に向かって歩くにつれ、町の方角から祭りの音楽が流れてきた。今日も人々は催しの準備に余念がない。

 少女騎士との稽古にて、思いがけず本心を語ってしまったために、ウェザーは契機となる出来事を回想してしまう。


 彼なりに"獣たち"を捕まえ、優しいエイプルが戦いに巻き込まれないようにしてきたのも。それ以前に仲間を集め、ウェザーが今のような少年になったのも……


 すべて、四年前の夏祭りがきっかけであった。



「まあまあまあ! お嬢ちゃん、すごい運命さだめを持ってるわね。これはちょっと見過ごせないわ!」


 幼いエイプルは、そんなことを言われて立ち止まった。その手に引かれていたウェザーも、何事かと注視する。

 急に話しかけてきたのは、黒い布を纏った老婆。祭りを盛り上げるために招待した、旅芸人の一員のようだ。確か、一団の中には"占い師"がいると、彼は記憶していた。


 出会いの挨拶にこれを……と、褐色の手に白い花を持って、エイプルに差し出した。


「わあっ、きれいなおはな! ありがとう、おばあちゃん!」


 にあうー? とエイプルは花を髪に挿し、無邪気にウェザーへ問いかける。しかし、彼は占い師から目が離せなかった。

 老婆の声に異様な響きを感じ取った。ただの戯言とは到底思えなかったのだ。


「まあまあ。こちらこそ、どうもありがとう。少し早いけれど、世界に代わって、お礼を言うわ」

「エイプルねーちゃんが……おおきくなったら、なにをするっていうんだ?」


 これは"予言"だ。


 図らずか、それとも導かれてのことか……老婆の言葉は、ウェザーの心に深く刻まれ、その後の人生を決定付けた。



「この子は将来、百万の命を救うでしょう」




「させるかよ……そんなこと」


 憤りを露わに夕陽を睨む。あれから時を経て、彼も彼女も健やかに成長した。

 占い師の老婆が告げた、"その時"はまだ来ていない。絶対に来させてなるものかと、ウェザーは強く思っていた。


「"みんな"、なんか救わなくていい。エイプルねーちゃんは……いつまでも、俺だけを守っていればいいんだよ」


 決意を秘めた琥珀色の瞳は、おのれが信じた道のみ見据える。町の楽しげな喧騒にも、もう振り返らない。

 木々の隙間から降り注ぐ、明るい斜光を浴びて、彼の髪色は赤銅あかがねに輝いていた。

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