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Welcome World  作者: 焼野ヤン八
第一章 「迷い込んだ世界」
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第五話 「紹介」

 雲の合間から日が差す。僕らは少し涼しさを感じて歩く。キズは足早に進む。僕は懸命に彼女についていく。


「あとどのくらいなんだ?」

「もうすこしよ」


僕らはそれから程なくして、大きな人影を捉えた。すると、その人影は大きな声で歌を歌っていた。


「万朶の桜か襟の色 花は吉野に嵐吹く 大和男子と生まれなば 散兵綫の花と散れ」


僕はその人影の歌う歌に古さを感じた、いかんせん曲調が古かった。僕は怪しんでキズに訊く。


「あれ……、か?」

「そうよ」


キズはそっけなく返した。

僕らがそんな様子で立ち止まっていると、遠くにいた大柄は気がついたらしくこちらに駆けてきた。


「おーい、キズじゃないか。どうした? ん、もう一人見ないのがいるな、誰だ?」


駆けながら、全部言った。

(こっちに着いてから話せばいいのに……)

僕はそう思った。


こちらに着くと彼は僕らを見下ろす。間近で見ると本当にデカい。

そして、キズは適当に僕のことを紹介する。


「こっちは、ウツロ。今日来たばかりの新入りよ。あなたに会いたいって言ったから、連れてきたのよ」


すると、大柄は照れて言う。


「俺に会いたいって、なんだか、俺、芸能人になった気分だな……」


僕はその一言で察した。

(あ、コイツ、めんどくせーヤツだな、絶対……)


ふと、彼は手をさし伸ばす。僕は握手を求められていると察知して同じように手を伸ばした。


「よろしく、ウツロ。こっち来てまだ短くて色々大変だろうけど、がんばれよ。慣れればそれなりに楽しいから」

「お、おう、ありがとう。……ところで、君の名前は」

「ああ、わりいわりい、言うの忘れてた。俺はみんなから「軍人」って呼ばれてる。改めてよろしくな」

「こちらこそ、よろしく、軍人」


固い握手がほどける。僕は何か熱いものを彼から受け取った気がした。軍人は背中を見せて、さっきの場所に戻る。そして去り際に言う。


「俺、一緒にいきたいけど、まだやることあるんだ。だから、キズ、ウツロの案内を続けてくれ。より多くを知ったほうが、より早くこの世界に馴染める」


キズは何も答えず歩き出す。僕は突っ立っている。するとキズが言う。


「ほら、いくわよ、ウツロ」


僕が歩き出すのを待っていたと知り、小走りで彼女に追いつく。

軍人は二、三回手を振って戻っていった。


僕らは再び歩く。僕は軍人のことが色々気になってキズに聞いた。


「なあ、なんであいつ、軍人って呼ばれてるんだ?」

「聞こえなかった? 彼、歌を歌っていたでしょ」

「ああ、まあ、古い感じの」

「軍歌よ」

「え?」

「彼の祖父、従軍経験があるそうなのよ。それで、彼、その祖父から戦争の話を聞いて、触発されて、自分も勇ましく立派になりたいって、軍歌を歌ったり、トレーニングしたりしてるのよ。それで、軍人って呼ばれてるの」

「おじいさんの武勇伝を聞いたのか」

「いえ、それはちょっと違うわ。私も彼からその話を聞かされたの、おそらくおじいさんの言った事をまるっきしそのまま……。すごく生々しくて、痛々しいと私は感じたわ。おそらくおじいさんも戒めのつもりで話したんじゃないかしら」

「それを軍人は、武勇伝と捉えて……」

「まあ、おそらくね」


僕はなんだか言い知れない恐怖のようなものを感じた。


「ここにいるやつって、あんなのばっかりなのか?」

「だから言ったでしょ。変わり者だって」


僕はうつむく。変わり者というにはあまりに軽すぎる。異常者と言ったほうがまだ適切な気がする。

ふと、僕らは歩いているということを思いだした。そして、頭に湧いた疑問が僕の口をつたって出た。


「おい、キズ、どこへ向かってるんだ?」


僕はどこか怖かった。


「次の人のところよ」


彼女はしれっとそう言った。


僕は会ってみたいような、会いたくないような気分になった。

しかし、僕の足は生き生きと道を踏みしめて歩いていた。

それは、どこか生きがいを感じてハツラツとしているように思われた。










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