第二話 「無人の街」
僕は、走り回った、誰かに会えることを信じて。しかし、一向に人影は現れない。
「クソ、どうしたら良い? ……そうだ、人通りの多いところに行けばいいんだ。この近くのでっかい通りなら、人も車もいるはずだ」
僕はパチン、と指を一回快く鳴らし、大通りの方へ駆け出した。
――しかし、いつもの賑わいはどこへやら、大通りにさえも、誰も、何も、いなかった。信号はいつも通りに仕事をしているのに……。
「うそだろ。俺だけになっちまったのか……?」
言いようのないショックが僕を襲った。
「これから、どうすりゃいいんだ……。ひとりで、俺はこのまま、たったひとりで生きなきゃいけないのか?」
グリュリュリュリュー……
とんでもなく大きな音が鳴った。
「こんなサイアクな時に鳴くなよ、腹の虫」
僕は自分の腹に怒りを覚える。しかし、身体は正直だった。
「そういえば、起きてから何も食ってなかったなあ」
そのことに気づくとますます腹が減った。僕の腹の虫は思い切り独唱したくてうずうずしている。
「とりあえず、飯だ。家には材料しかねえから、どっかその辺の店で弁当でも……」
僕はあることに気づいた。それに気がつくと同時に全身に喜びが満ちた。
「そうだ、店だ。店には絶対店員がいる。店員がいない店なんて聞いたことがない!!!」
僕は飛ぶように走り出した。腹の虫は歌うタイミングを逸して押し黙った。歓喜が僕を包む。僕は、いま自分のいるところから一番近くのスーパーを目指した。
スーパーが見えてくる。おおきな室外機ブンブンとうなりを立てている。
「よし、室外機が回っているということは店が開いている、人がいるということだ」
僕はドアまで行った。すると自動ドアが開き、店内の涼しい風が僕を迎えてくれた。
さっそく弁当コーナーへと向かう。
「やはり定番の幕の内か、いやハンバーグも捨てがたい」
嬉しい悩みの末、僕は白身魚フライの弁当を選んだ。
そして、レジへと向かう。腹も膨れるし、何とかなるやも知れない。
そう希望をもちかけた時、いきなり絶望へと突き落とされた。
「……うそ、だ」
レジは5台あったが、レジ打ちは一人もいなかった。
「こんなことってあるのか? 店はあいてるのに、誰もいないなんて……」
僕は茫然自失となって、魚のフライ弁当を片手に、フラフラと出口へ向かう。
もう、死のうかな……。誰もいないし、何もならないこの世界で生きている価値なんてない。天国にでも行って、いるはずのみんなと会えればそれで、いいかな?
人生に対する諦めの気持ちでいっぱいになった。僕の目の前は真っ暗だ。
今まで孤立してひとりになんてなれてる、って思ってたけど、本当に世界でひとりだけになると、こんなにせつないんだな、こんなに世界が無意味に思えるんだな。
自動ドアが悲しげにゆっくりと開く、僕は猫背でうつむき、トボトボ歩く。
「あなた、なにやってるの??」
ああ幻聴まで聞こえてきたか。もうダメだな。
「ねえ、あなたってば」
うるせー幻聴だな。
「ちょっと!」
急に肩をつかまれた感覚がした。僕は前を向かされる。すると、そこには懐かしい四肢をもった生き物がいた。
「え?! え?!」
僕は言葉が出なかった。
目の前には、(今まで僕に無視をされていたためか、)むっすりとした、僕と同い年くらいの女の子が立っていた。