第一話 「朝焼けと夕焼けと僕の腕時計」
「フワァ……、よく寝た」
あくびをして僕は眠りから覚める。スッと伸びをして体を整える。
「あーあ、今日も学校か。くそダリィ」
学校なんてつまらない。僕には友達なんていないし、たくさんの人と一緒に座って、xだのyだのを黒板に書き込む変な大人を見ていてると、
(こいつら、なにやってるんだろう?)
という気持ちになる。
xやyがなんだよ。そう思っていると、いきなり周りが大声で発する。
『xylophone!』
たまには、そんな感じで先生の書いたものを言ったりする。
「なんで、俺、学校なんかに通ってるんだろう? 楽しいわけでもないのに…」
太陽の黄色い光が窓から差し込む。その光で黄色くなった部屋に僕はひとりでいる。
「そうだ、いま何時だ?」
僕は左腕を見る、正確に言えば左腕にしている時計を見る。
時計の針は、軍人の気をつけのように、文字盤の上から下にかけてピシッと直立していた。
「6時か。そろそろ準備する時間だな」
僕は雨戸を開ける。
すると、地平線の上にいる太陽と目が合う。なんだか恥ずかしくなって僕は目を背ける。
朝日はきれいだった。まさに「日の出」といった感じだった。
そうして、朝飯を求めて、自分の部屋を出る。
「かあさん、飯は?」
そう言って台所をのぞく、しかし誰もいない。
(飯も作らないで、なにやってんだあの人は)
僕は、両親の寝室に行く。
「かあさん、飯作ってくれよ」
しかし、ここにも母さんはいなかった。ついでに父さんもいなかった。ただ整然と布団が整理されているだけだった。
「おい、母さん、父さん、どこだよ」
僕は呼びかけてみる。
……
へんじがない、ただのもぬけのからのようだ。
「おいおい、嘘だろ。俺を置いて、夜逃げか?!」
僕は本気でそう思った。
でも、理由が分からない。ウチは借金なんてない、むしろ裕福なくらいだ。それに、家庭環境も悪くはなかった、……と思う。
僕は自分の部屋へ戻る。とりあえず学校へは行かねばならない、そのため持ち物を整理する必要がある。僕は、自分の部屋に入ると勉強机の上にある、カバンを手に取り、中身を入れ替えた。
「これで一応は行ける」
そう思った。
腕時計を見た。兵隊が首を傾げているような感じだった。
「6時10分、ね」
しかし、じっと腕時計を見ていると、あることに気がついた。
「あれ? 今日の日付、7月17日? これって昨日だよな?」
腕時計の日付欄がそう示していた。7月17日、海の日、祝日。
「あ、それに俺の部屋、まど西側じゃん」
ということは、あの太陽は朝日じゃなくて夕日? 今日はまだ海の日?
よく分からないが、一応、朝日と言ったのは訂正しよう。
輝かしいばかりの夕日、それが今かとばかりに沈んでいく。……これで良いだろう。
つまり、俺は昼寝して夕方まで眠ってしまって、そこで覚めて朝と勘違いしたのか?
いいや、ありえない。昨日は昼に家族で寿司屋に行って、俺は40貫くらい食った。そんで夜はウナギを食った。いい気分になって一日を終えた。
だから絶対に今日は7月18日のはずだ。なぜだ、時計の故障か?
一人深く謎に立ち向かっていると、いつも聞こえる音がないことに気づいた。
「そうだ、車の音がしない」
僕は窓から首を出すと、車はおろか人ひとりもいない。その無人の空間で信号が赤になったり青になったりしているだけだ。
「どうなっている、俺だけ取り残されたのか!?」
そして、僕は人を探そうと、外に出た。