ツンツン令嬢は猫になりました
ツンツン令嬢が猫になってモフモフされるかと思いきや、華麗にヒラリと避けるお話。
そんな簡単に触らせるほど安い女ではなくてよ。ツーン。
「まて、マリーリア!今日こそはもふ、じゃない、話し合いをするぞ!!」
「にゃーん、ゴロゴロ(うるさいわね。それよりこの場所いいわね)」
「くそ、馬車の屋根の上とか卑怯なやつめ。」
「にゃにゃ。にゃぁーん(なんだか眠くなってきたわ、うーん)」
「のびのびしやがって。このかわ、いや、猫め!」
「むにゃー(zzz)」
「あっ!寝るな!この、降りてこい!!」
「レオナルド様、そろそろお時間です。」
「まだ、もふ、じゃない、マリーリアの返事を貰っていない!」
「それなら、侯爵様より丁寧な書類が。婚約破棄の為の書類一式耳揃えて来てます。ご令嬢の肉球スタンプ…いや、サイン?込みで。あとは、レオナルド様の署名のみです。」
「そんなもの、破り捨てろ!マリーリアと直接話をする事があるのだ。コラ!マリーリア!!どこに行く!」
「破棄したいのかしたくないのか……。レオナルド様が煩わしいので場所を変えるのでしょうね。」
「この、俺が煩わしいだと……!?」
「レオさまぁ〜。どうされたんですか?お顔が真っ青ですよ?マリーリア様と婚約破棄できました?私との婚約はどうなりましたの?」
「うるさい!ヒロイーナ!まだもふ、じゃない、今、説得中だ!」
「う、うるさいだなんて…ひどい、折角の夜会だからさっさと話をつけてダンスしに行きたいのに……。あの猫令嬢!」
「にゃーん(勝手にやっててちょうだい)」
「マリーリア様、毛並みが乱れております。」
「にゃん(ルーア、ブラッシングしてちょうだい)」
「マリーリア、元の貴女に戻って……。ふぅ……。」
「奥様、気を確かに。まだ夜会の途中です。」
「はっ、気を失っている場合ではないわ。レンブルドン侯爵夫人が確かいらしていたわね。行ってくるわ。」
「にゃんにゃーゴロゴロゴロ(お母様、行ってらっしゃいませ。すりすり)」
「マリー、私の愛しい子……お母様、頑張りますからね。」
「奥様、胸元に毛が……。はい、大丈夫です。この最新式の粘着材の威力は中々ですね。ドレスを傷つけずに毛だけ取れる。あ、マリーリア様、毛玉を上手に吐けないのですから、舐めるのはお止めください。私がブラッシングいたしますから。」
「にゃーご(ルーア、ブラッシング技術が上がったわね)」
「お褒めに預かり光栄でございます。」
「あら、旦那様。こちらにいらっしゃったの。」
「お前か。マリーリアを知らないか。先ほどビュッフェの近くに居たのでもふ、いや、食事をさせようとしたが、プイッと走って行ってしまったのだ。こんな人の多い夜会に連れてくる事など無かったのではないか。攫われたりなどしたらどうするのだ。」
「旦那様。マリーリアはレオナルド様よりの心無い仕打ち…いきなりの婚約破棄に心を痛めて猫になってしまったのですよ。わたくし達が、もっと良い、マリーリアを大切にしてくださる方を見つけて、今度こそ幸せな婚姻が約束されれば、きっと元の人間のマリーリアに戻ってくれます。ですから、夜会に連れてきたのです。猫でも愛してくださる方がきっといらっしゃいます。マリーリアは美しい子ですもの。きっと、猫のマリーリアに口づけて、魔女に掛けられた魔法を解いてくださる王子様が……。」
「魔女はマリーリア自身だがな。獣身変化魔法で猫に変化しただけだ。マリーリアの気が済めば勝手に元に戻るだろう。王子のキスとやらは必要ない。貴族令嬢らしく生きてきたマリーリアがもふ、いや、猫に変化する程の事だ。もう、無理に結婚を進めずとも良いではないか。もふ、いや、マリーリアは、このまま我が家でゴロゴ、いや休息しておれば良い。そのままもふ、いや、猫のまま我が家に居れば良いのだ。」
「まぁ!何て事を!旦那様だって最初は勘当だなんだと大騒ぎしていらしたのに!私はマリーリアの為に婚約者を探してきます。マリーリアは控え室でルーアのブラッシングを受けておりますわ。安心したなら旦那様も新しい婚約者を探してきてくださいませ!」
「いや、しかし…もふ…いや、まだ婚約破棄が整ってもいないのだが。」
「婚約破棄の書類は揃えて渡したのでございましょう。元はあちらから言い出した事です。今更グダグダ言われずとも、直ぐに破棄が整う様になさって下さいませ。では、のちほど。」
「あ、……行ってしまったか。マリーリアは嫁にはもう出さなくて良いのだ。このまま家で飼、いや、つつがなく過ごすのが良いのだ。うん。」
「にゃー(お父様達を待っているだけというのは退屈だわ。会場内はレオナルド様にまた追いかけられるかもしれないし、庭にでも行ってみるかしら)」
「お嬢様、お出かけですか?お気をつけて下さいませ。」
「にゃん(分かってるわよ)」
「ツンとして行ってしまいました。さて、抜け毛の始末をしなければ。」
「にゃ…ごにゃなーん(お月様が綺麗だわ。やはり王宮の庭は歩き心地が良いわね)」
「ん、こんな所に猫が。おいで、撫でてあげよう。」
「にゃん(いらないわ。今ブラッシングしたばかりなの。触らないで欲しいわ)」
「どうした。綺麗な毛並みだな。顔立ちも美しい。メスかな?ほら、怖くないよ。おいで。」
「ぶにゃぁ(そんなちょっと褒められたぐらいで触らせるほど安い女じゃなくてよ、ツーン)」
「ふふ、可愛いな。そうだ、何か美味しいもので釣ってみよう。おい、ハムかチーズでも持ってきてくれないか。」
「かしこまりました、殿下。しばらくお待ち下さい。」
「うん、ついでにミルクも持ってきてくれ。」
「お待ち下さい、殿下、ミルクは猫に与えると腹を下します……ではなくて、この猫は私の婚約者です。少し話がしたいので、こちらに渡していただきたい。」
「レオナルド。君の婚約者が猫とは知らなかった。前にリオネール侯爵令嬢と婚約していると聞いていたはずだが。」
「そのリオネール侯爵令嬢がその猫です。獣身変化魔法で猫になってしまったのです。」
「なぜそんな事に?たしか、リオネール侯爵令嬢といえば、容姿もマナーも完璧で令嬢の中の令嬢と呼ばれた女性だったと記憶しているが。」
「それは……。」
「レオ様は、プライドが高く冷たい婚約者様とはどうしても合わず、婚約破棄して、心から愛する私を人生の伴侶としてお迎えくださると、マリーリア様ににお伝えしたのです。そうしたら、マリーリア様が婚約破棄をしたくないと、レオ様を困らせる為に猫になってしまわれたのです。ですから、なんとかマリーリア様に元に戻っていただいて、正式に婚約破棄をしていただきたいと、レオ様は心を尽くして、マリーリア様を説得しているのでございます。」
「ヒロイーナ!殿下になんて口を。」
「でも……。」
「立場をわきまえろ。殿下、失礼いたしました。田舎から出てきた男爵令嬢ですので、マナーがなっていなく……。」
「つまり、君たちは、婚約破棄をした、もしくはするのだね。」
「殿下?」
「ならば、私がリオネール侯爵令嬢にプロポーズしても構わないという事だね。」
「いや、それは……。婚約破棄は完了しておりませんので、私たちは婚約者同士のままですし……。私はもふ、いや、マリーリアと話を……。」
「いや、私が王太子として認めよう。君たちの婚約は破棄したと。ローランド、書類を。」
「殿下、それには及びません。こちらに書類は3部ほど用意してあります。」
「リオネール侯爵。用意の良い事だな。よし、ここに私のサインを入れておこう。ん、この令嬢のサインの位置にあるスタンプ、可愛らしい肉球の形だな。生肉球をぷにぷにしたい。」
「なぜか、何度書類を送っても、紛失したとの事ですからね。今夜こそはレオナルド殿にサインを頂こうと用意しておりました。」
「そうか、レオナルド、サインを。ん?したくないのか?まぁ、しなくても良いか。婚約破棄を認めよう。」
「なっ!!?」
「ありがとうございます、殿下。」
「にゃふーん(別に礼などいたしませんわよ、ツーン)」
「さて、リオネール侯爵令嬢マリーリア、これで貴女は自由だ。私と婚姻を結んでくれるね?」
「にゃーん(会ったばかりの男性と婚姻を結ぶ程わたくし軽い女じゃなくてよ、ツーン)」
「あ、そっぽを向かれてしまった。ダメなのかい。君のその美しい毛皮を触らせておくれ。」
「今まで婚約者を決めずにフラフラしていた殿下が猫に心を奪われるとは……しかし、猫とはいえ、侯爵令嬢。まぁ、いいか。」
「ローランド、侍従の癖に主人に対して言いたい放題だな。」
「乳兄弟ですから。護衛騎士殿。」
「……マリーリア、聞いて欲しい。」
「んにゃ(レオナルド様?)」
「確かに俺は、いつもツンツンしていて冷たく可愛げのない、君が疎ましく、可愛らしく甘えてくるヒロイーナの蠱惑的な肉体にそそのかされるがまま、君に婚約破棄を申し出てしまった……。」
「え、レオナルド様、何を……?私たちは真実の愛に」
「しかし、気がついたのだ。俺は、ヒロイーナの豊かな実りにまどわされ、真実の愛を見失っていたのだと……。それを教えてくれたのは、君だ、マリーリア。君のフサフサでもふもふをしたいというこの熱い気持ち……これは、愛だ!これこそが、真実の愛だと、今更ながら、俺は気づいてしまったのだ。」
「何を言っているのだね、君とマリーリアは、もう婚約破棄が成ったのだよ」
「マリーリア!俺は、君を心から愛している!!!許してくれとは言わない!!だが、どうか、君をモフらせてくれ!!その上で、君が婚約破棄を望むならば、俺は…俺は、潔く諦めよう……。」
「だが、断る。」
「「「「「「人語しゃべれたのかよ!!!!」」」」」」
「愛、それは熱く燃え盛る炎のごとく…水を掛けられれば鎮火する……」
「儚きこと、夢幻のごとし……」
「公爵家の侍従殿、お主中々の詩人だな。」
「いえいえ、王太子殿下の侍従殿にはとてもとても」
「どこがだよ。」
「王太子殿下の護衛殿、何か。」
「いえ……。」
劇終。
猫令嬢マリーリア
ツンツン令嬢。ツーンとしている。わたくし、侯爵令嬢ですもの。
婚約破棄?勝手になさいませ。嫁ぐ先がない?それならわたくしは猫になります。
え?触りたいですって?猫とはいえ、淑女ですのよ。わたくしに触っていいのは侍女のルーアと私の母だけですわよ。ツーン。
婚約者公爵子息レオナルド
婚約破棄だ!なにぃ!?猫だと!!?性格の悪いお前が猫になった所で……か、かわ…はっ!?
この私をもふもふで籠絡して婚約破棄を撤回させるつもりだな!?そんな手には…か、かわい……ツンツン猫ムハァ
ゴァッファー!!?ね、猫パンチ決まると意外にダメージすご、い……ガクリ。
父侯爵
婚約破棄!?許さん!勘当だ!だがもふもふ可愛い!触らせて!出て行く!?許さん!もふもふは家でゴロゴロしていればいいのだ!!嫁にもやらん!!!誰か!日当たりの良い場所にクッションを持て!!!
母侯爵夫人
む、娘が猫に……ふぅ〜……(気絶)
ヒロイン風男爵令嬢ヒロイーナ
え!?猫!?何故そうなった!!?
令嬢の侍女ルーア
お嬢様毛足が乱れております。スチャッ。このブラシは中々良い贈り物でしたね。旦那様にあと何種類か買い足していただきましょう。
公爵子息の侍従
愛、それは、誰にも止められモファ。
王太子
なんて、美しい毛並みだ。もふりたい。夫になら触らせる?ならば結婚しよう。