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第十三話

 魔法闘技場は賑わっている。

 いつも以上に賑わっていると言うべきか。

 その理由は、魔法闘技場で初めての魔機使いのみの大会が開催されているのだ。本来、戦うはずの魔法使い達は、いったいどんな大会になるのかと観戦するため集まっている。


 世界には数々の闘技場があるが、これだけ魔法使いの客が多い闘技場もそうはないだろう。


「つ、ついにきちゃいましたね……」


 ユーカにとっては、初めての闘技場。

 初めて多くの人々に見られながら戦う。

 そんなことを考えて、先日からユーカは緊張している。


「緊張することはないわよ。ただ、相手を叩きのめすだけよ?」

「そんな簡単なことじゃないよ! 私、結構こういう人に見られながら何かをやるって緊張しちゃうタイプなんだよ~!!」


 うぅ……! と頭を抱える。

 特訓前はあれだけやる気があり、自信に満ちた姿勢だったのに。いざ、本番となると意識をしてしまい緊張で焦ってしまうようだ。


「特訓の時は大丈夫だったよね?」

「あ、あの時はモニター越しだったし。特訓所には私だけだったから……」

「あんまり変わらないじゃない。分からない子ねぇ」

「全然違うのー!!」


 ウォルツのおかげで、エントリーはギリギリでできた。

 そのため、後は大会開始を待つだけ。

 選手は、戦いが始まる前は控え室に向かうことになっている。だが、ユーカは緊張のあまり、まだ闘技場内にすら入っていない。


「ユーカ」

「じぇ、ジェイクさん?」


 萎縮してしまっているユーカにジェイクは優しく声をかける。 

 仲間として、師匠として。 


「確かに、闘技場は一人で戦う。だけど、一人じゃないって考えるんだ」

「一人じゃない?」

「ああ。俺達が。仲間がお前のことを見守っている。俺達が、傍に居るって考えてくれ」


 闘技場で戦うのは、一人。

 孤独な戦いとも言われているが、ユーカには仲間がいる。戦い自体は一人だが、闘技場内には見守ってくれる仲間達がいる。

 一人じゃないと考えれば、少なくとも緊張は解けるはずだと思っている。


「……は、はい!」

「でも、まだ震えてるわね」

「まあ、簡単にはいかないよねぇ」


 確かに、足が震えている。

 自分で言っておいて、大丈夫かな? と心配になってしまった。


「そろそろ、時間だ。俺達も席を確保しないと」

「そうね。ユーカ、あなたも早く控え室に行きなさい。もしかすれば、出場選手で、仲良くなれそうな子とかに会えるかもしれないわよ?」


 そういう考えもあるのか。

 出場するのはユーカと一緒の魔機使い。同じ職業同士、何かしら話題が膨らみ仲良くなれるかもしれない。


「な、なるほど! わかったよ! ジェイクさんの言葉を胸に控え室にユーカ=エルクラーク! 行って来ます!!」

「頑張ってねぇ!!」


 控え室へと向かうユーカの背中を見詰め頑張れ! と応援の言葉を送りジェイク達は観客席へと向かった。




☆・・・・・




 ユーカは、選手控え室前で立ち止まっている。

 このドアの向こうに、自分が戦うであろう選手達が集まっている。どうしよう、もし自分以外が年上で話しかけにくい人達ばかりだったら……。

 学校の行事やテスト以上に緊張している。


「……」


 ゆっくりゆっくりドアノブに手を伸ばす。

 ごくりと唾を飲み込み、捻る。


「いえーい!!!」

「わあっ!?」


 開けた瞬間だった。

 眩しい笑顔が現れ、驚きのあまり尻餅をついてしまう。


「ありゃ?」

「あいたた……」

「ご、ごめん! 大丈夫? ねえ? 大丈夫? お尻とか割れちゃった?」


 それは元々割れているんじゃ……と思うも声には出さず、差し出された手を取り立ち上がる。


「リビエ! 何をしているんだ」

「女の子を押し倒しちゃった!!」

「あ、いや押し倒されてはないんだけど……」


 二本のお下げを揺らす少女を、叱るように現れた片目が前髪で隠れている少年。ユーカは、女の子の言うことを否定するも、まったく話を聞いていない様子。


「ねえねえ! 君も、出場選手?」

「そう、だけど」

「ここにいるってことはそうだろ。当たり前のことを聞くなリビエ」

「えー! だって、迷ってここにきちゃったかもしれないじゃん!!」


 迷うのはいいとして、さすがに選手控え室と表札がある場所に入るのはおかしいとユーカは思った。リビエという少女の発言に男は頭を抱える。

 二人のやり取りを見て、すぐに理解した。

 少年のほうはかなりの苦労人なんだろうな、と。


「すまない。この馬鹿が失礼をした」

「い、いえ。お構いなく。どこも怪我はないので」

「そう言ってもらえるとありがたい。俺は、フォルス。そして、こっちはリビエだ」

「よろしくー!!」


 同い年ぐらいだろうか? なんだか親しみやすい感じだ。

 ユーカは、自然と笑顔になり自己紹介をする。


「私は、ユーカ=エルクラーク。よろしくね」

「ユーちゃんだね! 今日は、すごいお祭りだって聞いてあたし、テンション上がりまくりなんだ!!」

「お祭りじゃなく、大会だ」

「えー! 何が違うの?」

「全然違う。今日の大会は、俺達魔機使いにとって神聖なる戦いであり、これからの魔機使いがどうなるかの一歩になるかもしれないんだ」

「難しいことはわからないよー」

「まったく、お前は少しは考えると言うことをだな」


 なにやら、お説教が始まってしまった。

 そんな二人を見て、仲が良く、いつもこんなやり取りをやっているんだろうなぁっと容易に想像ができてしまう。

 ニコニコと笑顔で見ていると、フォルスはハッと笑顔のユーカに気づきこほんっと咳払い。


「よーし! ユーちゃん、説教魔人なんて無視して一杯お話しようよ!!」

「うん。いいよ。一杯お話ようか」

「まったく、誰が説教魔人だ」


 メアリスの言うとおりだった。

 仲良くなれそうな子と出会えた。

 今まで出会ったことがないやたらとテンションの高い子。今まで、ユーカは落ち着いていて、大人びた人としか出会わなかった。

 この元気の良さが、少し緊張がなくなってきたかもしれない。


「ところで、お嬢ちゃん」

「へ?」


 背後から男の声が聞こえ、振り向く。

 そこには、厳つく屈強な体つきの男が立っていた。


「そろそろそこを退いてくれねぇか?」

「あわわわ!? す、すみません!!」


 やっと気づいた。

 ずっと、出入り口の前に立って話していたことに。すぐその場から離れ頭を下げる。


「ほえー、あの人も魔機使いなんだー。明らかに格闘家にしか見えないよね」

「人は見かけで判断するものじゃない」


 落ち着いたところで、控え室内を見渡すと。

 先ほどの男同様、明らかに魔機使いじゃないだろう! という屈強な体つきの男がちらほらと見受けられる。

 見た目だけなら、レベルが高い。


 こんな人達と自分は戦うことになるんだ。

 緊張が解れたとはいえ、やはり心配になってきた。

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