第十話
結局、短めになりました。
前回よりは長いですが……。
一度距離を取り、ユーカは狙いを定める。
しかし、ライゴラスも簡単には逃がすはずがなかった。鞭のような尻尾を床に叩きつけ、逃げるユーカへと攻め入る。
「よし、あそこを!」
周りを見渡し、利用できそうなものを発見したユーカは一目散に駆け抜けていく。ライゴラスがちゃんとついてくるのを確認したうえで……作戦開始。
「っと」
いくつもある障害物のひとつ。
そこには、一部だけ穴が空いている部分がある。ユーカはそこを利用し、滑るように潜り抜ける。その穴は小さく、人が通れるぐらいしかない。
当然、ライゴラスのような巨体は通ることが出来ず、更にここに設置してある障害物は強度もかなりのものだ。
「ガアアッ!?」
ギリギリのところまで引き付けたおかげでライゴラスは障害物に激突。
よろめいたその隙を見逃さず、ユーカは魔力を込め、魔法を放つ。
「《フレアランス》!!」
火属性の中級魔法のひとつ。
炎の槍で敵を貫く。
それも一本だけじゃない。四本同時に相手を貫くのだ。足に、腹に、背中に炎の槍が突き刺さる。
「ゴガアアアッ!?」
フレアランスの直撃を受けたライゴラスは、その身をよろめかせる。これでもだめ? と眉を顰めたが、次の瞬間。
ライゴラスは、糸が切れたかのように倒れ経験値となり四散した。
「……ふう。なんとかなったぁ」
一安心と流れる汗を拭うが、すぐに気を引き締める。
まだ終わりじゃない。
休憩時間まで、残り二時間。
魔力も、体力も、まだ余裕がある。それをわかっているかのように、現れる魔物。今度は二体同時だ。しかし、出てきたのは今まで倒した魔物。
戦い方も、特徴も掴んでいるから二体同時と言えど戦える。
「《フォトン》!!」
先制の魔法。
強くなるため、ユーカはどこまでも真っ直ぐ、挫けることなく。皆に、強くなったぞと言えるように。
★・・・・・
「あんなにも鮮やかにライゴラスを倒すとは……」
「あれぐらいはできないと、この先戦っていけない。とはいえ、フィールド内の障害物を利用しての戦い方。中々だな。さすがは俺のユーカちゃん!!」
「勝手にあなたのものにしないでくれる? ユーカは私達のだから」
誰のものでもないと思うが……とジェイクは言いたがったが、そこへ部屋に侵入してくる者がいたためそこへ視線が集まってしまう。
「やっほほーい。きたよー」
「誰?」
と首を傾げるネロに対し、セレナが笑顔で答えてくれた。
「この方は、この魔法都市グリードゥアで魔法研究員のリーダーを勤め、魔法使いとしてもウォルツ様に引けを取らない実力を持つスペシャル!! ハージェ=ロードリア様です!!」
「ふふーん」
ものすごいドヤ顔だ。
魔法研究、というものはジェイクも聞いたことがあるし、昔魔法を愛し、研究をし続けた者に出会ったことがある。
その者は、魔法はどうやって生まれたのか。魔法と呪文、魔力の関係はどうなっているのか。それがテーマだった。現代の研究は、最新技術を最大限利用しているそうだ。
ハージェは、結構小柄で、メガネはかけておらず頭に乗せている状態。白いシャツに赤いネクタイ、大き目の白衣を羽織り、棒つきの飴を口に含んでいる。
ユーカと同年代、いや年下? それとも、メアリスと似たような存在なのだろうか? 見た目は、幼いが実年齢は、という。
「その魔法使いさんが、どういう用事なのかしら?」
「うむ。ウォルツが面白いことをすると言っていたからな。私もそれに加わろうと思っていたのだよ」
「加わろうって……どういう風に?」
ジェイクの問いに、ハージェはそれはねーっと言いながら部屋を出て行ってしまった。
「……え?」
「部屋を出て行ったわね」
「ウォルツ。彼女は何をするつもりなんだ?」
まったく意図がわからないジェイク。
いや、メアリスもネロもわかっていない。なんとも飄々としており、つかみ所がわからない人物だ。
「実は俺にもよくわかっていないんだ。あいつとは長い付き合いだが……よくわからんことが多い」
「どうしてそんな人を呼んだのよ」
「わからんことが多いが……あいつのやることで、いくつもの魔法使い達がより良い方向に成長していっているんだ」
なるほど。その実力を買って、呼んだということか。
ユーカをより良い成長を遂げさせるために。
それを聞いて、ジェイクは安心した……と思ったが、次のウォルツの言葉に結局心配になってしまう。
「まあ、調子に乗ってやり過ぎてしまうことが結構あるんだが」
★・・・・・
激戦が続き、やっと一回目の休憩時間。
戦いの場から離れ、ユーカは専用の休憩所で用意された飲み物を飲みながら精神を研ぎ澄ませている。
(二時間半で、魔力はギリギリ半分は使わなかった。この十分の休憩で、どれくらい回復するかで次の戦い方を考えなくちゃ)
膝を抱えながらガラス越しで見える自分が戦っていた場所を眺めているユーカ。
飲み物が喉を通る度に、疲労や魔力が回復しているのがわかる。
「ほー……意外と疲れていないようだね」
「はい。大分、魔力を抑えて戦っていましたから……え?」
誰!? とものすごい勢いで顔を左へ向ける。
立っていたのは、白衣を羽織った小さな少女。
棒つきの飴を舌で転がしている。
「やあー。初めまして、私はハージェだ。君がユーカ=エルクラークだね」
「そ、そうですけど」
やばい時に助けてくれる魔法使いの一人だろうか? と思いながら話に耳を傾ける。
「どうだい? 特訓をしてみて」
「えっと……こうやって連続して魔物と戦うのは初めてだから、新鮮って感じですけど。力にもなっているので、良い感じ、ですね」
うまく言えないが、今思っていることを正直に答えるユーカ。
それを聞いたハージェは、ふむふむっと数回頷き肩に手を置いた。
「なら、その調子で頑張りたまえ。どんな苦難が来ようとも、強くなりたい一心で」
「わかり、ました」
「ではねー」
なんだったんだろう? と首を傾げながら去って行くハージェの後姿を見送る。
「強くなりたい一心、か……よし!」
気合いを入れるために、ユーカは長い髪の毛をポニーテールに束ねる。十分の休憩を終え、再びフィールドへと戻ってきた。
一呼吸後、マジフォンを構え魔物の登場を待つ。
「さあ、どんな相手でも絶対勝つ!!」
と、その言葉に答えるかのように出てきたのは……二体のライゴラスだった。
「――――え?」
これは予想外。
ライゴラスが二体同時に出てくるのはさすがに予想外だった。しかも、体には数々の傷跡があり強敵と戦ってきた! と見せ付けているかのようなのが二体。
ユーカは感じた。
明らかに、最初のライゴラスとは違うと。
「えええええッ!?」
思わず、逃げるかのように距離を取り、障害物に隠れるほどに驚いていてしまった。