第七話
短めです。
「では、今回の特訓に関してですが。ユーカ様が指定したレベルは自由。大会までの二日間でどれだけ成長するのかは、ユーカ様次第。特訓は朝の八時から夕方の六時まで行います」
「そして、休憩は十時半に十分。十二時に一時間。十五時に十五分の計三回になります」
「魔物のレベルは25前後にしてある。これなら二日もあれば少なくとも5、6レベルは上がるんじゃないか?」
明日の特訓について最終確認をエレナ、セレナ、ウォルツの順番で説明を受けていた。
休憩があるとはいえ、ずっと魔物と戦うことになる。
そして、魔物レベルは現在のユーカのレベルより高い。これまで、その魔法攻撃力の高さで多少のレベル差がある魔物を倒してきたユーカだが……長期戦ともなれば魔力や体力も底が尽き始めるだろう。
「休憩の時は、こちらがご用意した魔力回復の効果があるドリンクを提供させて頂きます。その他にも、疲労などを取り除いてくれるお料理もございます」
「だが、これらのものを使っても完全には魔力は回復せず、疲労も取り除けない。これを二日連続で堪えれるかどうかは……ユーカちゃん。君次第だ」
「……はい」
ユーカの顔にも力が入っている。
二日間の間で、自分は大会に出る強敵達と渡り合えるようまでのレベルに到達しなくちゃならない。多少の無理は承知のうえだ。
そんな顔をしている。
「大丈夫だ。危険だと思えば、施設内で待機している魔法使い達が助けに入る」
「特訓中は、ジェイク様やメアリス様、ネロ様もこちらで用意したお部屋で待機して頂きます。もちろん、何があろうとも介入は許されません」
「もし介入、したら?」
エレナは、ジェイクの問いに静かに答える。
「特訓は中止。その時のユーカ様のレベルで大会に出てもらうことになります」
「この特訓は、新人を鍛えるために用意された特別なものだ。俺の他にも、高レベルの冒険者達が関わっている。今の時代、レベルは上がりやすくなっているとはいえ、魔物も強くなり独自の進化を遂げている種類も確認されている。この特訓は、その進化し続ける魔物達にも慣れるっていう意図もあるわけだ」
各大陸、各地方、場所によって違う魔物達。
ただ普通に旅をしていれば、その進化を遂げた魔物と出会い戦うこともできる。しかし、突然の対処というものができなければ、奇襲によりやられてしまう。
「なので、ユーカ様には明日の特訓に備えてこちらの資料に目を通してもらいたく思います」
エレナの手から渡された束にあった資料。
覗きこむとそこには、魔物の名前や特徴などが記されていた。
「今回の特訓で初めてであろう魔物達のデータだ。大丈夫。その魔物達は、俺達が実際戦って確かめたものだから。嘘は書いてない。ユーカちゃんには死なれたくないからね。もし、そんなことになったら俺、ユーリにボコボコにされるかもだから」
あははは、と笑うウォルツの顔はどこか怯えているように見える。それほどまでに、ユーカの姉ユーリは恐ろしいということなのだろうか。
「では、これにて会議を終了致します。寝室のご用意が出来ておりますので、女性の方々は私についてきてください」
「ジェイク様は、私です!」
ぴょんっと笑顔でジェイクに近づいてくるセレナ。
思わず頭を撫でたくなるほど、愛らしかった。
「ああ。よろしく頼む、セレナ」
「お任せください!」
「ではな。明日に備えて、ゆっくりと休んでくれ。俺は、今から特訓の準備をしてくる」
他のメイドの肩に乗りウォルツは先に部屋から出て行ってしまった。
ジェイク達は、エレナとセレナの案内でそれぞれの寝室へ。
今晩は、満月だ。
雲もあまりなく、はっきりと夜空が見える。ジェイクは、なんとなくベランダに出て月を見上げていた。
「あ、ジェイクさん」
「ユーカ?」
丁度ユーカの部屋が隣だったために、同じくベランダに出ていたユーカと遭遇。
「どうした? 眠れないのか?」
「あははは、そうなんですよ。かっこよくやってやるとか言いましたけど……やっぱり、不安です。二日でどれだけ強くなれるのか……一人で初めての魔物達と戦えるのかって」
そうか……と短く相づちをし、ユーカの部屋のベランダへ飛び移った。
「わっ!?」
突然、隣に来たジェイクに驚きつつも、ほっとしたような表情に変わる。
「お前ならできる。今まで、一緒に旅をしてきた俺が保障する」
元気付ける言葉を送り、ジェイクはまた空を見上げた。
ユーカも、隣で共に空を見上げながら懐かしそうに喋りだす。
「……そういえば、ジェイクさんと出会って私の旅が始まったんでしたよね」
「あの時は、俺のことを同じ初心者だって思って近寄ってきたんだったな」
今思い出しただけでも、くすっとなってしまう。
装備が装備だけに間違われるのだろうが、これでも伝説と呼ばれるほどの冒険者。オーラってものが自分にはなかったのかなぁっと思っていたりするジェイク。
「あ、あの時は……えっと……」
恥ずかしそうに、頬を赤く染め俯く。
そんなユーカを微笑ましく思い、ジェイクは続けた。
「まあ、ユーカと出会わなければこんなに楽しい旅もなかったんじゃないかって、俺は思っている」
「そう、ですか?」
「そうだとも」
「それを言うなら私も、ジェイクさんと出会わなければここまで来れる事だってなかったと思います。ジェイクさんと出会ったからこそ私は……ここまで成長できたんです」
そう言われると、素直に嬉しい気持ちになる。
「でも、明日からはもっともっと! 強くなってみせます!」
「頑張れよ。俺はただ見ているだけだけど……」
いいえ、と首を横に振り笑顔を見せる。
「ジェイクさんが。メアリスが、ネロが……仲間が見守ってくれているだけで私、頑張れます。挫けそうになった時も、仲間の顔を思い出して特訓をやり遂げて見せます!!」
どうやら、不安はなくなったようだ。
「ユーカ」
「はい」
最後に、これだけを言いたい。
ジェイクは、ユーカと見詰めあい拳を握り締め突き出す。
「強くなれ。そして、俺を……いや、メアリスやネロをも驚かせてくれ」
「……はい!!」
こつんっと拳同士をぶつけ合う。
そして、おやすみと言葉を交わしジェイクは自分の部屋へと戻り、明日に備え眠りについた。