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第四話

「セレナー! どこにいるんだー!! 返事をしてくれー!!」

「セレナさーん!! どこですかー!!」


 ウォルツの屋敷で働いているメイドの一人セレナを探して、数分。

 もう一人のメイドエレナとは姉妹関係のようで、姉妹共々昔、ウォルツに貧困だった時代に助けられ以来屋敷で働かさせて貰っているようだ。


「もう少し奥のほうに行っちゃったのかな?」

「これだけ探してもいないと考えると、ありえるかもしれないな」


 エレナがセレナとはぐれてしまった辺りから近場を探しているが、セレナと思わしき人物は見当たらない。

 見た目は、エレナと同じくメイド服にローブを羽織っており、翡翠色のセミロングヘアー。おそらく、姉とはぐれてしまっておろおろしているだろうということだ。


 メイド服にローブというだけでも十分に目立つ。

 とはいえ、良く見ないとローブの下にメイド服があるとはわからない。それに、霧が濃くなってきている。このまま時間が経てば、自分達も危ういかもしれない。

 この足場が悪いところで、更に視界も悪くなれば、移動や魔物に襲われた時に不利になってしまう。


「あ、皆さん! 見てください。カチューシャが落ちています」

「これは……セレナのものだ」


 ユーカが地面にカチューシャが落ちているのを発見。

 すぐにウォルツは駆け寄りそれを確認。セレナのものだと認識した。だが、メアリスはどうしてすぐにセレナのカチューシャだと認識できたのかわからず首を傾げる。


「なんでわかるのよ」

「匂いでわかる」

「……」


 その言葉を発した瞬間、メアリスはユーカ、ネロと一緒にウォルツから遠ざかっていく。あからさまに、変態から避けるような逃げ方をされてウォルツは傷つきつつもこほんっと咳払いをし気を取り直した。


「じょ、冗談だ。ここに、俺のセレナと名が書いてあるだろ?」

「確かに、書いてあるな」


 離れていった三人に代わり、ジェイクがカチューシャに縫われているセレナという名を確認した。


「となるとこの先は……まずいな。この先には、ゼリーヌメがよく発見される場所がある」

「セレナが危ない。急ぐぞ!」


 セレナがゼリーヌメという魔物に襲われる前に発見しなければならない。

 まだ襲われていないことを願いジェイク達は駆け足で移動する。

 ズボンに水が飛び散るがお構いなしに進んでいく。


「セレナー! どこにいるのー! 返事をしてー!!」


 叫ぶエレナ。

 その顔には心配の色が見受けられる。ジェイク達もセレナの名を叫ぶ。名を呼び、返事をしてくれるように。

 すると。


「お、お姉ちゃん!!」

「セレナ!!」


 見つかった。

 頭にカチューシャを見につけておらず、翡翠色のセミロングヘアーの少女。フードを外しており、ローブに下にはエレナと同じメイド服の布が見える。

 よかった、まだ襲われてはいなかったようだ。


「お姉ちゃーん!!」


 姉に出会えて嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。

 が、ジェイクはセレナの背後より現れる気配に気づく。


「セレナ!! 後ろだ!!」

「え?」


 ジェイクは叫ぶも遅かった。

 セレナを襲う薄い緑色の触手のようなもの。彼女の体を拘束し、身動きを封じる。


「あれが、ゼリーヌメ? あれは確かに……」

「ぬめぬめしているし……大きいね」


 まるで、無から生まれたかのようにセレナの背後に現れた巨大なゼリーム。ウォルツの情報通り、傍から見てもぬめぬめしているのがわかるほど液体が体を伝っている。

 そして、その大きさは通常のゼリームの四倍……いやそれ以上あるだろうか。


「お、お姉ちゃーん!! た、助けてー!!」

「セレナ! 待ってなさい、今私が……!」

「ハッ!!」

「ひゃっ!?」


 エレナが動く前に、ジェイクがすでに行動を起していた。一瞬のうちに距離をつめ、セレナを縛っている触手を切断。

 落ちてくるセレナを受け止め、後方へ下がった。


「無事か?」

「は、はい。あの……どなたか存じ上げませんが、助けて頂きありがとうございます!!」


 お礼を聞きながらゆっくりとセレナを下ろす。

 少し、ローブにぬめりがあるだけで怪我はないようだ。


「もう、はぐれちゃだめだって言ったでしょ?」

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん」

「だが、無事ならいい。無事なら」

「ど、動物が喋った!? って、あれ? この声、なんだかウォルツ様に似ているような……」

「今は、こんな姿をしているが俺がお前の主であるウォルツだ!」

「ええええ!?」


 声で、ウォルツだと判断できるとはさすがは仕えているメイドだ。

 しかし、自分の主が変な動物になっていることに驚きを隠せないでいる。自分が、セレナでもあんな反応をしただろうと苦笑しつつも、こちらに殺気を出している相手に向き合う。


「随分と好戦的なゼリームね。それとも、触手を切られた事を怒っているのかしら?」


 ゼリームはそれほど好戦的な魔物ではない。

 さらに、初心者でも安全に倒せる魔物ゆえに、あまり脅威でもないのだ。だが、今度の相手はかなり好戦的であり、通常のゼリームとは打って変わって強敵なのは間違いない。


「ジェイク! 奴の弱点は火属性だ! 打撃や斬撃はあまり効果がない!! 奴はこの湿地草原で生まれた特異体質の魔物。通常のゼリームの三倍の速度で体を再生させるんだ!」

「なるほど。特異体質、か」


 それで触手を切っても、すぐに再生したということか。


「だったら私の出番ね」


 と、前に出るメアリス。


「私もやる!」


 マジフォンを構え、ユーカも前に出た。

 強力な火属性、といえば二人だ。

 ジェイクは任せたといい一歩後ろに下がる。


「いくわよ、ユーカ。最大でいきなさい」

「了解!」


 互いに魔力を込める。

 それを阻止しずべくゼリーヌメが触手を伸ばしてきた。だが、ユーカ達のほうが早かった。現代の魔法は詠唱を必要としない無詠唱の魔法。

 魔力を込めるだけで、すぐに発動できる。


「燃え散りなさい!!」

「くらえ!! 《フレア》!!!」


 闇の炎と炎の弾が伸びる触手を容易に溶かし本体であるゼリーヌメを襲う。強力な炎により一瞬にして蒸発。光の粒子となり四散した。

 経験値は二人に吸収されていく。


「メアリスちゃん!」

「メアリス、ちゃん?」


 戦いが終わり、緊張の糸が切れたところでセレナが笑顔でメアリスへと駆け寄る。ちゃんづけで呼ばれたのを聞いたことがないジェイク達は違和感を覚えてしまう。


「セレナ。そのメアリスちゃんっていうのはやめなさいって三年前にも言ったでしょ?」

「でも、メアリスちゃんはメアリスちゃんだし。あぁ、変わってないなぁメアリスちゃんは」

「こうも言ったわね? 変われないのよって。私は、もうこの姿から変われないのよ。あなたは……」


 しばらくセレナを観察する。

 そして、なぜかユーカを見たメアリス。そこから二人を交互に見詰め、頷いた。


「あなたは、随分と成長したわね。同い年のユーカとは大違いよ」

「ええ!? 同い年だったの!?」

「あなたも、十五歳なんですか?」

「う、うん。十五、歳だけど……むむっ」


 明らかに、ユーカは対抗心を燃やしている。

 おそらく、メアリスは同い年でも体の成長が違うんだなっと思っているのだろう。


「セレナは、俺が大事に育ててやっているんだ。将来は、俺と一緒に」

「それ以上言えば、闇の炎に抱かれることになるわよ?」

「すみません!!」


 昔、何があったのかはわからないが、ウォルツはどうもメアリスに弱いようだ。


「セレナ。あの変態に、何もされていないわね?」

「うん! ウォルツ様は、私とお姉ちゃん。それに他のメイドさん達も大事に接してくれてるよ」

「ふっ。当然だ。俺は、女子には優しい賢者だからな!」

「女にだらしない賢者の間違いでしょ?」

「間違ってはいませんね。この前も、一日で何十人もの女性をナンパされておりましたから」


 それはすごい。

 ジェイクは、素直にすごいと感心している。自分であるなら、そんなことは真似できない。一日に、何十人もの女性をナンパするとは……。


「そんなことが可能な男がいるとは……」

「あ、あのジェイクさん。そこは感心するところじゃないですよ?」

「ジェイクも、本気を出せばそのぐらいできるんじゃない?」


 そうだろうか? ナンパなどやったことがないためできるかどうか。


「あなたはやらなくても大丈夫よ。あなたはあなたらしく振舞っていればいいの」


 そもそもナンパをするメリットというものがわかっていない。

 ナンパとは、異性をお茶などに誘う行為だということしか……いやこれも古い知識だから間違っているのだろうか? 


「さあ、セレナも合流したことだし。早くこの湿地草原を抜けてしまいましょう」

「そうだね。霧もだんだん濃くなってきているし。ウォルツ。案内お願いできる?」

「ネロちゃんの頼みとあらば、このウォルツやるしかあるまい!」


 ネロの頼みではなくとも案内をして欲しいものだ。

 何はともあれ、いつの間にか大人数となってしまったが問題はない。湿地草原を抜ければ、グリードゥアまではそれほど険しい道はない。

 ここを抜ければグリードゥアは目の前と言ってもいいだろう。

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