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第八話

 危険種を倒したジェイクとユーカは、ギルドから驚かれつつも報酬金を貰い、またラヴィがいる道具屋へと訪れていた。

 そして、店番をしていたラヴィにユーカは開口一番に。


「見て! 見て見て! 私、もうレベルが6になっちゃった!!」

「もうーうるさいなぁ。それもジェイクさんのおかげでしょ?」

「でも、トドメは私が刺した! その証拠にレベルだってこんなにも上がっているんだよ! いやぁ、魔物との戦いなんて全然したことがなかった私でもこうやってレベルが上がるなんてー」


 ユーカのぽろっと出た言葉にジェイクは首を傾げながら話しかけた。


「ちょっとはあったんじゃなかったのか?」

「それが全然ですよ。あたし達は、他のところとは違って戦いの基礎とか魔法の基礎とかそういうものがないところで学生生活をしていましたから。だから、あたしもレベルは1なんです。というか、ユーカ。あんた、ジェイクさんに嘘ついてたの?」


 半開きな目がさらに細くなり、ラヴィは喜んでいるユーカを睨む。

 それは、ジェイクに対して嘘をついたことへの怒りなのだろう。それに気づいた、ユーカは「それは……そのー」と視線を逸らす。


「ちょ、ちょっとぐらいはあったよ! 《ゼリーム》をその……一撃蹴るぐらい!」

「でも、倒していたんでしょ?」

「うっ……」


 だからあの時、歯切れの悪かったのか。

 ジェイクは納得しつつ、ユーカに助け舟を出す。


「別に俺は気にしていないから、そのくらいにしておいてくれないか? ラヴィ」

「……ジェイクさんがそう言うのであれば」

「ありがとう。さて、今回は買い物に来たんだ。この店の道具のこと教えてくれないか? 見たことがないものもたくさんあるから、情報を得たいんだ」


 この百年で、色んな道具が増えていることは一目瞭然。

 ざっと最初に来た時に、確認しただけでも数十は超える見たことのない道具があった。今は、丁度客もいないようだ。

 ラヴィにわからないものを聞きつつ、今ある資金で冒険の準備を整えることにした。


「もちろんいいですよ。道具屋の娘として、全ての道具の名前や使用法などをこの頭に入れています。なんでもお聞きくださいませ、お客様」

「ああ。それじゃ、まずは……これなんだが―――」


 それからは、ラヴィやユーカと共に店中の道具の名前や使用法などを頭に入れ、今後のことを考え購入していく。

 ジェイク達が討伐した危険種の報酬金は、全て使わない。

 旅をし、魔物を倒したりすれば貯まっていくが、もしものために少しは残しておくようにしっかりと計算する。


 満足のいく買い物ができたジェイクは、ラヴィに別れを告げ宿屋へと帰っていく。その途中、ユーカといつ旅に出るのかと話し合うことに。

 成り行きとはいえ、パーティーを組んだ以上一緒に旅をするのだ。

 とはいえ、まだユーカは冒険者になった日が浅い。

 もう少し、ここで経験を積んでからでも遅くはない。ジェイクは、ユーカのペースに合わせて気ままにいくと宣言した。


 対してユーカは。


「大丈夫です! 今の私ならいつでも旅に出れます! それに、私自身も早く旅に出て世界を見てみたいって気持ちがありますから」

「……そうか。だったら、明日には出発するぞ。しっかり旅の準備をしておくように!」

「了解です!」


 ユーカも立派な冒険者になりつつある。

 冒険者は、魔物がいようとも未知なる場所などを目指し旅をする。そこに夢があり、感動があるから。ジェイクもそうだった。

 ただ純粋に、未知なるものを求め旅をしていた。

 そして今も。百年が経ったこの世界をにどんなものがあるのか。それを自分の目で見て、確かめ記憶するために。


「というわけで、腹ごしらえをするか。もう昼だ」

「あ、でしたら私がオススメするお店に案内します! そこはですね、摩訶不思議なスープが有名でして」


 明日には、街を出て行く。

 残った時間を、街探索に費やした。




★・・・・・





「……なんだ? ここは」


 異様なまでの視線を感じ取ったジェイクが目を開けると、そこは何もない真っ白な空間がどこまでも広がっている不思議な場所だった。


「おぉ、ようやく繋がったか」

「その声は」


 振り向いた先にいたのは、自分を蘇らせ百年後の世界に転生させた守護神アルスだった。

 最初の時とはまた違った空間だったので、驚きだ。


「まず、お前に謝らなければならない。本来だったら、百年後の世界になんて送るつもりはなかったんだ。すまん」

「やっぱり、あれはなにか原因があって転生したんですね」


 神様に頭を下げられるなど、二度と体験できないだろうと思いつつもアルスとの会話を続ける。

 あぁっと頷きアルスは、どうしてジェイクが百年後の世界に転生したのかを説明し始めた。


「まず、今の状態じゃお前との会話は僅かしかできない」

「……アルス様、体が」


 よく見れば、アルスの体は半透明だった。


「何度も試みてようやくお前と繋がった状態だ。詳しいことは説明できない。簡潔にお前に伝える」


 最初出会った時の親友感覚な雰囲気とは違い、張り詰めた空気がアルスから出ている。

 それだけ、重要な話なのだろう。


「お前が死んだ後のことだ。謎の力が異世界に降臨し、お前の転生を邪魔した。その力がまだ何なのかはわかっていないが……おそらく、百年後の世界にもまだそいつは……いる」

「……」


 今思えば、百年後の世界にもアルスがいるはずなのに、目の前にいるのは百年前のアルス。しかも、完全に実体化しているわけではない半透明という不完全な状態。

 つまり、ここから導き出される答えは……百年後にはアルスはいない? じゃあ、百年後の世界を管理しているのは誰なんだ?


「ちっ。もうだめなのか」


 まだ五分も経っていないというのに、アルスの体が消えかかっていた。

 奥歯を噛み締めながら、アルスはこれだけは! とジェイクに告げる。


「いいか、ジェイク。今いるお前の世界は所謂パラレルワールドってやつだ! もしも百年の中で、俺がいなくなっていたらというな。そして、人々は俺がいなくなっているだなんて思っていないだろう」

「パラレルワールド……じゃあ、今この世界を管理しているのは?」

「わからん。だが、もし管理しているのが謎の力の正体だったとしたら―――」

「アルス様!」


 全てを伝え終わる前に、アルスは消滅してしまう。

 そして、すぐに真っ白な空間は黒い渦により破壊されていく。


「くっ! まさか、あれが……!」


 アルスが言っていた謎の力の正体。守護神が作ったはずの空間をこうも容易く破壊してしまうほどの巨大な力。

 ジェイクは、空間が完全に砕けた瞬間に……現実世界で意識が覚醒した。

 丁度、太陽が昇っていく時刻。

 外は朝霧が漂っており、徐々に空が明るくなっていく。


「……ここがパラレルワールド。もしも、アルス様がいなかったらの百年後、か」


 ベッドから起き上がり、明るくなっていく外を見詰めながらジェイクは今後の旅の目的を決めた。

 自分をこの世界に送った謎の力の正体。

 それが何なのかを突き止め、倒す。

 だけど、旅を楽しむことは忘れないでおこう。じゃないと、レベル上げに夢中だったあの頃と何にも変わらない。


「おし! 気分を入れ替えるために、素振りでもしてくるかな」


 これから、第二の人生初の旅立ちなんだ。

 パーティーメンバーであるユーカに心配をかけないようにしなくては。ジェイクは、集合時間ギリギリまで素振りをし、スッキリしたところで宿から荷物もを持ちあの公園へと向かった。


 ジェイクが転生し、そしてユーカと出会った公園。

 まだ三日しか経っていないが、思い出の場所。

 そして、新たな旅立ちのスタート地点。


「お? 随分と早いな」


 自分が先に到着するとばかり思っていたが、公園のベンチにはすでに荷物も纏めたユーカの姿があった。

 ジェイクが声をかけると、すぐに立ち上がり駆け寄ってくる。


「もちろんですよ。わくわくして、三十分前ほどから待っていました!」

「ははは。気合い十分だな。家族やラヴィなんかにはちゃんと挨拶をしてきたか?」


 旅立てばしばらくの間、顔を見合わせることはない。

 だからこそ、大切な家族や友達には挨拶を済ませておくのも冒険者としてやることのひとつ。 


「はい。今度会う時は、成長した私を見せびらかしてやる! と言ってきました」

「そうか。次に戻ってくるのはいつになるかわからない。お前がどれだけ成長できるか、俺も楽しみにしているぞ」

「わ、わかりました! ユーカ=エルクラーク! ジェイクさんのご期待に応えれるよう頑張りたいと思います!!」

「いい返事だ。それじゃ……行こう。未知なる冒険に!」


 太陽を背にジェイク、ユーカの二人は歩き出す。

 パラレルワールドだったとしても、ジェイクの足は止まらない。いや、むしろパラレルワールドだからこそ進むのかもしれない。

 もしも。誰しももしもこんなことがあったらと思うはずだ。そのもしもが、現実となったのがこの世界。

 もしかすれば、普通では考えれない未知なるものが待っているかもしれない。


 冒険者としての血が騒ぐ。

 どんな困難が待ち受けようとも、それを乗り越え……どこまでも進むだけだ。

というわけで、八話にしてようやく旅立ちました。


次回からは、新たな敵。新たな仲間。新たな展開を、頑張って書いていこうと思います。

では、次回またお会いしましょう。

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