プロローグ
というわけで、再連載です。
一度完結してから二週間ぐらい。気づけば、総合PVが二十万を超えました。未だに、経験不足で言葉の使い方もちょっと危うい自分ですが。頑張りたいと思います!
『うわああ! ちょっ、ちょっと待ってぇ! タイム! タイムぅ!?』
薄型のモニターで二本角の魔獣から逃げ回っている少女がいる。
水色の長い髪の毛を、気合いを入れるためにポニーテールに束ねた姿で。それを心配そうに見守っている金髪の青年。
金と赤の装飾が目立つ椅子に座り、傍らにはメガネをかけたロングスカートのメイド服を身に纏った少女と共に。
「……」
今は彼女を信じて見守っている。
だが、体が勝手に動いてしまった。無言のまま腰を上げる。
「ジェイク様。お座りください。あなたは、ユーカ様を信じて待っているとお決めになられたのですよね?」
「そ、そうだが……」
メイドの言葉に、ジェイク=オルフィスは再び椅子に腰を下ろす。
「ジェイク。ユーカはきっと強くなるわ。知っているでしょう? あの子は、一度言い出したことは必ずやり遂げる子だって。師匠であるあなたが信じなくてどうするの?」
黒いドレスに身を包んだ薄い紫色の髪の毛が特徴な少女メアリス。
真っ直ぐモニターで魔獣から逃げつつも、魔法を放ち撃退しているユーカ=エルクラークの勇姿を見詰めている。
「ユーカもジェイクの力になりたいんだよ。だから、困難なレベル上げの修行に挑戦している。それほら。さっきまで逃げるだけだったけど、相手の動きを観察して対処し始めてきてる」
モニターを指差す、黒いツインテールの少女ネロ。
ジェイクの空いた手をぽんっと置き、ね? と笑った。彼女達の言葉に、ジェイクは心の底から応援する。息を切らしながらも、次々に出てくる魔獣を倒している。
どうして、こんなことになってしまったのか。
それは今から、四日前にさかのぼる。
★・・・・・
旅を始めて一ヶ月とちょっとが経った。
思えば色んなことがこの一ヶ月で起こった。本当に一ヶ月だけしか経っていないのかと思うほどに。
ジェイク=オルフィスは、人間として初めてのレベル100へと到達した。
今では、転生者として十代の姿で第二の人生を送っている。
新たな仲間達と共に。
「……降ってますねぇ」
ユーカは、窓から外の様子を見てため息を漏らす。
ほんの数時間前までは晴天だった。
なのに、突然雨雲が集まり始め土砂降りとなった。偶然、冒険者達のために設置された休憩小屋を発見したため、服もそこまで濡れることはなかったが。
「雨具とか買っておいたほうがよかったね」
若干濡れてしまった髪の毛をタオルで拭き取りながらネロは呟く。それを聞いたジェイクはそうだなと頷く。
これまで曇り空になることはあったが雨が降ることはなかった。あったとしてもそれは、町などに到着している頃。今までは運が良かったが、雨具を買うということがどうして頭になかったのかと後悔している。
「雨具があっても荷物が嵩張るし。仕方ないわ」
と、メアリスが水筒から温かい紅茶をコップに注ぎながら言うがユーカが反論。
「でもさぁ、今じゃこれを買ったから荷物もそこまで嵩張らなくなったよ?」
ユーカの右腕に装着されている金色の腕輪。
名称を異次元リングと呼び、天才魔機技師であるメアが五年前に提案し生産された便利道具のひとつ。空間魔法を利用し、ある程度の荷物をこの小さなリング内にある別空間へと収納することができる。
リングほどの大きさだと、所持数は百が限界となっている。
しかし、それでも便利なものは便利と発売と同時に一瞬にして完売してしまうほど。空間魔法を扱える魔法使いも数が限られている。そのためにかなり貴重な代物なのだ。
が、ジェイク達はメア本人から旅の役に立つだろうと二つほどプレゼントされた。
本来ならば、十数万もする代物をだ。
ちなみに今ではリングの他にも、マジフォンの形をしたものも発売されている。より収納数を増やし、より旅の役に立つために。
「だよね。しかもこれ、本来のものと違ってパワーアップされているものだし」
「収納数は今最大で二百のマジフォン型と同等って言うんだから。本当にすごいな、メアは」
形は普通のリング型だが、これはメア自身の特注品。
二つあるので最大で四百もの食材や食器、その他を収納することができるが……ジェイクはずっと疑問に思っている。
別空間に収納するのはすごいことだが……食材には生ものもある。いつもは、なるべく生ものは買わないようにしていた。
腐ったりはしないのだろうかと。メアの説明では、大丈夫だとは言っていたが。
「まあ、しばらくはここにいましょう。次の街は後二日はかかるわ。それに急ぎでもないしね」
ネロから渡されたクッキーを齧り、紅茶を嗜む。
「魔法都市グリードゥアか……どんなところなんだ?」
「僕も、魔法使いや魔機使い達の聖地とかしか知らないんだよね」
これからいく、魔法都市グリードゥアのことを知っているのは実際立ち寄ったことがあるメアリスとずっと行きたいと思っていたユーカだけ。
「グリードゥアは、ネロも言っていましたけど魔法使いや魔機使いの聖地。強大な魔力が閉じ込められた巨大魔石を一度でも拝みたいって人がほとんどなんです。その魔石の魔力の光を浴びた魔法使いや魔機使いは幸福になれるって!」
「他にも、魔法使いと魔機使い限定の闘技場もあるわ。当然優勝賞品は、私達にとって重要になるものよ」
「そして! そこにはレベル100の魔法使い! 大賢者ウォルツ様がいるんです!!」
大賢者ウォルツ。
レベル100の魔法使い。
同じ魔法を扱うものとしては、憧れる存在というわけか。ユーカの反応を見る限りでも、かなり人望があり偉大な人物なのだろうとジェイクは考えた。
「へぇ。どんな人なの? そのウォルツって人は。ジェイクと同じレベル100なんだよね?」
「ただのチャライおっさんよ。相当な女好きで有名ね。実力は本物だけど」
「その口ぶりだと会った事があるのか?」
とても嫌そうな表情で、メアリスは語った。
「気をつけなさい、ユーカ、ネロ。あいつに目をつけられないようにね」
「僕は、男だって言ったら」
「い、今のネロだと無理なんじゃないかな?」
元男だとしても、今は立派な美少女。
ジェイクもそこまで詳しくはないが、世の中にはかなり特殊な性癖をしている人物がいるようだ。
「とりあえず、食事の支度をしよう。時間的に丁度いいだろうしな」
「そうだね。それじゃ、僕も手伝うよジェイク」
「ああ。ユーカとメアは食材と食器を用意してくれ」
「はい!」
「……」
元気に返事をしたユーカに対し、メアリスは無言のまま紅茶が入ったままのコップを床に置き出入り口のドアへと近づいていく。
「どうしたの?」
「さっきドアを叩くような音が聞こえたわ」
「確かに、コツっていう音はしたが……何かいるのか?」
ジェイクもその音は聞いた。
だが襲ってくるような殺気を感じ取らなかったため用心しつつも食事の支度を始めたのだ。メアリスは、それをどうしても気になってしまったようだ。
「……あら?」
ドアを開けると、そこに居たのは小さな動物。
「ウサギ……? それとも狼? にしては小さいし。なんだろう、この動物」
雨に濡れ倒れていたのは、ウサギのように長い耳を生やし狼のように太い尻尾を持った掌に乗るぐらいの大きさをした謎の生物だった。
別作品と同時進行となりますので毎日投稿は……まあ、できるように頑張ります。