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第七十九話

「いくわよ、四方八方からの同時攻撃を凌ぎ切れるかしら!!」

『いっくぜえ!! 今度こそ細切れにしてやらあ!!』


 分裂したシェリルはジェイク達を囲み、一斉に襲い掛かってくる。ただ襲い掛かってくるだけじゃない。先ほどと同じく指先を鎌のように変化させている。

 背中合わせにし、ジェイク、メアリス、エイジは迎え撃つ。


「いくら数を増やそうと……無駄よ!」

「今度こそ、てめぇをぶった切る!!」


 いくら分裂をしたとはいえ、強化されているわけではなさそうだ。むしろ、分裂したことで力が弱まっているかのように感じる。

 これならば、いくら数がいようとも。


「吸い取る!!」


 攻撃を弾き、ジェイクは分裂体であるシェリルから魔力と血を吸い取る。それをもう二体。脱力したように倒れる彼女達を確認し、吸い取った魔力を己の体に宿した。


「さあ、いくぜ!! シェリル!!」


 血が滾る。

 体が軽くなる。今ならもっと戦える。シェリルから吸い取った魔力……どこか今まで吸い取った魔力とは違うように感じる。

 これほど滾っているのは、そのせいなのか? 


「兄さん!!」


 声が聞こえた。それは、ジェイクは知らない声。

 が、エイジは知っていた。

 ということは、この声はセイジという者の声だろう。遠距離から、火球が飛んでくる。エイジの背後から襲い掛かっていた分裂体に直撃し軽く吹き飛ばす。


「セイジ! 無事だったのか!」

「うん。この状況……やっぱり、シェリルさんは」


 空間の裂け目から表したのは、栗色の髪の毛の少年。エイジと違い心優しく、本を読むのが好きそうなイメージを与える。

 彼の後ろに目をやると、ユーカとネロが立っていた。


「あら。全員集合ってところかしらね」

「え? え? ここどこ!? メアさんの部屋ってこんなに広かったっけ!?」


 最初に見た時よりも大分変わっていることに戸惑いを隠せないユーカに対し、ネロは冷静に周りを見渡し状況を理解したように頷く。


「ユーカ。おそらく、何かしらの空間魔法で部屋が大分広くされているんだと思う。そして、今この状況。彼女が敵のようだね」


 全ての分裂体の攻撃を凌ぎきったジェイク達。

 更なる戦力の増加。

 負ける気がしない。今だったら、相手が未知なる存在だとしても。


「またぞろぞろと……これだから人間はぁ!!」

『おう、シェリル! もっと俺を受け入れろ! 命を捧げるぐれぇになぁ!!』

「いいわよ、カドゥゲ。今の私なら……その程度!」


 分裂体が、本体へと集まっていく。

 それだけじゃない。

 カドゥゲが、よりシェリルと同化……いや、侵食していく。黒く、より黒く染まりその膨大な力は……弾けた。


「アアアアアアアアアッ!!!」


 体から溢れ出た黒き波動は、空間全域に広がりジェイク達を襲う。


「ちッ!! お前達! 俺の後ろに隠れろ!!」

「え? あ、はい!!」


 迫り来る黒き波動をジェイクは、その一振りで切り裂く。

 後ろに隠れろとは言ったものの、ジェイクは人間。

 体は大きいほうだが、完全に防ぐことはできなかった。


「この力……ただの闇属性じゃないわね」


 しかし、そこはメアリスがフォローしてくれていた。エイジとセイジの二人は、魔剣の力により無事。メアとアリスは……もちろん無事だった。

 メアが、障壁のようなものを張りアリスを守っていた。


「お前達! もはや、シェリルは魔族を捨てた! この力の波動がその証拠だ!」

「魔族? ……そういうことか」


 吸い取った魔力がいつもと違うのに納得がいった。

 だが、魔族を捨てた、というのは。

 カドゥゲと完全に同化したということなのだろう。あの影が、どんな存在なのかはまだわかっていない。金色の蚊も、この世のものではないとしか言ってくれなかった。


「あはは……アハハハハハッ!! いいわ。いいわよ、カドゥゲ。この力! 今の私ならな【闇焔の宝玉】など不要! 最初から、最初からこうすればよかったのよ!!」


 全身が黒く染まっている。

 元々褐色だったが、今の彼女は黒。本当の黒に染まり、体中に青い線が刻まれており、コウモリのような翼が背中から生えている。

 魔族を捨てた、とメアは言っていたが、形としては本に記載されていた魔族の一種を模している。


「哀れね。力に飲まれるなんて……」

「ああ。どこまでも力を求めた結果、てところだろうな。……いくぞ。奴を倒して、苦しみから解放してやろう」


 このままにしておけば、シェリルの魂は、肉体は崩壊するだろう。その証拠に、とても小さいが。体に亀裂が見える。

 だが、それを待っていてはジェイク達も無事では済まないだろう。

 何よりも……。


「……」


 メアに視線をやると、無言のまま頷いた。

 どういう関係なのかは、ジェイクには詳しくは分からない。それでも、あの目。無言の頷き。少なくとも、メアは今の彼女を楽にしてほしいと願っている。

 その願いを、今。


「皆。俺に、力を貸してくれ」

「力を?」

「ああ。俺に……魔力を。この剣に宿し、あの影を打ち砕く」

「……いいよ。ジェイク。僕達の力を君に」


 ネロが最初にジェイクの背に触れる。


「いってください、ジェイクさん! やっぱり、最後はジェイクさんじゃないと!!」

「仕方ないわね。新しく手に入れた力をもっと試したかったけど。あなたに譲るわ」


 その後から、次々に触れられる感触が。感じる……皆の力が、今ひとつになっているのが。


「なにをやろうと、今の私には敵わないわ!! いくわよ、カドゥゲ!!!」

『やってやれやぁ!! 今のお前は最強だぁ!!』


 集った。

 皆の力を、刃に宿す。輝くは、色鮮やかな虹色。これほどの魔力を一度に吸ったのは始めた。しかし、わかる。今のこの一撃は、あのカドゥゲを打ち砕くことができる。


「地獄に落ちなさい!!」


 膨大な魔力と異質な力が混ざり合った邪悪なる波動。簡単には防げない。防げたとしてもただではすまないほどに、肌にびりびりと感じる。

 それでも、今のこの一撃ならば。


「切り裂けえッ!」

「なにっ!?」


 黒き波動を両断。

 それだけじゃない。ジェイクは、前に出た。


「おおおおッ!!」

『させるかよ!!』


 カドゥゲが動く。

 ジェイクを邪魔をせんと、影を刃の形となし襲い掛かってくる。


「こっちこそやらせっかよ!!」

「そのまま、いってください!!」


 影は切り裂かれる。打ち砕かれる。

 エイジと、セイジの援護だ。

 ジェイクに、自分達の想いも込め、ジェイクを前へと進ませるために。


「私は……私はああっ!!」


 目と鼻の先まで近づいたところで、シェリルは負けまいと障壁を張る。が、それでも止まらない。この想いが込められた刃で……。


「終わりだああッ!!」


 障壁ごと切り裂く。


『嘘、だろ……? この俺様が……!』


 輝く虹の刃は消える。想いを込めた攻撃は、届いた。確実に、敵を切り裂いたのだ。


「私は……ただ力を」

「シェリル」

「め、あ?」


 消えていくシェリルに、メアは悲しき瞳で見詰める。

 まるでガラスが割れるかのように、彼女の体は徐々に。


「お前とは、もっと友として競い合いたかった。初めて出会った時のようにな」

「……そう、ね。そんな、純粋な時期も……あった、わね……」


 消えゆく、シェリルの表情はとても穏やかだった。ジェイクは、思い出していた。まだネロが仲間じゃなかった時に戦ったライザムという騎士のことを。

 彼も、力を求め異質な力に飲まれ最後は……。


「ジェイク」

「なんだ?」


 天へと昇っていく青白い粒子を見詰めながらメアは、呟く。


「友を、解放してくれてありがとう」

「……ああ」


 シェリルが消えたことで、広げられた空間も元に戻っていく。また、ひとつの大きな戦いが終わった。 時間にしては、それほど経ってはいないが長く感じる戦いだった。

次回作についてですが。青春系、というか異世界ものではありますが。青春要素と熱血要素? などを多めでいこうと思っています。

次回作は、この作品が完結したと同時に投稿しようと考えています。

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