第七十八話
ジェイク達が、メアの部屋へと向かう数分前のこと。
狂戦士の如き猛攻を仕掛けてくるエイジに対し、ジェイクは何かを察知した。その何かは、正確にはわからない。だが、何か、大きな力がどこかで……。
「エイジ!」
「なに言っても止まらねぇぞ!!」
エイジは、止まらない。止めるには、力で制するしかない。
どこか。自分以外に人物に何かが起こりそうだと。誰かが告げているような……誰かが?
『私だよ』
「お前は……」
ジェイクに力を分け与えてくれている金色の蚊の声だ。
「おらっ!」
エイジの攻撃を避ける。
避けつつ、金色の蚊の声に耳を傾けた。この声には、助けられている。なぜかはわからないが、とても重要なことをいつも知らせてくれるような。そんな気がしていられない。
『聞くんだ。ここから西の方角から、異質な力の波動を感じ取った。その力は……この世のものではない』
この世のものではない? それはつまり……異世界の力だというのか?
「……」
西の方角。
それはつまり、メアの部屋やユーカ達がいる方角。やはり、あっちで何かが起こっている。いや、起ころうとしている。
そうだとしたら、ここで戦っている場合じゃない。
「いつまで避けているつもりだ! 真面目に戦え!!」
「ああ……望み道理に!!」
横払いされる長剣を身を屈ませることで避け、エイジの向き出しの腹に腕を伸ばす。
「ぐあっ!?」
「吸わせてもらう! お前の魔力と血を!!」
相手の力を奪い、力を激変させる。
そして、奪い取ったものを己の力に。
「んだよ、それは……! 離れろ!!」
気力を絞り、ジェイクを払おうと蹴りを入れてくる。が、十分に力は吸い取れた。その証拠に、エイジの足取りが少し危うくなっている。
「ハアアッ!!」
青白かった魔力刃が赤く染まる。
吸い取った魔力と血を全て魔力刃へと変換したのだ。それは、より大きくより強大に。自分でもわかる。これを放てばこの部屋は無事ではすまないだろう。
だが、時間がない。
「受け切れよ! エイジ!!」
「な、ちょっ……!?」
容赦のない一撃。
真紅の刃がエイジ目掛け突き進む。ふらついた足取りで、エイジは魔剣を構え飛ばされた刃を防ぐ。が、勢いはと止まらない。
「ぐうう……アアアアアッ!?」
部屋の壁を突き抜け廊下へと吹き飛ぶ。
溜めたものを出したことで、すっきりとした感覚になりつつもやり過ぎたか? と今更ながら、自分が放った斬撃の威力に驚く。
「無事か? エイジ」
空いた穴からエイジを覗く。
廊下の壁までもが砕けている。ギリギリ上半身だけが外に出ている状態だ。全力で踏ん張っていたのだと感じられる床の擦り跡。
「無事……なわけねぇだろ! てめぇ、こんな隠し玉があったのか!」
多少髪の毛が乱れ、擦り傷があるが無事のようだ。
「あー……なんか滾っていたものが冷めた感じだぜ」
「そりゃ、魔力と一緒に血も吸い取ったからな」
「てめぇは、蚊かよ」
「まあ、間違ってはいないかな」
冷静になったエイジに、ジェイクは事情の説明を始める。ここから西の方角の部屋で、この世のものとは思えない力を感じたことを。
ここで戦っている場合じゃない。
もしかすれば、お前の仲間にも何かがあるかもしれないと。
「……この世のものとは思えない、ねぇ。その話が本当なら、セイジが危ねぇな」
「俺は、これから西に向かう。お前も、来るか?」
「ああ、いく。ムカつくが、今までの切り合い。さっきの攻撃……てめぇは俺よりも強いって理解した。敗者は、勝者に従う。いつの時代も変わんねぇ」
剣を鞘に収め、エイジは体についた汚れを払い落とす。
「別に、従わなくてもいい。お前は、お前の守りたい者のために動くんだ。俺も、俺が守りたい者達のために動く」
「……ああ。そうするとするか」
「そうだ。よし、急ぐぞ。走ればすぐだ!」
★・・・・・
ジェイク達の目の前で蠢く影。
名をカドゥゲと言う。
げらげらと馬鹿にするように声をあげ笑っている。
「カドゥゲが出てきたからには、あなた達も終わりよ。メア。もうあなたにも用はないわ。綺麗さっぱり消し去ってあげる!!」
「そういう台詞は、ここに募った強者達を倒してからにしてくれ。そのカドゥゲとやらがどんな存在かは知らないが、というか知りたくもないが。今の状況で、不利なのはお前だぞ? シェリル」
メアの言っていることは正しい。
数的に言えば、いや質から言ってもこちらが有利。仲間だったらエイジすらも今では敵となっている。メアリスも見るからに新たな力を得ているようだ。
「心配いらないわ。カドゥゲ! やるわよ!!」
『おうともさ! 俺様に出会ったことを後悔させてやるぜぇ!!』
カドゥゲが、形を変え、そのままシェリルへと同化していく。
白かった髪の毛は、黒く染まり青かった瞳は赤く染まる。
布面積が少なくり、とてつもなく露出がある服? だ。肌に張り付くような素材であり、体に曲線もくっきりとしている。
「さあ、準備は完了よ。軽くあなた達を葬ってあげるわ」
「んな変態な格好になったところで、何が変わるって言うんだよ!!」
確かに、あらゆるところの布がなく、へそを出し胸も横から見え、尻ですらも半分ほど見えてしまっている。エイジの言い分は十分にわかる。
しかし、見た目が変態チックだが。
「エイジ! 無闇に突っ込むな!!」
感じる。
見た目が変わっただけじゃない。
「相変わらず直球ねぇ……嫌いじゃないわよ、あなたみたいなお馬鹿さん!!」
『ひゃっはー!! 切り裂くぜぇッ!!』
手袋だと思っていたものが巨大な鎌のように形を成す。
「見掛け倒しだろうが!!」
「そうでもないのよ!!」
エイジの魔剣とシェリルの鎌がぶつかる。
そして、それは起こった。
突如として、鎌が複数に分裂。左右から挟み撃ち。離れようとするエイジだったが、小さな鎌が魔剣をがっちりと押さえつけていた。
「調子に乗らないことね!」
「ぐっ!」
「させるかぁ!!」
背後から現れたジェイクは、エイジを襲う鎌を一振りで払い除ける。
「やるわね。でも!」
使っていたのは、右手。
左手からも鎌が分裂し、襲ってくる。だが、ジェイクは構わずシェリル本体を狙いにいく。身を捨てている? 違う。
そっちは、任せたのだ。
「目だけで伝えるのはやめてくれるかしら?」
メアリスのフォローにより、鎌は止められた。
ナイスタイミングだ。
メアリスが、止めてくれると信じていたからこそジェイクは前に進めたのだ。
「容赦はしない!!」
「こちらもね!!」
右手はエイジを捉えている。
左手は、メアリスが止めてくれている。両手が塞がっている状態でも、この余裕。足から来るか?
『腹から発射だぜぇ!!』
予想を軽く裏切った。
黒い布。というよりも、カドゥゲが同化している部分から出てくると思ったが、見事にシェリルの肌から魔手が伸びる。
「それでも、止まらない!!」
魔力刃が唸りを上げる。
この剣は、魔力を送り込むだけ強固に、そして鋭くなる。
『ぬわにぃッ!?』
伸びた魔手ごと、シェリルを切り裂く。
衝撃により、数十メートル吹き飛ばされたシェリル。そこで、ジェイクはひとつ違和感を覚えた。右手の鎌を切った時も。
メアリスが左手の鎌を闇の炎により止めた時も。さっき魔手ごと切り裂いた時もそうだが……彼女は、痛みを感じていないのか? 普通なら、悲鳴を上げるはず。
鎌と言っても、指から形成されているものだ。
それが切り裂かれれば、激痛が走る。
しかし、彼女は悲鳴のひとつも上げずに戦っていた。
「……お前。痛みを感じないのか?」
「ええ……あなたの予想道理よ。私はカドゥゲと同化することで、あらゆる痛みという戦いに余計なものを除外しているの! いちいち痛みで怯んでいるようじゃ戦いにならないでしょ?」
「なんて女だ……」
今の彼女は、痛みを感じない。
複数と相手にするのだ。
どちらかの攻撃を受け痛みで怯んでいたら、その間に他の者からの攻撃を受けることがある。だとしても、痛みを無くすというのは簡単なことじゃない。
それは、神経がないということだ。
「カドゥゲ! 次よ! どんどん攻めていくわよ!!」
『いいぜ、いいぜぇ!! 次はこいつだぁ!!』
止まらない。
どこまでも、攻めていく。その意思が、シェリルを……増やした。なんとなく予想はしていたが、今度は本人を増やしてくるとは……。
痛みを無くした狂戦士。
だが、彼女の顔は明らかに疲弊しているように見える。痛みはないが、疲れはあるようだ。いや、己でも疲れているということがわかっていない可能性がある。
ただただ、戦うためだけに動く……そんな存在なのかもしれない。
突然ですが、後数話で一時この作品を完結することを決定しました。
理由としては、なんとかここまで書いてきましたが。もう少し、物語などの構成しっかりと固めてから書きたいと思い当たったからです。
なので、一時完結としてまた改めて時間を置いてから再開しようということです。
ですが、その間にも他の作品を投稿する予定です。勝手ながら申し訳ありません。よりいい作品を皆さんにお送りできるよう精進するつもりです。
長くなりましたが、また次回!




