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第七十七話

「答えなさい! メア!! あなた……まさかとは思うけど。あのクローンに【闇焔の宝玉】を!」

「ああ。プレゼントした」

「――――ッ!?」


 隠すことなく、誤魔化すこともなく、メアは答えた。

 シェリルは、今まで以上に目を見開く絶望した表情を見せる。そして、メアは淡々と説明を始める。シェリルにメアリスに言い聞かせるように。


「いいか。闇焔の宝玉は、魔界の炎を操るための制御装置。まあ、証のようなものだ。あたしは、風属性が得意だったからな。魔界の炎を操るには少しばかり資格が足りなかった。こいつを見つけたのは……そう、闇属性を極めようと煉獄地帯へとちょろーっと出かけた時だ」


 煉獄地帯。

 聞いただけでも、やばそうな場所だ。それをそんな軽い言葉で説明できるメアは、本物の実力者だという証拠。


「一時期、あたしから闇焔の宝玉を盗み去った奴がいたのだが……そいつは見事に、魔界の炎に耐え切れず灰すら残らず消滅してしまったよ。こうなることを予想していたからあたしはその力を使おうとはしなかった」

「そうだ。だから、私はあなたの代わりに!」

「お前にも無理だ。確かに、お前は闇属性の他にも火属性の適正があるが。それだけじゃ、無理なんだ」


 説明の途中、アリスはハッとあることに気づきメアに問いかける。


「あ、あの! 資格なきものは魔界の炎に焼き尽くされる、んですよね?」

「そうだ」

「じゃ、じゃあ! メアリスもそうなっていたかもってことじゃないですか!?」


 そうなのだ。うまくいったから結果的には大丈夫だったが。もし、メアリスに資格がなく、魔界の炎に焼き尽くされたかもしれない。

 そのことを考えてはいなかったのか? メアのことだから、考えてはいただろうと信じたいアリス。


「あたしが、何のためにメアリスを闇好きにして、長旅をさせていたと思う?」

「え? そ、それは……」


 メアリスが闇好きになったのは、偶然……長旅をさせたのもメアリスが勝手に出て行って……。アリスの中で、思考がぐるぐると回り結論に至った。

 まさか、最初から闇焔の宝玉の資格を得させるために。


「これは、実話だ。あたしは、闇焔の宝玉に認められた魔族から直接聞いた。魔界の炎から受け入れられる条件を」

「なんだと言うの、その条件っていうのは!」

「……闇を心から愛することだ」

「愛? そんなもので、魔界の炎から受け入れられるというの!? ふざけないで!!」


 メアがデタラメを言っていると思っているのか。シェリルは声を今まで以上に荒げる。アリスも、正直信じられないでいる。

 だけど、事実メアリスは闇を心から愛し、そして魔界の炎から認められている。百パーセント嘘、というのはないはずだ。


「魔界の炎。魔界の風。魔界の雷。……どれも、元は闇属性と合わさった属性。こいつらから認められるには、闇を極める。闇を愛する……それが条件なんだ」

「嘘よ……嘘、嘘、うそうそうそうそうそうそ……嘘よッ!! そんなもの……信じない! 例え、闇を極め愛したとしても、クローン如きが本物の魔界の力を操るなんて―――ッ!?」


 頭を抱え、心の底から叫ぶシェリルに襲い掛かる闇の炎。

 直感的に、近づいていたのに気づき横に跳ぶ。

 メアリスが、魔界の炎を従えシェリルに近づいていっている。

 ゆっくりと、静かに。


「信じられないのなら、それでいいわ。はっきり言って、あたしも魔界の炎とやらから認められたくて闇属性を好きになったんじゃない。まったく、勝手に人の体に変なものを入れて……」


 目を細め、メアを睨みつける。

 そうだ。いつ、闇焔の宝玉を渡したのか。まさか、クローンとして誕生した時からすでに? 


「まあまあ。おかげで、お前は魔界の魔族とも渡り合えるぐらい強くなれたんだぞ? 感謝して欲しいところなんだが」

「感謝はするわ。こうして、更に闇というものの虜になったのだから……いいわね。闇の炎。より美しく見えるわ」


 うっとりとした表情で、己の周りで蠢く闇の炎を見詰める。

 そんなメアリスの目の前で、俯いたままのシェリルが操り人形のように立ち上がる。長い髪の毛で、表情が隠れており、かなり不気味だ。


「まったく……昔から、変だ変だと思ってきたけれど。ここまで、変な女だったなんて……」

「変とは、失礼だな。あたしは、いつも正しいことをしている常識人、いや魔族だぞ」

「え?」

「それはないわね」


 クローン達からの容赦のない否定的な視線。

 正しいことをしてはいたと思うが、いつもではない。八割はあまり正しくないことばかりしていたと二人は記憶している。


「もういいわ。闇焔の宝玉がないのなら、作戦変更よ。あーあ……村ひとつに病を広めてまで、馬鹿な人間を操ったのに……私の苦労が台無しよ」

「村ひとつを病で? おい、それは魔界の」

「ええ。そうよ。魔界でも結構有名な病気。治すには、これまた魔界でしか製法できない特効薬のみ」


 髪の毛をかき上げ、更にメガネを外す。

 明らかに、彼女の表情、魔力の波動が変わった。


「魔界の病を持ち込むとは……」

「いいじゃない。私達、魔族からすればこの世界人間達なんてちっぽけな存在。健気だったわねぇ。村を救うためにって……ふふっ」

「―――おい、てめぇ」


 空間が割れる。

 ぴきぴきと音を響かせ、扉があった付近から亀裂が。ゆっくりと崩壊していく空間から、姿を現したのは、茶髪の青年。

 魔力を纏った長剣を手に怒りの色が見せる瞳でシェリルを睨みつけていた。


「あら、エイジ。ここにいるってことは、役目を果たしたようね」


 一階では、ユーカとネロがあの少年を足止めしているはず。ということは、あの青年はジェイクのところにいったということ。

 ここにいるということは、ジェイクは……いや、違うようだ。

 その証拠に。


「残念ながら、俺はここにいる」


 エイジという青年の背後から、無傷のジェイクが姿を現した。

 ほっと胸を撫で下ろすアリス。が、シェリルはまたもや不機嫌そうな表情を作る。


「エイジ。あなた、なに敵と一緒にいるの? 役目を果たさなかったの?」

「確かに、こいつに勝てなかったのは俺の力不足だ……素直に認める。けどよ! シェリル!! 答えろ!! てめぇは……てめぇは! 俺達を利用するために、村に病を広めたのか!?」


 今にも切りかかってきそうな形相で長剣をつきつけ叫ぶ。

 彼が、そして今一階でユーカ達と対峙しているであろう少年も。シェリルが、闇焔の宝玉を手に入れるために利用された人間達。


「……ええ。そうよ」

「てっめぇ……!」

「メアは必ず結界を張ってどこかに隠れている。正直、結界を破るのは私でも難しかったの。だから、それに特化した力のある者を仲間に取り入れよう……それが、あなた。弟くんはおまけってところかしらね」


 彼の怒りが痛いほど伝わってくる。村を救うために、頑張っていた。それが、ただ利用されていただけ。村に病を広めた張本人を手伝っていた。


「……シェリルだったな」

「なにかしら?」


 エイジの肩に手を置き、静止させてからジェイクが前に出る。

 メアリス達は、ただただ彼に視線を向けるだけ。

 自然と黙ってしまう。


「お前は、メアのあるものを狙って魔界から来た。そして、エイジ達を利用するために彼らの村を病で侵した……そうだな?」

「その通りよ。なに? だから、何なのよ」

「……反省の色はなし、か」

「反省? 私が反省? そんなのありえないわ。おかしなことを言うわね、人間って」


 もう限界だ、とエイジが再びジェイクの前に出ようとする。


「止めるなよ。俺は、あいつをぶっ倒す!!」

「止めるわけがないだろ。それに」


 エイジと並ぶように、剣を抜く。


「俺も、共にあいつを倒す! メアリス! お前もやってくれるな!」

「ええ。こんな奴が、同じ闇属性使いだなんて……私はもう我慢の限界よ」


 メアリスの怒りが、炎に宿ったのか。

 先ほどよりも、強くそして激しく燃え上がる闇の炎。これなら、勝てる。相手が、魔族だろうと。アリスはそう確信した。


「本当……鬱陶しいわね。ねえ、そう思わない? ―――カドゥゲ」

『ああ。まったくだぜ。ぞろぞろと集まってきやがって……蝿かっての!』

「な、なんですかあれは……!?」


 シェリルの背後から現れたのは、顔のパーツがある影。

 あんなものは見たことがない。

 言葉を喋っている。知性があるということだ。シェリルの体から生えているように見える。あれも……魔界の何か?


「あたしにも……わからん。あんなのは、魔界にもいなかった」

「え? じゃあ、あれは」


 メアですら知らない存在。

 あの影の正体は、いったい。戦況が、未知の存在の登場で変わることがあると本で読んだことがある。それが今、その時だとしたら……。

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