第七十五話
「おらあ!!」
魔力を纏いし長剣を、エイジは隙ができるぐらい大きく振りかざしてくる。
実際に対峙していればわかる。
あれは、わざと隙を作っているんだ。
ここに飛び込んで来い。その時は、反撃を食らわせてやる。そういう意思を感じ取れる。
「だったら!」
剣を斜めに構え、相手の攻撃の軌道をずらす。受けきるのではない。受け流すのだ。
「うおっ!?」
狙い道理、エイジはこちらへと倒れるかのようにバランスを崩す。
ここだ! ジェイクは、本当の隙ができた横っ腹に強烈な回し蹴りを入れた。
軽々と吹き飛んだエイジは、壁に激突する前に踏み止まったが、感触的にいいダメージを与えられたとジェイクは剣を構え直す。
「いってぇ……コノ野郎。男なら真っ向から勝負しろ!!」
「すまんな。こっちにはこっちの戦い方があるんだ。お前にはお前の戦い方があるように」
「言うじゃねぇか。だよなぁ……そういうことなら、お互いの戦い方を貫き通すとしようや!!」
咆哮し、何をするかと思いきや。剣で切り裂いた家具の残骸を打ち込んできたではないか。
「なんて奇策! いや、荒業だ!!」
「周りにあるものは、何でも使う! 俺は、故郷でもそうやって戦い抜いてきたんだよ!!」
避ける? いや、ここは。
真っ直ぐ飛んでくるソファーの残骸をジェイクは、真っ向から切り裂いた。
「そうすると思っていたぜ!!」
切り裂いたソファーから顔を出したエイジの顔は嬉しさのあまり笑っていた。こちらの行動を先読みしていたということか。
それを見越して、ソファーの後ろにつき一緒に突撃してきた。
初動が遅れる。
だが……!
ぐっと右足に力を入れ、無理やりにでも横へと跳んだ。それだけでは、終わらない。止まったと同時にもう一度足に力を入れ、屈折。
真横からエイジへと切りかかる。
「なろっ!」
これも荒業だった。
長剣を床に突き刺し、己の身を上に逃がした。そのまま倒れる勢いで長剣を引き抜きジェクトと向き合う。
「独特な戦い方をするな」
「そこらの利口な剣士達とは育ちが違うんでな。だが、俺はこの戦い方で。こいつと共に! どんな強敵も倒してきた」
ジェイクも、誰かに剣を習ったわけじゃない。
自己流。故郷で、素振りから始まり、我武者羅に特訓をして見に付けた剣術。だが、それは自然と戦いの中で勝つための剣術に変わっていった。
エイジは、まだまだ荒々しい部分がある。これからの戦いの中でどう変わっていくのか……いや、考えるのは予想。
やはり、中身が八十を越える老人なだけに若い者を見るとついその者の未来が気になってしまう。
「あ? どうしたんだよ」
「なんでもない。速く終わらせて、仲間のところにいこうって考えていただけだ。お前も、俺を速く倒して仲間のところに行きたいって思っているんじゃないのか?」
屋敷の中から確認はできている。
ここに侵入してきたのは、エイジを含め三人。
一人は、褐色の女性。もう一人は、ユーカぐらいの歳の少年。
「セイジなら心配いらねぇよ。あいつは、争いを好まねぇ奴だが……やる時はやる奴だ」
「よほど信頼しているんだな」
「たりめぇだ! あいつは、俺の弟。一緒に……故郷を救うって決めたんだ。あいつは、絶対負けねぇし。俺も負けられねぇ!」
弟だったか。
故郷を救う……そのためにメアを狙って? 違う。最初に言っていたが、メアに用があるのは褐色の女性のようだ。
彼等は、彼女の協力をすることで彼女から故郷を苦しめている何かから救って貰う約束をしている、のかもしれない。
(だが、あの女性。何か、嫌なものを感じた。……何も無ければいいが)
☆・・・・・
「うぐぐ……あぁあ……」
「な、なに。何が起こってるの!?」
ユーカは、ネロは、目の前で起こっていることに驚きを隠せないでいる。それは突然だった。侵入者たるセイジという少年とカードゲーム【マジック・ウォー】で戦い、ピンチから逆転劇をし、これからだ! という時だった。
セイジが、カードを引いた途端に、苦しみだしたのだ。
そして、つい視線がいってしまうのは……セイジの背後で不気味に蠢く何か。
いや、ネロだけは知っている。
前にも、見たことがある。あんな人の背後から現れる黒き影のような存在を。
『あーあ! 見ていてつまらねぇなぁ、おい。なにゲームなんかで遊んでやがるんだよ! さっさと、そいつらをぶっ殺せばいいじゃねぇかよ!』
「しゃ、喋った!?」
「やっぱり……あいつは……!」
妹の。フランに取り付いていたあの影。
だけど、どうしてセイジに取り付いている。今は、フランには取り付いていないのか? そう考え込んでいると、視線に気づいた影はにやっと笑いながら話しかけてくる。
『なんだ嬢ちゃん。俺のことを知ってるのか?』
覚えていない? それともわざと忘れているふりをしている?
「覚えていないの? 僕は、一度対峙したはずだけど」
『……はっはぁん? さては嬢ちゃん。俺の同族と出会ったな』
「同族?」
「え? え? 何を話してるの?」
ユーカはすっかり置いてけぼりにされてしまっている。ネロも今は、ユーカに説明できるほど余裕がない。
『そうだ! 俺達は、契約を結ぶことでそいつに寄生する。その代わりに、力を分け与えてやっているんだけどな。ま、こっちが奪う代価のほうが高くつくんだけどなぁ! ぎゃははははっ!!』
「何者なんだ! お前は!!」
払う代価が高くつく。
ということは、フランも……ネロは思わず、かっとなり声を荒げる。ユーカは、こんなにも声を荒げたネロを見たことがなく驚いてしまう。
が、状況は大体理解した。
『俺かぁ? あー……何者なんだろうなぁ!?』
明らかに馬鹿にしている。
声を聞いているだけで、感情を刺激させられるようだ。
『おしゃべりは終わりだ。まったくよぉ、本当は俺が出る予定はなかったんだが。こいつがちまちまと……終いにはやられそうになるって……だから、仕方なく俺様が出てきてやったんだよ!!』
黒い影がセイジの全身を包み込んでいく。
より苦しみだし、体中に変な紋様が浮かび上がってきている。さっきまでやっていたマジック・ウォーのテーブルを乱暴に退ける。
このままでは、セイジの体が耐えられない……。
早く、あの影を倒さなければ。ユーカはマジフォンを取り出した。
だが、ネロが静かに前に出たことで、動きが止まってしまう。
『あん? 一人で挑む気かぁ?』
「……あの時は」
『お?』
鞘から刀を抜き、静かに呟く。
先ほどの声を荒げたネロはいなく、冷静な研ぎ澄まされた刃のようなネロがそこにはいた。
「あの時は、フラン自身の力が僕と同等に戦えるぐらい成長していたからうまくできなかった。だけど……」
刹那。
刃に紅蓮の炎が纏う。
『―――ハッ?』
一度の瞬きをしただけだった。
その刹那に、ネロは影を切り裂きセイジの背後で静かに佇んでいた。影も何をされたのかわからないという反応。
ユーカにもわかっていなかった。もう決着がついた?
「君。僕が出会った影より弱いね。あの影だったら、攻撃を止められていた」
『あ、ががが……ぐぅ……! て、てめぇ……!』
纏った炎を払い消し、刀を刃に納める。
そして、言い放つ。
決意が篭った赤と蒼の双瞳で。
「僕は、諦めない。君達が何者だろうと……僕は、フランを救ってみせる」
『ぎゃは……ぎゃははは……俺を倒した程度で、調子に乗るなよ。俺の同族は、どこにでも現れる。そう! 俺達は影! 欲望がある限り……お前達が求める限り! どこにでも現れる存在だぁ!!』
声を高らかにあげ、影は消滅する。
操り糸が切れた人形のように倒れるセイジをユーカは慌てて受け止める。しかし、細身とはいえ人一人を受け止めるのはユーカにとっては少し苦であった。
受け止めきれず、バランスを崩してしまう。
「わっとと……!?」
「大丈夫?」
そこをネロがフォローしてくれた。
一緒に倒れることはなく、意識を失ったセイジを床に仰向けにして寝かせる。
「あーあ。あの影、なんてことしてくれたんだろう。いい雰囲気で戦っていたのに……これじゃ、不完全燃焼だよー」
床に散らばっているカードを見詰めながらユーカは、深いため息を漏らす。一応、戦いは終わった。だけど、なんとも呆気ない、というか。
「でも、勝ちは勝ちだよ。これで、僕達の役目は果たせた。後は……」
「……うん。ジェイクさんと。それに上の階で戦っているはずのメアリス達が他の侵入者を倒せば」
と、気を失っているセイジを見てネロはこう提案してくる。
「一応、縛っておく?」
「なんだか可哀想な気がするけど……意識を取り戻して、加勢に行かれても困るし。仕方ない、よね」
セイジは、セイジなりに真正面から戦った。
それが、予期せぬ形で終わってしまった。
本当に可哀想ではあるが、彼の足止めがこちらの課せられた役目。武器などになりそうなものを、没収し縄で動けないように縛り上げる。
「……二階、どうなってるんだろうね。さっきから、物音ひとつないけど」
「戦っている、はずだと思うけど……」
戦っているはずなら、かなりの轟音が鳴り響く……どころか、床が壊れてもおかしくはないはず。なのに、物音ひとつすら聞こえない。
不気味な魔力の波動を感じたきり、とても静かだ。いったい、上で何が起こっているんだ?




