第七十一話
ちょっと短めです。
エイジと分かれたシェリル、セイジの二人は看板の案内する道理に屋敷内を進んでいく。玄関から、しばらくあるいたところで階段に差し掛かった。
そして、そこにも看板が。
「メアさんの部屋は二階。階段を上がって左に曲がってね、と書いてありますね」
「随分と楽しんでいるみたいね」
「結構お茶目な方なんでしょうか?」
どうかしらね、と軽く返事をしてシェリルは先陣を切って階段を上がっていく。階段を上がっている中で、セイジは思った。
やはり、罠がひとつもないのはおかしい。
無用心過ぎる、と。
もし、自分ならば侵入を防ぐために何かしらの罠を設置する。
わざわざ空間が歪むほどの結界を張っているというのに、中になにもないのは。まさか、結界を張っただけで安心、慢心しているのか?
「セイジ。なにを考えているの?」
「え? あ、その。やはり、罠がないのが不気味で」
階段を上がり終わり、シェリルは言葉をかける。
セイジは、少し反省した。
ここは敵陣。
罠がないとしても、考え過ぎはだめだ。その隙を狙われるかもしれないのに。
「注意深いあなたらしいわね。さあ、この先にメアが居るわ」
「奥に看板がありますね」
ここからでも、なんと書いてあるかわかる。
この部屋がメア=ナイトゲイルの部屋と。
セイジは、考えるのを止め戦闘へ向け気を引き締めなおした。
「行くわよ。しっかり役目を果たしなさい」
「はい。僕は……僕達は、故郷のために」
より注意深く、そして慎重に廊下を歩きドアの前で立ち止まる。
ドアには、ノックしてくださいと書かれた張り紙が貼られてあった。シェリルは、はあっとため息を吐きたくなったがそれを堪え、数回ノックをする。
「入りたまえ。侵入者達」
「……」
ドアは、こちらから開けるまでもなく勝手に開いた。
部屋に入り、二人は……対面した。
様々な魔機を生み出した天才。薄紫色の長い髪の毛。真紅に彩られた二つの瞳。白衣の下は、とてもラフだが、雰囲気がラフではない。
メア=ナイトゲイルと。その傍らには、幼いがメアと同じ顔をした少女が二人。黒いドレスに身を纏った少女と、メイド服の少女。他には……誰もいないようだ。
やっと出会えた。
シェリルは、不適に微笑む。
「お? なんだ、侵入者はお前だったか。シェリル」
「ええ。お久しぶりね、メア。何十年ぶりかしら」
「知らん。あたしが、そんなことを覚えていると思うか? お前の魔力の波動すらど忘れしていたほどだぞ?」
それもそうね、と肯定。
「で? 今日は、いったい何のようだ。少なくとも、あたしはお前に用はないんだが」
「あなたにはなくとも私にはあるの。……どうして、私の前から消えたの? こんなどうでもいい世界で、あなたは何をしたいの?」
どうでもいい世界? とセイジは首を傾げる。
シェリルの言葉では、メアはここではない世界の出身に聞こえる。そして、シェリルも会話から考えるに彼女も……。
セイジに少し不安が、募る。
「あたしにとっては、あそこが意味のない世界なんだがな。あんなところに居ても、あたしは腐ってしまうだけだ。あたしは……もっと、人生を楽しみたいんだ」
「だったら、ここじゃなくてもいいじゃないの。ここよりずっと刺激的なことがあるはずよ」
「わからん奴だなぁ。あたしの求める刺激は……魔界で、得られる刺激とは違うんだ」
魔界!? セイジは目を見開く。
メアは、さっき魔界と言った。魔界と言ったら、あるかないかと未だに議論されている魔族という種族が住んでいる別世界。
じゃあ、メア=ナイトゲイルは……そう思った刹那。
「っと、これ以上の話は、あたしだけで進めよう。そこの少年は……こっちだ」
にやっと笑い、メアが何かボタンのようなものを押す。
何かが起こる。
警戒を高めたが、対処できなかった。
丁度セイジだけを狙うかのように、床が突然なくなった。
「しまっ!?」
セイジは、そのまま落ちていく。
遠くなるシェリルの後ろ姿。
これでは、自分の役目が……村が……! シェリルは、振り返ることはなかった。下の階に落ちたセイジは、早く二階に戻らなければと方向転換した。
「……君たちは?」
「ど、どうも。あなたの相手でーす」
「ごめんね。この部屋から君を出すわけにはいかないんだ。あっちの用事が終わるまで、大人しくしてもらうよ」
出口の扉を守るように立っていたのは、二人の少女。
一人は、水色の長い髪の毛の学生風の少女。
もう一人は、黒髪ツインテールの少女。
(彼女からは、異様な空気を感じる。これは……油断したら、こっちがやられる)
出口はひとつ。
彼女達を突破しない限り、出られない。
ならば、やることはひとつ。
腰にある本を一冊取り出し、セイジは戦闘態勢に入る。村を救うために……自分に課せられた役目を。兄であるエイジも、必ず役目を果たす。
だったら、自分だって。
「……勝負なんだけど。僕から提案していいかい?」
「提案? どういうこと?」
相手は、敵。
だけど、話は通じる。少なくとも、黒髪の少女は異様な空気を放つが基本話し易すそうな雰囲気だ。ペースをこっちに引き込む。
「そう。攻めてきたのはこっちだけど。僕は、そこまで争いが得意じゃなくて。だから……これで、勝負をしたい」
本に魔力を込め、中心に放り投げる。
空中で静止した本は、より一層輝きを増し、形を変えていく。
「本が、テーブルに……」
「ゲームをしよう。僕が二人に勝ったら、そこを通して貰う。だけど、負けた場合は大人しくここにいるよ」
本は、テーブルの形を成し、その上には何枚ものカードが束となったものが二つ。セイジ側と相手側。少女たちは、興味津々の様子で近づいてくる。
その姿は、まるで子供のようだ。
そんな姿を見て、彼女達は本当に自分を止める気があるのか? と疑問に思ってしまう。それほど、純粋にテーブルの上にあるカードの束を見詰めているのだ。
「ゲーム、か……私もできれば、痛いのは嫌だし。こういう勝負なら、痛そうじゃないから……どう? ネロ」
「どんなことであれ、足止めできるなら僕はいいよ」
「そうかい。ならば、始めよう。魔法カードゲーム【ウィザード・ウォー】を」
カードの束に手を置き、セイジは宣言した。