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第六十九話

 メア=ナイトゲイルの屋敷があると言われている標高二千二百以上ある山岳。

 名をバロダ山という。

 バロダとは、古代イージル語で風という意味を示す。その意味道理、バロダ山では心地よい風から荒れ狂う風まで様々な風が時間帯によって吹いている。


 深夜から朝方までは心地よくも温かい風。

 昼間から夕方まで荒れ狂い突き刺さる風。

 そして夜は、静かで冷たい風。


 近くにある町コブルーの住民は、バロダ山へと向かう者達には昼間から夕方は行かないほうがいいと伝えるのが慣わしとなっている。

 が、忠告を聞かずに昼間にバロダ山へと向かう者達が絶えない。

 わざわざバロダ山の入り口にも時間帯毎の風の変わりようを記載しているのにもかかわらずだ。


 数は少ないが、そんな無謀な者達もいる。


「つーわけで、行くなら急いだほうがいいぜ? 姉ちゃん達。今はまだ風が弱い。山登りをするなら今しかないぜって、言っていたが、本当に時間帯によって風の強さが変わんのかぁ?」


 バロダ山を登る三人組がいる。

 その中の一人。鍛え上げた肉体を晒し、上着を肩に羽織っている状態。身の丈と同じぐらいある長剣を鞘に収めたまま、岩の椅子にどっかりと座り茶髪の青年が呟く。

 今現在、風は心地よい。

 温かく、太陽の日差しもいい具合にぽかぽかとしていた。このままでは、眠ってしまいそうだ。


「ええ。あるわ」


 崖に堂々と立っている褐色の女性がメガネの位置を直し青年の問いに答える。右手をかざし、何もない空間を調べるように魔法陣を展開。


「けど、あの馬鹿っぽい妖精の言うことだろ?」

「兄さん。馬鹿っぽいは可哀想だよ」


 茶髪の青年の暴言に、隣に居た栗色の細みな少年が苦笑い。腰元の両脇に二冊の本を装備しており、左手には真っ白なマジフォンが握られていた。


「気にすんな、セイジ。実際、あいつコブルーで馬鹿やってあそこで働かされてるって話じゃねぇか。なあ? シェリル」


 褐色の女性シェリルは、見つけたと呟き魔法陣を一時引っ込め振り返る。


「ええ。そう聞いているわ。でも、もうちょっと女の子には優しくしないとだめよ? エイジ」

「へいへい。んで? 見つかったのか。メア=ナイトゲイルの屋敷ってぇのは」

「見つけたわ。だけど、さすがはメア=ナイトゲイル。空間を弄っている。強力な結界よ。屋敷に行くには、結構無理やりいかないと無理そうね。正規の入り方は、術式を理解しないといけないから時間がかかるわ」


 ふーんっと、茶髪の青年エイジはシェリルが魔法陣で調べていた何もない空間を自らの目で調べ始める。だが、自分にはただの風景にしか見えない。


「セイジ。お前も、魔法使いだろ。マジでここに屋敷があるのか?」

「うーん。シェリルさんが、言うんだからあるんじゃないかな」

「俺にはさっぱりわかんねぇな。ま、とりあえずちゃっちゃと道を開くとしようかね」


 まだ指示をしていないが、まるで自分がやるのを理解しているかのようにエイジは、鞘から長剣を抜き放つ。

 一見すると何の変哲のない剣。

 が、エイジが魔力を込めると刀身にオーラが纏った。


「どれくらいでやれる?」

「一分。って言いてぇところだが……どおりゃあ!!」


 一閃。

 豪快に振り下ろした一撃は、そこにはないはずの何かを捉える。空間が、揺れるがそれだけ。すぐに収まってしまう。


「こりゃあ、確かに厄介そうだな」

「僕も手伝おうか? 兄さん」


 と、セイジが前に出るもエイジは手で制す。


「心配いられねぇよ、弟。ここは、俺が一人でやる。多少時間がかかるだろうが……やってやるぜ。この俺の魔剣アーデルクで、結界なんてぶった斬ってやるッ!!」




★・・・・・




 メアに召集をかけられ、なんとか一分以内に食堂へと集まったジェイク達だったが、とうのメアが来ていない。

 が、どうせ上の階にある自室から現れるのだろうとわかっている。

 それより気になるのは。


「アリス。どうしたんだ? その泡は?」


 見れば、アリスの髪の毛や顔などには泡が付着していた。若干、服も濡れているように見える。いや、そもそもいつの間にメイド服に着替えたのだろうか?

 この屋敷でのアリスは、家事全般をやっているということだが。


「さっきまでお風呂の清掃をしていたんです。そこにメア様が一分以内に集まれと言ってきて。急いで向かおうとしたら……その、転んでしまいまして」

「とりあえず、これタオル」

「あ、ありがとうございます」


 怪我がなくて何よりだ。

 ネロが、タオルでアリスについた泡や服の水気を拭き取っていると、メアは天井から降りてくる。これは見慣れてしまった光景だ。


「皆、遅刻せずに集まってくれたようだな」

「あなたは遅刻しているけれどね」


 いつものように、メアに対する開幕の一言はメアリス。

 そして、気にするなと笑うメア。


「さて、集まってもらったのはお前達に知らせておきたいことがあるからだ。心して聞くがいい」


 いつになく真剣な表情をするメア。

 やはり何があったようだ。

 まずテーブルに置いたのは、水晶玉。水晶玉の中では、炎のようなものが燃えており、ゆらゆらと揺れているのが見える。


「その水晶玉は?」

「こいつは、この屋敷内を守るための結界。それに耐久度みたいなものを示している。本来ならば、水晶玉内を埋め尽くすほど大きいのだが……ご覧の通りだ」


 もう半分ほど小さくなっている。

 つまり、それは結界が弱まっているということ。やはり、あの空間の揺れは何者かが結界を攻撃していたのか……。


「あなたが言っていた来訪者の仕業、かしら?」

「おそらくな。自慢だが、あたしの結界はそこらの魔法使いの結界よりかなり強力だ。なにせ、空間を歪めることができるのだからな」


 メアの力は、自慢するだけはある。

 空間を歪めるほどの結界など、そう簡単にできることじゃない。


「自慢はいいから、早く話しなさい。時間がないんでしょ」

「ふむ。メアリスの言う通りだ。時間にすれば、残り五分ほどで、結界は破られるだろう。その際に、進入してきた者達。そいつらの撃退を、頼みたい」


 やはり、そうか。

 相手は、メアの結界を破ろうとするほどの実力者。ジェイクは、その五分の中でできるだけ情報を得ようとメアに問いかける。


「敵の数は?」

「感じられる魔力は、四つ。だけど、その中のひとつは異様なものね。そう……まるで魔剣」

「魔剣使いがいるんですか……」


 魔剣とは、主に魔石を素材に作られる特殊な剣。だが、中には魔石の他にも魔族との契約により生成されたものもあると噂されている。

 しかし、魔族の発見例少ないため信頼度は低い。


「一応、侵入者用の罠はあるが……ま、簡単に破られるかもしれないな」


 悠長に説明をしていると、轟音が鳴り響く。

 水晶玉を見ると、もはやいつ消えてもいいほど小さくなっている。


「そろそろやばいね。行こう、皆!」

「三人なら、いけます! 数ではこっちのほうが勝ってますから!」

「数で勝っていても、質としてはこっちがちょっとね……」

「なんでこっちを見るの!? わ、私だって強くなってるんだから! やるれるよ!!」


 ユーカは、強くなった。

 最初出会った時と比べれば、自慢してもいいぐらいに。


「やる気満々なのは結構! それでは、奴らを屋敷に誘い込んで撃退してしまおう」

「屋敷に、誘い込んで?」


 屋敷に侵入する前に、ではなく屋敷に誘い込むとメアは発言した。

 その意図はいったい……何を考えているんだ。

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