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第六十七話

「……ここは?」


 気がつけば見知らぬ場所に立っていたジェイク。

 いや、なんとなくだが知っているような気がする。ここは、アルスと最後の会話をした時の場所に似ている。似ていると言っても、周りが真っ白なところだけだ。


 気になるのは、真っ白な空間の中で一際目立っている真っ黒な扉。

 こう周りが真っ白だと、他の色があれば嫌でも目立ってしまう。

 他に、行く場所もない。

 ジェイクを意を決し、扉に手をかける。


 少し触れただけなのに、まるでジェイクが来るのを待っていたかのように開く扉。

 その奥にあったのは……。


「お前は」


 どこかに転移するのかと思っていたが、以前真っ白な空間だ。

 ただ、そこに扉があっただけ。

 しかし、何もなかったわけじゃない。目の前には……ジェイクがレベル100になるため倒したはずの金色の蚊が飛んでいた。


「ようやく、そっちから干渉できるようになったんだね」

「喋れるのか?」

「これまで、何回か声を聞いただろ? 忘れちゃったのかい?」


 声? 何回も……まさか、とジェイクは顔を上げる。


「男か女か分からなかったのあの声か?」

「そう。あの時は、まだまだ君との繋がりが弱かったからね。こちら側から声を少し送るだけで精一杯だった。けど、君はあれからドンドン成長していき、君のほうから僕と干渉できるまでになったんだ」


 成長と言われても、レベルというわけではなさそうだ。レベルの上限は100まで。それは百年経った今でも変わっていない。

 レベルとはまた違ったところが成長した、ということだろう。


「そうか、やっとか……だったら、聞きたいことがある。ずっと声の主と出会ったら聞きたかった事があったんだ」

「いいよ。でも、成長したとはいえまだ完全じゃない。時間が限られているからひとつだけになる」


 金色の蚊の言葉に、ジェイクは自分の体を確認し徐々に足のつま先から消えていっているのが確認できた。


「……あの力。あの人間離れした力は、お前の力なのか?」


 ずっと、気になっていた。

 転生したとはいえ、レベル100になったとはいえジェイクは人間。他の転生者は、何らかの能力などを貰ったりしているようだが、ジェイクだけは能力を貰った覚えがない。

 それが、気づけば【吸血剣士】という特殊な職業になっていて、人間の何倍の大きさがある存在を圧倒するほどに強くなっていた。


 感覚のままに、まるで最初から使い方をわかっていたかのように。相手の血と魔力を吸い、自分の力にして戦ってきた。

 あの声が聞こえるまでは、アルスが餞別として与えてくれた能力だと思っていた。あの声を聞いてから、不思議と声の主が与えてくれているんじゃないかと。

 そう思い込んでいたんだ。


「そうだ。君に倒され経験値として取り込まれた。私は、他の蚊とは違って少し特殊なんだ」

「特殊?」


 やばい、もう体の半分が消えている。

 これ以上は……。


「そう特殊なんだ。他の蚊は、ただレベル100となるためだけにアルスによって作られ、逃げることだけしかしない。自分の意思がないから。だけど、私は意志がある。だから、あの時、人間のために必死になって戦っていた君を見て、そして体に取り込まれた時、こう思ったんだ」


 消える。

 もう、口まで消えてしまっている。こっちから話すことができない。金色の蚊は、自分のことを話している。


「こういう人になら、力を貸してもいい。私は―――」


 最後まで、聞こえなかった。聞けなかった。

 だが、悪い存在ではないことだけはわかった。あの金色の蚊は、力を貸してくれる。どうしてなのかはわからない。

 最後に言っていた言葉。あれが、その理由だったのだろうか。

 また……会った時に、もう一度聞こう。

 そのために、もっと成長しなければならない。




★・・・・・




「――――まさか、蚊と会話する日がくるとはな」


 用意された寝室でジェイクは、窓から外の景色を眺めている。朝日は眩しく、小鳥達は空をいつものように自由に飛びまわっている。

 あの金色の蚊は、今自分の中にいる。

 力を貸してくれている。それは自分のことを認めてくれたから。


「最後は、なんて言っていたんだろうな……」


 それは、また会った時にでも聞こう。

 ジェイクは、気合いを入れ剣を手に部屋から出て行く。毎日の日課である素振りをするために、外に出ようというのだ。

 素振りの他にも、今では魔力のコントロールなども練習している。この剣を手にしてから、魔力刃が出せると分かった時から、ずっとやっている。


「お? 早いな。素振りでもするのか?」


 部屋を出て、玄関に向かおうとしたところで二階から丁度降りてきたメアと遭遇。相変わらず髪の毛はボサボサでちゃんと手入れをしているのか心配になってきてしまう。


「ああ。日課だからな」

「……その剣、普通の剣じゃないようだな」

「わかるのか?」


 鞘に納まったままでは、普通の剣となんら変わらない。この剣は、刃に溝があるという特殊なものだが初見でわかったのはメアだけかもしれない。


「わかる。と言っても、あたしは武器系統にはあまり詳しくないからな。その剣から感じられる魔力の波動を感じただけだ」

「それでもすごいと思うが。俺自身、こいつを最初に手にした時はまさかここまでの剣だとは思わなかったからな」


 実際、ただ溝がある不思議な剣だとしか思っていなかった。今のように魔力刃を出せるようになったのは、転生してからの話。

 いや、あの時はただ使い道がわかっていなかった。試そうともしなかっただけで、最初からそうだったのかもしれない。


「まあ、あたしはさっぱりするために風呂に入ってくる。アリスは、もう朝食の準備をしているようだ。あんまり遅くなるなよ」

「わかった。お前も、風呂で寝落ちなんてことはないようにな」

「はっはっは! 何回もなったことがあるが死んでいないから大丈夫だ!」


 全然大丈夫じゃないような気がするが……と余計に心配になってしまった。

 そして、一時間後。

 丁度一通りの日課を終わらせたところで、ユーカが朝食ができたことを知らせてくれた。軽くシャワーで汗を流し、昨日と同じ食堂へと向かった。

 すでに、ユーカ、メアリス、ネロは着席しておりアリスも最後の料理を運び終わって丁度座るところだった。


「メアはまだきていないのか?」


 椅子に座りながら聞くと……昨日と同じで天井から現れる。風呂に入ってきたことで、髪の毛もしっかり整っており、肌にも艶がある。

 なんとなくだが、予想はしていた。


「諸君! 揃っているそうだな!」

「待ってないで、先に来てなさいよ」

「全員揃ってから、現れたほうがなんかかっこいいだろ?」

「かっこいい、んですか?」

「さ、さあ?」


 ユーカに問いかけられたが、ジェイクにもメアのかっこいいの基準がわからず、答えられなかった。


「さあ、全員揃ったところで、頂くとしよう!」


 朝食の定番と言ってもいいスクランブルエッグからベーコン。サラダに、昨日の残りのスープ。こんがりと小麦色に焼きあがった食パンがテーブルにある。

 外で体を動かしたおかげで、胃袋は食べ物を欲しがっていた。

 食パンに卵スクランブルエッグとベーコンを適量分乗せて齧る。


「そうだ。今更だが、お前達はいつここを発つんだ?」

「いつまでも世話になっているのも悪いと思うから……今日発つかな」

「いやいや。もう二日ほどはここに居てくれ。何せ初めての客人だからな」


 二日、か。

 どうしたものか……とジェイクが悩んでいるとメアがにやっと笑いこんなことを言い出す。


「その二日の間に、面白いことが起こるかもしれないぞ?」

「面白いこと? 厄介ごとじゃないでしょうね」


 明らかに、嫌そうな目でメアを睨むメアリス。

 隣に居るアリスも不安そうな表情をしている。

 今までの彼女の言動や行動から考えると、何とでもないことが起こりそうな予感がする……。


「まあまあ。騙されたと思って、しばらくここに居てみてくれ」

「騙された結果、とんでもないことにとかなったりしません、よね?」


 アリス同様不安そうな表情でメアに問いかけるユーカ。

 そんなユーカに、メアは。


「この二日の間に、お前達以外の来訪者が訪れる。とんでもないことについて、そいつら次第ってところだろうな」


 彼女はいったい何を考えているんだ? その来訪者とジェイク達を会わせてなにをするつもりなんだ? 愉快に笑ってみせるメアだったが、ジェイクはそのことが気になってしょうがなかった。

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