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第六十五話

メアリスの案内でテーブルに案内され、十分ほどが経ち、キッチンと繋がっているドアから入ってきたのはアリス? ネロ? いや、違う。

 入ってきたのは……よくわからない存在だった。


 一見して機械の体だとはわかるが、その正体は不明。二本の足を交互に動かし歩いているのではなく、まるで浮いているかのように進んでくる。

 その手には、ネロ達が作ったであろう料理が盛り付けられた皿がある。


『おまたせしました』


 人の声、のような感じもするがどこか不思議な感じがする声を発し当たり前のように腕を伸ばしテーブルに料理を並べていく。

 並べ終わると、真っ直ぐキッチンへと引っ込んでいってしまった。


「え? え? なんなんですか、あの丸っこいの」


 驚きで声が出なかったユーカは、声を絞り出す。

 俺もわからない、と首を横に振り、唯一知っていそうなメアリスに視線を集める。


「私もわからないわよ。たぶん、私達がいなくなってからメアが作ったなにかなんでしょうけど」


 メアリスもわからないようだ。

 あれも魔機の一種なのだろうか。だが、あんな魔機は見たことがない。人間のように喋り、ちょっと特殊だが動く。

 これはメア本人に聞いたほうがいいだろうと思った刹那。


 マジ会話から激しい音が鳴り響く。かなり音量が上げられていたらしく、ユーカは驚きのあまりマジ会話を一度落としそうになってしまった。

 ギリギリのところでジェイクがキャッチしユーカに渡す。


「え、えーっと。このボタンを押せば、いいんですかね?」

「……聞いておけばよかったな。たぶん、そうだと思うが」


 マジ会話についているボタンは中央についているひとつのみ。

 これ以上、音がなり続くと耳が痛くなりそうだとユーカは中央のボタンを押す。すると、音は止み、代わりにメアの声が聞こえてきた。


『あー、あー。おーい、聞こえてるかー? 聞こえているなら、耳にマジ会話を当てて返事をしてくれ』

「き、聞こえてます。マジ会話を持ってるユーカです!」

『おー。どうやら成功したようだな。さすがはあたし!』

「確かに、すごいですけど。ちょっと音がでかいような気がするんですが……」


 と、最初は耳に当てていたが今はもう耳から離している。耳から離していても、余裕でメアの声は聞こえるからだ。

 隣に居るジェイクにすら聞こえてくる。


『そうだったか? すまんな。まあだが、成功したならよしとしてくれ。それで、料理はもう並べられているのか?』

「あ、はい。次々にテーブルに並べられていっています」


 テーブルに並んでいるのは、まだサラダやスープと言ったものだけだが。匂いから考えるに、肉類がメインとなることだろう。


『そうかそうか。なら、あたしも動くとしようか。それじゃ、一旦切るぞー』

「……もう声は聞こえませんね。はぁ、それにしてもびっくりしました。さすがにあの音量で、耳にずっと当てているのは無理がありますね」

「だが、会話機能は良好のようだな。これからが、楽しみになっているんじゃないか?」


 えへへっと、素直に笑う。

 と、ユーカは何かを思い出したのか。そういえばと前置きをしジェイクに言う。


「ジェイクさんもそろそろマジフォンをもったほうが良いんじゃないですか?」

「そういえば、まだ持っていなかったのね。お金のほうも大分貯まってきているし。私は、良いと思うわ」


 ファルネアの時に、マジフォンを買うように進められたが金の都合上買うのは後回しにした。あれから、多くの魔物と戦い素材を売り、クエストもクリアしたことでかなり貯まってきている。

 ちなみに、ギルドに行けば金を貯金することができる。

 財布には余分な金は入れず、必要な分だけ入れている。もし、財布を落とした時の為の対策だ。ギルドに貯金をすれば、全国どこのギルドでも引き出しができるため便利になった。


 百年前は、そんな機能はなく、金は自分で管理しなくてはならなかった。そのため、財布がかなり重くなることもしばしば。


「マジフォンか。確かに、俺も今の文明の利器とやらを持ったほうがいいかもしれないな」

「そうですよ! もし、買う時は私が一緒に選びます!」

「買うなら、最新機種のほうがいいわよ? ちょっと値段は高いけどね」


 自分はもう生まれ変わり、第二の人生を楽しんでいる。

 今の文明に対処していかないと置いていかれてしまうだろう。魔法は、使わない。ただメール機能などがある機種にすれば、値段もそれなりに安くなる。


「お待たせ。主食になるステーキだよ」

「あの、先ほどの大きな音はなんだったんですか?」


 今度は、可愛らしい動物の絵柄がついたエプロンを着たネロとアリスがキッチンから現れる。料理を運ぶためのカートに載せ、いい匂いを漂わせていた料理を運んでくる。


「あれは、メアさんが開発したマジ会話の着信音だよ。あの人、音量調整を間違っていたらしくて」

「やっぱり、キッチンにも響いていたんだな」

「結構大きな音だったからね。それで、マジ会話っていうのはどういうものなの?」

「それについてはあたしが説明してやろう」


 ネロの問いにメアの声が響く。

 ……上から。

 一斉に天井へと視線を向けると、天井が開き、そこから椅子に座ったままのメアが降りてくる。


「どっから現れるのよ、あなたは」

「どこからでも構わないだろ? ここはあたしの屋敷だ。お前達が去ってから、暇を潰すにはどうしたらいいだろうと考えているうちに、屋敷などを色々と改造したのだ」

「そういえば、メア様の部屋ってこの上でしたね」


 メアの部屋は二階。そして、キッチンや風呂などは一階にある。位置的に上にあるのはわかっていたが、まさか部屋からそのまま降りてくるとは思っていなかった。

 驚きの連発だったが、料理はテーブルに並べられ皆椅子に着席。

 食欲をそそる肉のいい匂いに誘われ、ジェイク達は笑顔で口の中に運んでいく。


「マジフォン同士で会話、か。それって僕のにもできるの?」

「もちろんだ。ユーカのマジフォンで成功をしたということは他のマジフォンにもいける」

「いったい、どういう仕組みなんですか?」


 メアは一度ナイフとフォークをテーブルに置き、説明を始める。


「難しいことじゃない。マジフォンに搭載されている魔石に術式を刻むことで他のマジフォンに声を届けているんだ。声を発する時は、微量ながらも生命力。つまりマナが排出されている。それを魔石に刻み込んだ術式で増幅させている。マジ会話の中にある魔石にも同じ術式を刻んでいるんだ」

「その術式が刻まれていないと声は届かないってことですか?」

「その通りだ」


 原理は、魔法文字を送るのと同じのようだ。ユーカにマジフォンのことを教えてもらった後ジェイクは、マジフォンについて調べた。

 魔法文字を遠くの者に届けられるのは、魔石に刻まれている転移魔法の術式のおかげだと書物には書かれていた。今回のは、転移魔法では無理なこと。

 おそらく、また別の術式なのだろう。


「だが、ひとつの魔石に複数の術式を刻むのはかなりの負荷になるなるんじゃないか?」

「だよね。マジフォンに搭載されている魔石は結構小さいからね」

「そうだな。それについてはあたしも考えていた。とりあえず、ユーカ。お前にマジフォンを返しておく」

「あ、どうも」


 メアからアリス。アリスからユーカとバトンのようにマジフォンを渡す。

 新機能がついているマジフォン。

 ユーカは、嬉しそうな表情をしている。


「ユーカ。マジフォンの魔力残量を確認してはどうだ?」

「え? はい。……え? な、七十あったのが六十まで減ってる!?」


 あれから、それほど時間が経っていない。

 会話も一分するかしないかぐらいの短い時間だ。たったそれだけで、十も減ると言うことはやはり負荷が大きくなっているという証拠。


「これが、問題点だ。ジェイクが言ってくれたように今の魔石は小さい。それに複数の術式を組み込めばかなりの負荷がかかる。もしかすれば、魔石を新調しなくちゃならないかもしれない……」

「むー。魔石の新調かぁ……まだまだ会話機能が広まるのは時間がかかるってことかぁ」

「そう落ち込むな。声を届けるのには成功している。後は、色々と調整をすればいいだけだ」


 余裕余裕! と笑顔で、ステーキを平らげ部屋に戻ろうとするメア。


「待ってください! まだサラダが」

「あたしは野菜は苦手ってわかっているだろー」


 サラダにまったく手を付けず、アリスの言葉を軽く流して姿を消す。


「相変わらず、味覚は子供ね」


 メアとは違いサラダを好き嫌いなく口に運んでいくメアリス。体や発想などはかなり大人びているが、意外なところで子供要素があったようだ。 

 残されたサラダを見て、アリスはしょうがないですね……と自分のところに運ぶ。


「あ、そうです、皆さん。今日はもう暗くなりそうですから。ここに泊まっていってください。ベッドも人数分用意しますので」


 メアの屋敷へと向かったのは昼過ぎ。

 移動するのに数時間かかったため、外は日が沈みかけている頃か。


「ありがとう、アリス。お言葉に甘えるよ」

「アリス。風呂は大丈夫か? 俺はまだ入っていないからな」

「はい、大丈夫ですよ。食事が終わったらご案内します」

「助かる」

「そういえば、僕も入ってなかったんだよねよし、じゃあジェイク。一緒に入ろうか!」


 ネロのその一言に、場の空気が凍る。

 特に、ユーカは口にステーキを運んだまま静止していた。


「あはは、なーんてね。今の僕は女の子だから、別々が普通だよね」

「まったく。真に受ける子達がいるから、気をつけなさいよ?」

「あわわわ……だ、大胆ですよぉ! ネロー!」

「い、一緒に……お風呂……お風呂……」


 メアリスの言葉通り、アリスは顔を真っ赤にし、ユーカはぶつぶつと何かを呟きながら頭を抱えていた。冗談を言えるほど、雰囲気に慣れてきた言う証拠だが、冗談の度が過ぎたようだ。


「あぁ、そうそう。言い忘れていた」


 カオスな空気になりつつあったところに、自室に戻ったはずのメアが再び椅子に座ったまま降りてくる。食後の温かい飲み物を口にしながら。


「わっ!? め、メア様。どうしたんですか? あ、もしかしてサラダを」

「いらない。サラダなどどうでもいい。それよりも、ユーカ。食事が終わったらあたしの部屋の整理整頓を頼む。頼んでおいて、結局やっていなかったからな。食後の運動だ」

「えー……」


 今、それを言うの? という反応しづらいという表情だ。それどころじゃない。何か他のことを考えなくちゃならない。それに集中したいという意思を感じる。


「メア様! ご自分でやってください!」

「はっはっは! あたしが整理整頓が苦手なことはお前もわかっているだろ。ではなー、待っているぞー!」


 言うだけ言って、再度自室へと戻っていく。


「もう……」

「アリス。メアの部屋やこの屋敷の掃除は、アリスがやっていたのか?」

「いえ、私だけじゃ時間がかかりますから。他のクローン達と一緒にやっていました。でも、メア様のお部屋は私の担当でしたね」


 その事実を聞いたうえで、ジェイクは気になっていた疑問を問いかける。


「だとしたら、アリスが去った後。他のクローンも適度にいなかった。それなのに、屋敷は完璧に掃除されているかのように綺麗だったんだが……誰がやったんだ?」

「それは……」


 答えを口に出そうとした時だった。

 メアが平らげた皿を回収する存在が目に入る。蛇のように細い腕を伸ばし、丁寧に回収している機械の体をしたあの存在。


『お皿をお下げします』

「あ、どうも」


 ネロが平らげた皿も一気に回収している。腹部に皿を載せる板のようなものがあり、そこに何枚も載せそのままキッチンへと去っていった。


「あの子が、やっていたみたいなんです」

「何者なんだ?」

「そ、それは私にもよくは……」


 ということは、ここはメア本人に聞いたほうがいいだろう。

 そう思った矢先。聞いていたかのように、メアがまたまた降りてくる。


「あたしが説明してやろう」

「あなた、何回降りてくるのよ」

「何回でもいいだろう。あたしの屋敷だ。さて、先ほどのあれが何なのかだが。あいつは、アリスや他のクローンがいなくなり、屋敷の掃除などを誰もやらなくなってしまったせいで蜘蛛の巣やら埃やらで屋敷が汚くなってきた時に思いついたのだ」


 やはり、自分でやるという考えはないようだ。


「簡単な指示をこなす便利魔機。カジーダくん一号だ。あれの核は全ての魔機に共通し、魔石だ。その魔石の魔力が尽きぬ限り、あたしが指示をしたことを自ら動きやってくれる。魔力供給はあたし自身でやらなければならないという点があれだがな。ちなみに、今後は二号、三号と数を増やそうかと考えて―――」


 それからは、メアのカジーダくんについての説明が続いた。

 その間に、皆食事を終え、先にネロは風呂場へと向かっていく。アリスやユーカが食器を洗っている間もメアの説明は続いていた。

 メアリスは、早々と部屋から去っていき、残されたジェイクはアリスとユーカの助けが来るまでメアの説明を淡々と聞かされていたそうだ……。

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