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第六十三話

すまぬ……すまぬ……今回も短めですじゃ……。

「ふう。いいお風呂でしたね~。銭湯並みに広くてびっくりしましたよ」

「元々、私達クローンがメアと一緒に使っていたから。多少広くないとダメだったのよ」


 白い液体も洗い流し、火照った体でユーカは嬉しそうに笑っている。まるで、要塞のような屋敷だったから風呂もきっと予想外のものだと思っていたらしく、予想を裏切ってくれて助かったと安心して風呂に浸かってきたようだ。


 ユーカ達が集合したところで、当初の予定通りメア=ナイトゲイルの自室に向かっている。

 屋敷の中に入って初めて分かった。

 窓と言うものがない。外から屋敷の中を見えないようにしているのだと思っていたが。だから、屋敷の中からも景色が見えないとばかり思っていた。

 しかし、中からは普通に外の景色が見えている。いったいどういう仕組みなんだ?


 この屋敷に訪れてから、知らないものが次々に出てきてジェイクの探究心を燻る。マジフォンの魔法機能に加え数多の魔機を作ったメアのことだ。

 中からしか景色が見えないという仕組みも常人では考えられない発想で作ったに違いない。


「ねえ、メアリス。メア=ナイトゲイルはさ、この屋敷に一人で暮らしているの?」

「さあ、どうでしょうね。私がこの屋敷を出た時は、まだアリスを含めたほかのクローン達がいたのは覚えているわ。私よりも、後に出たアリスのほうが詳しいんじゃない?」


 と、次はアリスに視線が集まる。

 突然話題を振られたアリスは、慌てた様子ながらも自分の記憶を探りゆっくり答えていく。


「わ、私が出た時はほとんどのクローンはいなくなっていました。メアリスと同じように、世界を見てみたいと言って出て行った者。寿命で死んでいった者……。さまざまいました。私は、ずっとこの屋敷で暮らしていこうと思っていたのですが。メア様が、気分転換に外に出かけて来いと仰られたので。二ヶ月ほど外の世界で色んなことを学んできました」


 廊下を歩いているだけでも、クローンらしき姿は見当たらない。

 家事能力が段違いに凄かったアリスを外の世界に出して、メアは生活していけたのか? と疑問に思っていた。

 いや、魔族というのは人間とは違い食事を取らなくても大丈夫なのかもしれない。


「なあ、アリス。メアは家事というか。掃除とかはするほうか?」


 ジェイクとネロが三人を待っている間に、入った客室。そして、近くにあった図書室などを調べたところ。掃除好きがやったかのように綺麗だった。

 会話やメアリス達の話を聞く限りでは、掃除などはあまりしないような人だと思っている。


「私が生まれるまでは、ちょっとはしていたようですけど。めんどくさがりやで、興味がないものにはとことん興味を示さないような人なので」

「それじゃ、この屋敷の掃除とかは誰がやっているんだろうね? アリス以外にも家事がすごいクローンはいたの?」


 そうだとしたら、頷けるが。


「そうですね…………いえ、そこまですごいというクローンはいなかったと思います。あの、失礼ながらメア様のクローンなので、その」


 生みの親、というだけあってはっきりと言えないようだ。


「めんどくさがったり、興味がないものには興味がない。私やアリスみたいに、クローンだけどどこかずば抜けた能力を持ったクローンは数は少なかったわ。……ま、それも含めて本人に直接聞いてみればいいわ。喜んで話してくれると思うから」


 アリスの変わりに、話を進めていたメアリスがひとつだけ雰囲気が明らかに違うドアの前で足を止める。ドアの前には「メアのへや」と書かれた看板が立てかけられている。

 分かりやすく助かるが……ジェイクも今までの経験から、ドアを開けた瞬間に何かがあるんじゃないかと若干警戒心が高まってしまっていた。


『あー、警戒しなくてもいい。外みたいな罠はない。さあ、早く中に入ってくれ』


 玄関先でもあった声を発する魔機。

 また自動でドアが開いている。

 メアリスが先頭で無言のまま中へと足を踏み込む。


「……うわぁ、なんだか色んなものがあるけど。これ、もしかして全部魔機、なの?」

「ああ。その通りだとも、少女」


 白衣を身に纏った薄紫色の長い髪の毛の女性が、椅子に座ったままこちらに振り返る。見た目は、メアリスがそのまま大人になったような容姿だ。

 髪の毛は若干ぼさぼさと乱れており、白いシャツと黒い短パンというラフな格好をしている。若干シャツが小さいのか、大きな胸がすごく強調させている。


「メア様。休暇から戻ってきました」

「うん、おかえり。あたしとしては、もう少し休んでいてもよかったと思っているんだがな」

「そうはいきませんよ。メア様は放って置くと、食事すら取らない日が続くんですから」

「いいじゃないか。魔族は、毎日食事をしなくても死にはしないって」


 アリスの心配に、メアはのん気に笑っている。

 まるで、アリスがメアの母親みたいに見えるが、実際はメアが母親のような存在。ゆるゆるな空気の中に、メアリスが入り込んでいく。

 その第一声は。


「まだ死んでいなかったのね」

「第一声がそれ!?」

「それはこっちの台詞だ。ほとんどのクローンは、二十年もしないうちに死んでいったのに。お前は、本物の魔族のように長生きだな」


 顔や容姿などが似ていることから、親子が睨みあっているように見える。

 さすがに、喧嘩には……ならないよな? と心配しながら静かに様子を伺うジェイク。


「……ま、再会の挨拶はこれぐらいにしておこう」


 そう言って、今度はジェイク達を見詰めてくる。

 赤い瞳で、観察されるように。


「いやぁ、まさかあのメアリスが友達を作るとは思わなかった」

「友達じゃないわよ。ただの旅仲間」

「似たようなものだろ? というわけで、黒髪の少女から名前を言ってくれ。……いや、それとも少年と言ったほうがいいかな?」


 にやっと笑うメアにネロは目を見開く。

 それは当然のことだ。

 ネロの事情を知らない者は、絶対少女だと認識するはずだ。それなのに、メアはネロが元男だということを知っている。


「なんで」

「簡単だ。体にかかっている術式。それは性転換のものだろ? しかも……その術を使ったのは、あたしと同じ魔族だ」

「……魔族」


 体にかかっている術式を目で見てわかるなど、並大抵の魔法使いでは不可能。やはり、噂どおりの魔法使いということか。


「そして、隣の少女は……ふむ」

「な、なんでしょう?」


 自分は何を言われるんだ? と緊張気味のユーカ。が、メアの口から出てきた言葉は。


「うん! お前からは何も感じられない!!」

「がーん!? ……しょ、しょんなぁ……嘘でも、何かあるって言って欲しかった……」

「だ、大丈夫ですか? ユーカ」


 真っ直ぐ目を見てはっきり言われたことで、ユーカは崩れ落ちる。ネロとアリスが、そんなユーカを元気付けている横で、ジェイクはメアと対面。


「ふむふむ。一番、興味があるのはお前だ。……お前から感じる尋常じゃない力。お前……ただの人間じゃないな? 名前を聞こう」

「……ジェイク=オルフィスだ」


 ジェイクの名前を聞いたメアはほう……と、さらに興味を示したかのように怪しく笑った。

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