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第六十二話

「ふっ、ようやく見つけたわよ。苦労した甲斐があったわね」

「苦労したのは……こっちだよー!!」


 一人、やり遂げたという表情で屋敷へと行くための安全ルートの道を発見したメアリス。その横では、白い液体塗れになったジェイク達の姿があった。

 いや、ジェイクとネロはそれほどかかっていない。キノコが破裂しようとした瞬間に、なんとか回避行動をとったために若干服等に付着している程度。

 が、ユーカだけは、まだ経験が浅くメアリスにかなり押し付けられていたせいで頭の天辺から足のつま先までかなりの付着している。


「いい経験になったでしょ? 旅をしていれば、ああいう咄嗟の対応が必要になってくるのよ」

「一番最初に引っかかったメアリスに言われたくないんだけど……」

「否定はしないわ。私もまだまだ経験不足だったということよ」


 そんなことよりも、とメアリスは入り口の周りを細かに確認していく。今までのことから、本物の入り口にも何かしらの罠があるんじゃないかと疑っているようだ。


「入り口付近にはなし。でも、あの女のことだから安全ルートでさえ罠を張っているかもしれないわね」

「さ、さすがにそれはないんじゃないですか?」


 元々メアの性格を知っているメアリスは、警戒心が高まっている。アリスは、そうでもないのではと苦笑いをしているが……果たしてどうなのか。

 入り口が変わっているということは、屋敷までの道も何かしらは変わっていると考えていいだろう。ジェイクも、念には念を入れて警戒心を高めておくことにした。


「油断しちゃダメよ、アリス。あの女の性格はわかっているでしょ? 生まれたばかりの私達に、あの女が何をしたのか……」


 一瞬、メアリスの表情が沈んだ。

 いったい、生まれたばかりのメアリス達に何をしたというんだ?


「それじゃ、いこう。僕も罠がないか一応警戒は怠らないようにしておくよ」

「お願い」


 緊張感のある空気の中、ジェイク達は屋敷へと向かう安全ルートへと入っていく。階段を下りると、すぐに入り口を隠すように木が動き出す。

 暗闇に包まれる空間。

 灯りを、と思った刹那。ジェイク達を導いてくれるかのように明るくなった。


 周りは、鉄のような壁に囲まれており天井などが崩れる心配はないようだ。

 いつもなら、楽しく会話をしながら移動をするのだが、今は違う。

 先頭を歩くメアリスの雰囲気に、皆自然と無口になってしまっているのだ。


 そんな時間が三分ほど続き。


「―――何もなかったね」


 地上に戻るための階段へと辿り着いた。

 何も罠らしきものはなく、ただただ真っ直ぐ歩いていただけ。ユーカはほっと胸を撫で下ろすと同時に、拍子抜けだなぁっと一人階段を上ろうと前に進む。


「待って、ユーカ! まだ罠がないって決まったわけじゃ」

「大丈夫だよ! やっぱり、ここは普通に安全ルートだったってことなんだから」


 まだ油断はできないとネロがユーカに声をかけるも、ユーカは大丈夫と笑顔で階段に足を踏み入れる。


 カチッ。


「え?」


 嫌な音がした。

 これは、ダンジョンでも味わったような展開になるかもしれない。いったい何が来る? と警戒した瞬間だった。

 天井から白い手袋をした手が現れ、一枚の紙をユーカの顔に押し付けた。


「はぶっ!?」

「ユーカ! 大丈夫か!!」


 押し付けられた勢いで、尻餅をついてしまったユーカをジェイクは助け起しながらも、押し付けられた紙を手に取る。


「な、なんて書いてあるんですか?」

「罠はなにもないよー。ドッキリでしたー、だって」


 後ろから文章を読み上げるネロ。どうやら、さっきのボタンの音はただのドッキリ。驚かせるためだけのものだったようだ。


「はあ……いきましょう」


 ため息を吐き、メアリスは先に階段を上がり地上へと出て行く。それに続きアリスも地上へと出て行く。


「意外とお茶目な人なんだね」

「これ、お茶目なのか?」


 だが、メアという人物がどういう性格をしているのかははっきりと見えてきた。色々な魔機を生み出すほどの知識と発想力。

 それに加え、魔族であるがゆえに魔法に関してもかなりの強者。

 しかし、そんな力を持て余し、子供のような悪戯に使ってしまう。メアリスのため息も、頷ける。もしかすると毎日のようにこんな悪戯を受けていたせいで、メアの傍から離れたのだろうか?


 メアリス達を追い、階段を上ると、屋敷がすぐ目の前にあった。

 近くから見ると、圧倒的な存在感がある。

 入り口は、正面の扉だけ。

 まさか、そこにも罠が仕掛けられていると言うことは……ないと信じたい。


「メアリス。扉に罠があるってことは?」

「ないわね。今までの経験上、あの煽りが出てきたってことは今はそこまでの罠は仕掛けられていないわ」


 どれだけの経験を積めば、そんなことがわかるのだろうか。想像をしてみようとするが、まるで想像ができない。

 最初の雰囲気から一変し、若干疲れた様子のメアリス。

 扉の横にあるボタンを押し、しばらくすると。


『おー、来客とは何年十年ぶりか。もしかして、あたしのクローンの誰か?』


 扉の上にある装置から女性の声が発せられる。

 おそらく、メア=ナイトゲイルの声だろう。


「問いかけなくても、わかっているんでしょう?」

『いやいや。もう何十年も、クローンとは会っていないから。名前すらど忘れしてしまった』

「……メアリスよ。後、アリスも居るわ」

『おー! あたしのクローン体の中でも、もっとも完成度が高かったメアリスか! それに、あたしのクローンとは思えないほど家事能力が高かったアリスも一緒なのか。それで……後ろにいるのはお仲間さんか?』


 あちらからは、見えているようだ。

 こちらからは、メアの姿は見えない。いったいどこから見ているんだ? やはり、魔機で遠くから見ているのだろうか。


「ええそうよ。もういいかしら? 早く中に入れなさい。こっちはあなたの作った罠のせいで、べたべたなのよ」

『相変わらずだな、お前は。まあいいだろう。そういうことなら、入れてやる。それと、風呂もついでに沸かしておいてやろう。ちょっと待ってろ』


 数秒後。

 その見た目から想像していたが、かなりの重量感ある音を響かせ扉は開いていく。人影はなく、自動で遠隔操作で開けたようだ。


『さあ、これいいだろう。あたしの部屋の場所は覚えているか? もう何十年も来ていないから忘れているんじゃないか?」

「覚えているわよ。あなたと違って、そこまで歳はとっていないわ」

『そうかそうか。なら、あたしは自室で待っている。そうだなぁ、先に風呂にでも入ってからにしたらどうだ? うん、それがいいだろう。そういうわけだ。ゆっくり風呂に浸かってからこっちにこい。ではな!』


 ぷつんっという音が鳴る。

 遠くの者に声を届けるとは、今までなかったものだ。


「それでは、皆さん。お風呂はこっちになります。私についてきてください」


 とはいえ、ジェイクとネロはほとんど無傷のようなもの。

 二人は、三人が風呂から上がるのを待っていると言い先に客室へと案内された。

 客室は、思っていたよりも整頓されており、ソファーや暖炉。見た目からかなり高価な絨毯が敷かれている。

 液体を流し、髪の毛を洗ってくるだけだから十分ほどで戻ってくると伝え、ユーカ達は風呂場へと向かっていった。

次回から、もうちょっと長くなる予定。

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