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第六十話

短めでーすっす。

 帝都アルヴァラントへ向かう途中小さな町コブルーへと訪れたジェイク達は、コブルーの住民達の睡眠妨害をしていた妖精を捕まえ、保護した。

 睡眠妨害をしていたが、直接傷つけたり、命を奪ったわけでもない。捕まっていた冒険者達も、そこまで悪い子じゃないと弁解した結果、一ヶ月ギルドの受付やウェイトレスの手伝いをすることで許されることになった。


 妖精族は普段、人の多い場所には近づかない。

 清き水とマナ、自然の中で暮らしているのが普通。主に、エルフと一緒に居ることが多い。精霊とは違い、妖精は実体を持っており、自由にものに触れられ会話ができる。

 マナの集合体と言えば精霊となんら変わらないが、実体を持っている分妖精のほうが精霊よりは慣れ親しまれているのだ。


「飲み物をもってきましたー」

「もうちょっとやる気のある声は出ないのかしら?」

「ふーんだ。妖精族がなんで人間が作った店で働かされなくちゃならないのよー」


 ぶーぶーと不貞腐れている妖精。

 名前を、アルミラと言うらしい。他のウェイトレスとは違い、飛べることができるのでものを運ぶのは一番早い。


「文句言っちゃダメだよ? 一ヶ月ここで働けば、皆もアルミラのことを許してくれるって言うんだから」


 頭を撫で、不貞腐れているアルミラを元気付けるユーカ。


「アルミラちゃん! 次のものを三番テーブルに持っていって!!」

「はーい」


 料理長からの声に、ふよふよとカウンターへ向かっていくアルミラ。なんだかんだ言ってちゃんと働いている。

 根っからの悪ではない。ただ、悪戯がしたくてたまらない子供というだけ。ちなみに、女性客からはかなりの人気が出ている。

 やはり妖精族というだけあって、小さく可愛らしい容姿と羽、ウェイトレスの格好がすごく似合っていると周りの女性客は笑顔で彼女のことを見守っている。

 男性客にも……人気はあるようだ。若干、息が荒い人物がおり、心配になってしまうところがあるが。


「さて」


 アルミラの働きを見守った後、ジェイクはテーブルを囲っている仲間達を対面。目の前には、メアリスとメアリスに似ている少女。

 今から話し合うのは、彼女達についてだ。

 アルミラが悪戯をしていた屋敷の地下から救出した少女。彼女も冒険者だという。名前は、アリス。メアリスと同じく闇属性を扱えるらしいが、そこまで強いものは使えないとのこと。


「メアリス。単刀直入に聞く。アリスとは……どんな関係なんだ?」


 姉妹、双子、と言われればなるほどと納得してしまうほど似ている。だが、彼女達の雰囲気から考えるとそうじゃないとジェイクの直感が叫んでいる。


「……」


 アリスは、言い難そうにジェイク達から視線を逸らす。

 話を切り出したのは、メアリスだった。


「まあ、別に隠すようなことじゃないわね。……あなた達、クローンっていうのは知っているかしら?」

「クローン?」


 聞いたことがある。いや、この世界に来てから本で読んだことがある。


「クローンって、自分の分身を作るっていうあれ?」

「その解釈でも間違ってはいないわね。ただコピーをするだけなら、こんなに小さくはならなかったんだろうだけど」

「でもさ。クローンの実験ってもう二十年も前に廃棄されたって僕聞いたことがあるよ」


 ジェイクが読んだ本にもそう書かれていた。

 クローンを作る実験は、魔機を使ってもやはり難しいものだったらしく。ちゃんとしたコピーを作ったとしても、数時間で命を落としたり、能力がかなり低下してしまう不備が多々あったために、関わっていた科学者達や魔法使いも断念。

 ちなみに、能力が低下したがちゃんと生きているクローン達は、今でも元クローン科学者の下で暮らしているとも書かれていた。


「もっと昔……」


 ずっと黙っていたアリスがぼぞっと呟く。


「もっと昔から、クローンは実在したんです」

「それが……メアリス達ってことなのか?」

「ええ。でも、こんなにも長生きをしているのは、私達ぐらいじゃないかしら。私は、てっきりクローンで生きているのは自分だけだと思っていたからね」


 ということは、二人以外にもクローンは存在していた。が、他のクローンはメアリスやアリスよりも先に命を落とした可能性が高い。

 それは、能力の低下やクローンを作った時に起こった何かしらの不備のせいで。


「わ、私もです。こんな出来損ないな私だけが生きているのだと思っていました」

「……出来損ないじゃないわ」

「え?」


 自分のことを底辺だと思っているアリスに、メアリスはそっと手を重ねた。


「確かに私達はクローン。本物じゃない……でも、ちゃんとこうして、自分の意志を持って、生きているじゃない。出来損ないなんて言っちゃダメよ。ね?」

「……はい。ありがとう、ございます」


 同じ境遇、同じクローンだからこそメアリスはアリスの気持ちがわかる。アリスを元気付けるメアリスはまるで姉のように見えた。

 顔が似ているということもあって、尚更。


「それでさー。誰のクローンなの?」

「ちょっ!? アルミラ! ぶち壊しだよ! というか、サボっちゃだめ!」

「いいじゃん。私も気になっちゃうだもーん。気になって、仕事が手につかなーい」


 まったくこの妖精は……眉を顰めながら、視線はメアリス達に向けられる。

 ユーカもアルミラを叱っていたが、内心では誰のクローンなのか気になっているようだ。視線に気づいたメアリスは、しょうがないわねっと口を開く。


「私達を作ったのは、素体となった魔法使い。科学は一切使わずに、クローンを何十体も作っているわ」

「科学を一切使わずに? それって魔法だけの力でクローンを作ったってこと?」

「は、はい。今から、八十年ほど前になります。その頃には、もう魔機は存在しましたが……あの人は、自分の魔法だけで私達を作ったんです」


 魔機が誕生して数十年後。

 クローンを作ろうとしたのは、本に記載されていた通りだと五十年ほど前。二人の話が本当なら、人々がクローンを作ろうとしたよりも早くその魔法使いはクローンの創作を開始し、成功を収めているということになる。しかも、魔法だけの力で。


「その、魔法使いの名前は?」


 それだけのことをやってのけるほどの力ある魔法使い。

 もしかしたら、ジェイクも知っているかもしれない。

 張り詰めた空気の中、メアリスは自分達を造った魔法使いの名を言う。


「―――メア=ナイトゲイル。闇属性と風属性魔法の使い手で、今も生きているなら……今年で百十歳ぐらいになるかしら? あいつのことだから、生きているんだろうけど」

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