表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/162

第五十八話

「むー、結局カイオルではあまりゆっくりできなかったなぁ」


 宿のチェックアウトをし、北門付近からカイオルの街並みを眺めユーカを呟く。


「前のファルネアよりは、ゆっくりできたんじゃない?」

「確かにそう言われると」

「あの時のあなたは、一人で走り回っていたものね。……あ、今回もそうだったかしら?」

「うっ。なんか私、走ってばかりだね……」


 ファルネアでは、自分の不甲斐無さに渇を入れるために一人でクエストをこなし。カイオルでは、ジェイク達を探すために体に鞭を入れるような思いで走り回っていた。

 行く先々でこんな感じだと、強くはなれるが街をゆっくり観光できないんじゃないかと不安になってくる。


「ジェイクさん」

「ゼイン。見送りに着てくれたのか?」


 悩むユーカの肩に手を置いていると、ゼインが現れる。

 どうやら見送りに着てくれたようだ。


「はい。見送りにきたのと、後は教えておきたい情報がありまして」

「情報?」


 頷き、ゼインは語る。


「ジェイクさん。帝都へ向かってください。そこには、聖女ナナリアが居ます。聖女とは、神々に愛されし少女の呼称。もしかすれば、創造神アダーについてなにかわかるかもしれません」

「聖女ナナリア……」


 世界中には、神を信仰している者達は山ほど居る。

 しかし、その中でも神にもっとも近く愛されているというのが聖女。ジェイクも、聖女という存在は昔から知っている。

 レベル99になれば神託が下されると言ったのも大昔の聖女だと歴史本に記されていた。


「けど、もしかしたらその聖女が知っているのはアルスという可能性が高いわよ」


 そうだ。この世界を創ったのはアルスだということになっている。創造神アダーは、確かにこの世界を作り上げたがやはりアルスの影響はかなり強く本当の創造神にはなれていない。

 だからこそ、アルスを葬ることで自分が本当の創造神となるつもりなんだ。


「ああ。だが、可能性がないわけじゃない。それに、俺も帝都には向かおうとは思っていたからな」

「じゃあ、次の目的地は帝都アルヴァラントですね!」

「カイオルに行くよりも長い旅路になりそうだけど……まあ、いいかしらね」

「ジェイクさん。俺は、あなたという希望を信じて、このカイオルで俺らしく人々に希望を与えようと思っています。だから……必ず」

「任せてくれ。もう一度……いや、今度は、世界中の希望となれるように俺はやってみせる!」


 人間の希望となった時とは比較にならないほど壮大だ。

 だが、やると決めたからにはやるしかない。

 この先、どんな苦難が待ち受けていようとも。


「じゃ、そろそろ出発しましょうか」

「ゼイン。元気でな」

「はい。ジェイクさんも」

「さようならー! ゼインさーん!!」


 波乱な出来事を乗り越え、戦いの聖地カイオルから旅立つジェイク達。チャンピオンゼインに見送られ、目指すは帝都アルヴァラント。 

 そこにいる、聖女ナナリアと出会い情報を聞きだす。

 ジェイク達が欲する情報を聞きだせるのかはわからないが、世界でも多くの人々、情報が集まる大都市アルヴァラントだ。

 何かしらの情報は手に入るはずだ。


「あれ? あそこに立っているのって……」


 肉眼でゼインの姿が見えなくなり、カイオルの待ちも徐々に小さくなったところで、ジェイク達の視界に入ったのは……行方知らずだったネロだった。

 左はリボンがないため束ねておらず、右側だけを束ねている状態だ。


「ネロ! 無事だったか」

「うん。心配かけてごめんね。ちょっと、気持ちの整理と用事を済ませていたから」

「……フランは、どうしたんだ?」


 この場にいないということはそういうことなんだろうとわかっていても、聞いてしまう。ネロは、一瞬悲しそうな表情をするもすぐに笑顔を作る。


「引き止めることはできなかった。フランは、一人でどこかに行っちゃった。だから……僕は、探すよ。フランを。兄として、一人の家族としてあの子を救ってあげたい!!」

「……」


 ネロの決意の言葉にジェイク達はただただ耳を傾けている。

 包帯を巻いた左腕をぎゅっと握り締め、ネロは叫ぶ。

 己の決意を。


「そのために、僕は殺し屋の活動を一時やめることにした。そして、副業だった冒険者を今度から本業としてやっていこうと思ってる。そこで、ジェイク」

「なんだ?」

「フランは、君のことをすごく気に入っている。だから、もし現れるとしたら君のところ。利用するようで申し訳ないけど」


 そこまで言うと、ジェイクは無言のまま右手を差し出す。

 不意をつかれたネロは、え? と声を漏らした。


「別に利用したっていいさ。俺も、フランにもう一度会ってちゃんと話がしたいって思っている。それに、ネロも居ればフランが現れる確立も高くなるかもだからな。俺も、お前のことを利用させてもらう。これで……お互い様ってことだ」

「……うん、そうだね。じゃあ、僕も遠慮なく君を利用させてもらうよ」


 力強く、握手をしあう二人。

 新たな旅路に、新たな仲間が増えた。後ろで、見ていたメアリスは小さく笑い呟いた。


「結構な大所帯になってきたわね」

「そうだね。最初は、私とジェイクさんの二人だったのになー」

「メアリスとは、割と早く仲間になったんだっけ?」


 ユーカと二人旅を始めて、数日後のこと。

 あの時は、まさかもう一人仲間が増えるとは思ってもいなかった。しかし、旅は多いほうが賑やかになり楽しくなるものだ。


「それに……ジェイクにとっては嬉しいことじゃない。あなた以外は、全員女の子なんて。あ、一人は元男だけど」

「そういえば、俺だけか男なのは……」


 そう思うと随分とメンバーの偏り方がすごいな、と三人を見渡し眉を顰める。いや、ネロが元男だと思えば男女二人ずつになるが……今は、女子なわけで。


「俗に言うハーレムってやつだね。別に僕は、男としてカウントしてもいいんだよ?」

「もしかしたら、今後も仲間になる子は女子ばかりだったりしてね?」


 くすくすっと面白がって笑うメアリスとどこか不安がっているように見えるユーカ。

 ネロは、ジェイクの隣に並び「頑張ろうね」と背中を叩く。


「そうだ。ネロ、これを」


 ジェイクはネロにあるものを渡す。

 それは、ネロがつけていた赤いリボン。しっかり選択をしてあり、付着していた血痕も綺麗に取れている。

 リボンを受け取ったネロは、小さくありがとうと呟きさっそくリボンで髪の毛を束ねた。


「このリボンはね。実は、フランが昔使っていたリボンなんだ……」


 リボンに触れ、懐かしむように語る。


「僕は、フランのことを一日だって忘れたことはない。どんなに変わっていても、あの子は……僕の妹だから」

「……ネロ」

「ん?」

「頑張ろうな!」


 ただ一言、ジェイクはネロに言葉を送る。たった一言でも……それは心に響く時もある。


「うん!」


 返事をするネロの表情は、太陽のように輝いていた。

第四章完結! 次回は、ちょっとした番外編を投稿しようと考えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ