第五十七話
ネロとフランは結局見つからなかった。
カイオル近辺にはいないのか? ジェイクは、そう思い始めていた。それとも、何か事情があって身を隠している?
「ジェイク。どうするつもり? 彼女のことだから無事だとは思うけど」
捜索は続けたい。
もちろん見つけるまで。しかし、そうしている間にも、創造神アダーとその御使い達がアルスの存在を亡き者にするため動いている。
これ以上時間を費やせば……。
「夕暮れまで探して、見つからなければ……カイオルを発つ」
「それで、いいのね?」
「……ああ。彼女たちが無事だと信じて、俺は旅を続ける。アダーを倒すために」
現在捜索を続けているのは、ジェイクとメアリス。
ユーカは、あまりにも無理を続け、ジェイクと再会したことで気が抜けたのか体中が痛み出し、動けない状態。
大人しくしているようにと言っておいたが、素直に大人しくしているだろうか?
「なら、休憩はこれで終りね。捜索を再開しないと、すぐに日が暮れちゃうわ」
「そうだな」
そして、捜索を再開したが……やはりネロとフランの姿はどこにも見当たらなかった。
日が沈み、ジェイクとメアリスはカイオルへと戻っていく。
宿屋に辿り着くと、ベッドで大人しくしているはずのユーカが待っていた。
「あ、おかえりなさい! 二人とも!!」
「大人しくしてなさいって言ったじゃない」
「もう大丈夫だよ! いやぁ、宿屋の人が作った料理がおいしくて、体が痛んでるのについつい食べ過ぎちゃったよ!」
えへへ、と笑うユーカだったが相当我慢している。
体が震えているのが、目に見えてわかりやすい。
しょうがないな、とジェイクは苦笑しユーカに近づいて。
「よっと」
「わっ!? じぇ、ジェイクさん!?」
ユーカを抱きかかえた。
頬を赤らめ抵抗することなく、すっぽりとジェイクの腕の中で大人しくしている。
「まだ無理をするな。旅に出るまでしっかりと休んで回復に専念するんだ」
「で、ですがネロが」
「……ネロのことは、もういいんだ」
「え? み、見つかったんですか!?」
いやっと首を横に振り、空を見上げる。
「ネロはきっと無事だ。もしかしたら、旅を続けていればまた会える。それに、こうしている間もアダー達は着々と動いている」
「ジェイクさん……」
「だから、ネロを信じて俺は旅を続ける。ユーカも、旅を続けられるようにしっかり休むんだ。わかったな?」
「は、はい! これ以上、迷惑はかけたくありませんから! ユーカ=エルクラーク、回復に専念します!!」
きっと……きっと再会できると信じて。
ジェイクは、ユーカを抱えたまま宿屋へと入っていく。優しさでやった行動だったが、宿屋にいた人たちから注目を集めたことで、ユーカは恥ずかしさのあまりジェイクの手から離れ自ら部屋へと駆け抜けていってしまった。
★・・・・・
大分ユーカも回復し、旅の支度が整った日の夜。
ジェイクは、ゼインに呼び出され闘技場へと訪れていた。普段なら、挑戦者以外は立ち入り禁止のフィールドに足を踏み込む。
先に来ていたゼインは、夜空に輝く満月を見上げていた。
「ゼイン。待たせたな」
「いえ。どうってことはありません。こちらこそ、こんな夜更けにお呼びして申し訳ありません」
ところで、とメガネの位置を直しゼインはジェイクの背後を見る。
「そっちの二人は、見学か?」
「あら? 別にいいじゃない。観客が居たほうがこういうのは盛り上がるでしょ?」
「お邪魔します! 回復したユーカです!!」
「こういうことに関しては、かなり勘のいい二人で。一人で来ようと思ったら見つかってしまって」
本来は、一人で来るつもりだったのだが勘のいい二人は、一人で出て行こうとするジェイクを見つけ無理やりついてきたのだ。
「まあ、いいだろう。……では、本題に入らせてもらいます、ジェイクさん」
マジフォンを構え、ゼインの雰囲気が変わる。
「俺と戦ってもらいます。あなたは、あの時この世界を創った神……創造神アダーを倒すと言いました。その言葉が本当であるか。確かめさせて貰います。俺を倒せないようじゃ、御使い達すら倒せません」
「言ってくれるな」
しかし、ジェイクの表情は穏やかだ。
「本気になるように挑発をしていますから。さあ……俺と戦い勝利をしてみせろ! 剣を抜け! ジェイク=オルフィス!!」
「……いいだろう。その勝負、受けてたつ。闘技場チャンピオンゼイン=レイヴァード!!」
鞘から剣を抜き放ち、ジェイクは吼える。
満月の夜の下で、二人の戦士は闘技場にて剣を交えた。人間で始めてレベル100となり伝説となった男ジェイクと、闘技所歴代最強と呼ばれるとゼイン。
こんな戦いは滅多に見られないだろう。
観戦をしているユーカとメアリスも、目が離せない。今、二人の戦いを見ているのは自分達だけ。
「手加減はしない!」
「当然だ! 怪我をしても文句はいわない!!」
暗闇で栄える光の剣。
いつも以上に激しく輝いている魔力刃を構成し、ゼインは切りかかる。が、魔力刃を扱うのはゼインだけじゃない。
彼の魔力刃とは違い、実体剣との混合。
やっと再会できた相棒を握り締め、迎え撃つ。
火花散らす攻防。
どちらも、剣術の腕前は相当なものだ。一瞬でも油断を見せれば、そこで勝負が決まる。
「あんたは……あんたは、どっちの世界を救うつもりだ!」
「もちろん、両方だ!!」
剣を交えながらも、ゼインはジェイクへと問いかける。あの場に、居たからこそ。真実を知ったからこそ、ゼインは言わずには居られない。
「あんたは、こっちの世界の人間じゃない! あんたは、本来……本物のイルディミアの人間だ!! それでも助けたいというのか! この偽物の世界を!!」
第二のイルディミアと言っていたが、自分達が居るイルディミアは後に作られた。つまりそれは、偽物と言ってもいい。
本来のイルディミアは、ジェイクが生きていたほうだ。
「……それでも、俺は救う! 偽物だろうと第二だろうと、俺はイルディミアを救う!!」
「ぐあっ!?」
渾身の一撃を食らい、弾き飛ばされるゼイン。
ジェイクの意思は、強い。
例え、ここが偽物だと言われようとも、イルディミアには変わらない。
「本当にできるのか? 両方を救うなど。あんたは、確かにレベル100だ。しかし、それでも人間だ! 人間が……神に勝てると思うのか! そんなこと不可能だ!!」
「……やってみせるさ。俺は、人間でレベル100になった男なんだぜ? 人間が神を倒すことだって」
「な、なんだ……魔力が……!」
急に脱力感が襲う。そして、良く見るとジェイクの髪の毛が金色から赤く、燃え盛る炎のように赤く染まっていくのが見える。
「信じろ! 俺が、アダーをぶっ倒してやる! こいつが……今の俺の一撃だ!! 受け取れッ!!!」
巨大な魔力刃。
あれほど巨大な魔力刃は見たことがないとゼインは圧倒されている。ゼインの魔力を吸い取ることで、作り上げた光の剣。
「ちょっ!? ジェイクさん! さすがにそれはやりす」
観戦していたユーカが止めに入ろうとするも遅かった。
一直線にゼインへと振り下ろされた光の剣。
闘技場内、いや闘技場の外にまで響いたであろう轟音と弾ける魔力。砂煙の中から、姿を現したゼインは……仰向けになって倒れていた。
その横には、ジェイクが放った一撃の痕が。
「直撃させなかったのね」
「よ、よかった……」
ジェイクは、仰向けに倒れているゼインに手を差し伸べる。
「これで、信じてくれるか?」
「……はい。これなら、安心して信じられます。いい、試合でした」
ジェイクの手を握り締めるゼインは、吐き出すものを吐き出し、聞くべきことを聞いた。とても清々しくも満足な表情をしていた。
というわけで、次回かその次辺りで第四章は終わりです。
あ、新作みたいなのを投稿していますので、お時間があればそちらも読んでいただけるを嬉しいです!