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第五話

「……朝か」


 カーテンから微量な日差しが差し込んでいる。ジェイク=オルフィスは、若々しい体を難なく起し背を伸ばしてからカーテンを開けて外の様子を確認。

 もう、人々は大体起きている時間帯。

 散歩をしている者やランニングをしている者。店を開けている真っ最中の者までさまざま。ジェイクは、先日魔物を倒したことで稼いだ金でなんとか一部屋空いていた宿屋に泊まっている。


 一度死んでから、神であるアルスにより若返って蘇った第二の人生。

 生き返ってさっそく、面白い者と出会えた。

 今日も、その者と一緒に行動する予定。


「さて、準備をしていくとするか」


 こんなにゆったりとした朝は久しぶりだ。

 レベル上げをしていた頃は、根を詰めすぎていて起きたらすぐレベル上げ。だが、今はゆっくり朝食を取ったり、誰かと待ち合わせをするほど余裕がある。


 あれからジェイクは、宿屋などで軽く情報収集をした。

 宿屋は昔と変わらず色んな冒険者達が集まるので、情報収集の場所としてはなかなかいいところだ。そして、情報収集をしたことで得られたもの。

 それを整理するとこうなる。


 今現在、種族の壁というものは魔法と科学の融合で生み出された【魔科学】というもので覆されている。ユーカが使用している魔機というもので、人間でも強力な魔法を扱えたり、獣人をも凌駕する身体能力を得ることができるようになった。


 魔科学というものが生まれたのは今から八十年前。

 異世界からやってきた謎の科学者が魔法との融合を提案したことで生まれた。最初は、人々も科学というものに不安を抱いていたが、今では生活にはなくてはならないものを多く生み出している。


 昔は、ろうそくやランプなどで照らしていたが今の時代は電気を利用した魔機によりより便利で明るい空間ができている。

 ジェイクが泊まっていた宿屋の部屋にも電気が起用されていた。


 全ては魔化学というものが生まれてから文明が一気に変わったということだ。当然、ジェイクの頭の中にある知識ももはや古いものばかり。

 通用するものもあるにはあるが、今の時代を生きていく中で新しい知識を得なければならない。


「ジェイクさーん!」

「お、来たか」


 噴水広場で待ち合わせ手をしていたジェイクに元気な声をかけてくる少女ユーカ。まだパーティーを組んで二日目だが、相当懐いている。

 懐いているという表現は正しくはないのだろうが、駆け寄ってくる姿が子犬のように見えてしまうためそんな表現になってしまう。


「今日も頑張りましょう!」

「おう。旅に出るために色々と準備をしなくちゃならない。そのために今日は、資金収集に加えて旅道具を確認し、購入する」

「なるほど。でしたら、丁度いいお店があります!」


 ユーカはこの街、イズラードに住んでいる。

 自宅もあり、家族四人暮らしらし。父親、母親、ユーカ、妹という構成。家族と聞くと、ジェイクも自分の家族のことを思い出してしまうが。

 もうあれから百年も経っている。

 同じ人間である家族はもうこの世にはいないと思っていいだろう。


「だったら、先にどんなものがあるか確かめに行くか」

「はい! では、私についてきてください!」


 ユーカの案内の下、数分ほど街を移動し目的地に辿り着いた。

 看板には道具屋ハーヴェスと書かれている。

 周りの建物と比較すると、木造の店でジェイクにとっては懐かしいと思ってしまう外観だ。中に入ると、自分達と同じように道具を買いに来ている客がちらほらと見受けられる。


 エルフから獣人まで、様々な種族が道具を実際に手に取って相談を重ね籠の中に入れている。しっかりと、道具の種類ごとに分けられており、古い外観に対しとても広々とした空間だ。

 店番をしているのは……人間の少女。


「やっほー、ラヴィ! 買い物にきたよー」

「やっほー、ユーカ。今日もお菓子を買いに来たの?」


 若干眠そうな感じの少女。半開きになっている琥珀色の目でジェイク達を見てくる。どうやら、ユーカとは仲がいいらしい。


「違うよ! 今日はね……旅をするための道具を買いにきたんだよ!」


 どやっ! と腰に手を当て胸を張るユーカ。

 ついに買いに来た! というのを体で表現しているようだ。それを聞いた、ラヴィという少女は一本だけ立っている髪の毛をピンっと立たせ隣に居るジェイクを見る。


「……なるほど。ついに一緒にパーティーを組んでくれる人を見つけたんだ」

「そう、ついにね。最初は良いのに、私の固有スキルを聞いた瞬間皆避けていく毎日を過ごしてきたけど……それともさようなら! 今は、このジェイクさんが一緒にパーティーを組んでくれたから!!」


 ぐいっと道具を見ていたジェイクの腕を引っ張りいえーいと笑う。


「ジェイク……?」

「え? どうしたの、ラヴィ」

「ん?」


 ジェイクの名前を聞いた瞬間、ラヴィはしばらく考える素振りを見せる。


「あの、フルネームを聞いてもいいですか?」


 と、ラヴィが問いかけてくるのでジェイクは素直に答えた。


「オルフィス。ジェイク=オルフィスだけど」

「ジェイク……それにオルフィス……ま、まさか!」


 ラヴィはジェイクのフルネームを聞くと、慌てて店の奥へと姿を消す。

 どうしたんだろう? と首を傾げるユーカに対しジェイクはわからんっと頭を掻く。十秒後、戻ってきたラヴィが手に持っていたのは、一冊のこれまた古い本。


「こ、これ!」

「なになに……ジェイク=オルフィスのレベル100への道? あれ、ジェイクさんの名前が書いてある」


 ジェイクも驚きだ。

 まさか、本のタイトルの自分の名前があるなんて。だが、ユーカの反応にラヴィはむっとした表情で熱く語る。


「なに言ってるのユーカ。ジェイク=オルフィスと言ったら、人間族の希望の星じゃないっ」

「え、えーっと」

「授業でも習ったでしょ? 種族という壁を乗り越えることなんてできないと諦めていた人間達の中で、唯一挫けずレベル100になろうと戦っていた。それがジェイク=オルフィス!」


 最初の印象と大きく違うラヴィ。

 徐々に語る声音も上がってきて、とても興奮しているようだ。半開きだった目もパッチリと開いており、目がキラキラと輝いている。


「うーん、習ったような……習わなかったような……」

「ユーカは興味がないことには無関心だからね」

「それを言うなら、ラヴィだってそうじゃん!」


 お互いに似たもの同志ということか。


「まあね。でも! あたし、歴史に関してはとても興味津々。特に同じ人間族として、ジェイク=オルフィスはすごく尊敬する人物! この本にはレベル100になったという期日は書いていないけど、レベル100への試練を受けたということは、書いてある。その現場に多くの冒険者達が立ち会ったって!」

(あぁ……そういえばそうだったな。たまたま、魔物の大群に襲われていた冒険者達に加勢するような形で魔物を倒したら丁度レベルが99になったんだっけ)


 懐かしいなぁっと、当時のことを思い出すジェイク。

 が、すぐにラヴィの熱気を感じ取り、視線が合ってしまう。ぺらぺらとページを捲っていく。そしてとあるページで止まり、本とジェイクを交互に見る。


「や、やっぱり……あ、あのっ」

「な、なんだ?」

「もしかして、あなたは本物のジェイク=オルフィス……!」

「いやいや、ラヴィ。さすがに本物はないと思うよ? 私もなんとなく思い出したけど。その人って百年以上前に生きていた人だよね?」


 ユーカの言うとおり、ジェイクは相当昔の人間になる。

 だが、レベル100になった褒美としてジェイクはアルスによって蘇ったのだ。


「でも、見て。この人物画」

「……あっ、ジェイクさんそっくりだ」


 ラヴィが見せてきたページには、確かに今のジェイクの人物画が描かれていた。そして次のページには、ジェイクが死した時の老人の姿が。


「……そっくり、というか」


 ジェイクがぼそっと呟くと二人は一斉に視線を向ける。


「実は、本物……なんだよな」


 別に隠すようなことはない。

 それに、隠しているとなんだか居心地が悪くなるというか。いや、まさか自分が本に載るほど有名になっているだなんて思いもしなかった。

 アルスにも、素性は隠せ、などとは一言も言われていない。言われたのは、エンジョイしてこい! ということだけ。


「ま、マジですか?」

「うん、マジ。ほら、だからマジフォンとか色々と俺知らなかっただろ?」

「田舎者というのは?」

「それは本当だ。俺は、辺境の村の出身だからな。すまん、あの時は隠すような事をして」


 まだ自分も、どうしたらいいのかわからなかった。

 だが、今となっては一度死んだ者が百年後の世界に復活した。そのことを人々が知ればどうなるのか。ジェイクは、内心ドキドキ半分わくわく半分という気持ちでいる。

 さあ、果たして……。


「さ」

「さ?」


 ラヴィは、小刻みにぷるぷると震えながら本を突きつける。


「サイン! ください!!」

「……サインって?」

「えーっとですね、サインっていうのは」

「待て。その前に、俺達はここから退こう。めちゃくちゃ詰まってる」

「―――あっ」


 ユーカがジェイクにサインというものを教えようとしていたが、ハッと後ろの気配に気づいたジェイクはユーカと共に横にズレる。

 買い物をするでもなく、話し込んでいた二人の後ろには籠の中に道具を積め待っていた冒険者達が並んでいた。


「あ、すみません。ど、どうぞどうぞ」


 えへへ、とジェイクとユーカは申し訳なさそうに頭を下げ、ラヴィは本を置き仕事をする。会計をしている間にも何度かジェイクのことをチラチラと見てくるラヴィ。

 その間に、道具を見ながらサインというものについてユーカからジェイクは教わるのであった。

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