第五十四話
「無事だったか、ネロ、ゼイン」
「うん、なんとか。……ユーカとメアリスは一緒じゃないんだね」
ネロとゼインの二人と再会したジェイクは、安堵したように胸を撫で下ろすが、まだユーカとメアリスと再会していない。
やはり、この空間に飛ばされたのはここに居る四人だけなのか。ユーカとメアリスの位置を考えると、光に巻き込まれていない可能性が高い。
「感動の再会もつかの間! さあ、聞くが良い。僕のありがたい話を!!」
やたらとテンションの高い男ジルハルト。
エルフェリアは、相変わらずお菓子を一週間抜きにされたことがショックのようで落ち込んでおり、ルーシアは表情ひとつ変えずその場に立っている。
「話? そんなもの聞く必要はない。貴様が、俺達をこの奇妙な空間に飛ばした張本人だな? 元のところに返して貰おうか」
「……ふむ。もちろん、元のところへは返してやる。しかし! 僕の話を聞いてからにしてもらおう! 拒否権はないのだよ!!」
どうしても、話を聞いて欲しいようだ。ジェイクは、ゼインの肩に手をそっと置き「聞いてやろう」と言う。
「フラン。今は」
「……わかってるよ」
ネロの言葉に、フランはそっぽを向きながら頷く。
今は、争っている場合じゃない。ジェイクには、二人の間に何があったのかはわからないが、フランにそっぽを向かれたことで少し悲しそうな表情をするネロ。
「準備は良いようだな。では、話そう。本来なら、そこに居る転生者ジェイクだけを呼ぶつもりだったのだがな……まあ、多いほうが話すこっちもテンションが上がるというもの!!」
「ジルハルト様。早く話さないとこの空間が崩れてしまいます。お早めに」
「おっと、そうだったな」
なにか、気になってしまうことをルーシアが言ったようだが、それを問い質す前にジルハルトが居酒屋で武勇伝を話すかのように大声を上げた。
「先ほども言ったが、僕達はこの世界を創った創造神様の御使い! 今から話すのは、この世界についてだ! そこの二色眼の少女!」
「ぼ、僕?」
ネロを鋭く指差す。
「そう、二色眼で巨乳の少女! 君は、この世界の名を知っているか?」
「イルディミア、だよね?」
「正解だ! しかし……君達が居るこのイルディミアは、第二のイルディミアなのだよ!!」
ジルハルトから告げられた真実。
当然のように、ネロ、フラン、ゼインの三人は目を丸くし驚いている。そして、一人冷静にジルハルトの話に耳を傾けているジェイク。
当然だ。もう、ここがパラレルワールドだということは知っているのだから。
「予想通りの反応ありがとう」
「第二だと? だったら、第一はどうしたんだ! 嘘も大概にしろ!!」
真実を受け入れられないゼインは、叫ぶ。が、ジルハルトはにやっと笑いながら語り続ける。広い空間に響き渡るよう高らかに。
「第一は、存在する。しかし、君らでは干渉できない別空間にだがな!!」
「何のために、第二のイルディミアなんて……」
「何のために? 決まっている。イルディミアの創造神であり守護神アルスを消し去るため。我らが創造神がイルディミアの神になるため!! 創造神として、己が優秀であると証明するためだッ!!」
このイルディミアにはアルスはいない。
存在は忘れられてはいないが、本人は存在していないんだ。どんな目的で、第二のイルディミアなど創造したのかはアルスにもわからなかったこと。
それが今語られた。
「……さあ、ずっとだんまりなジェイク=オルフィス。わかってくれたかな?」
「ああ……十分に」
「それはよかった。君がアルスと会っているのはわかっている。……いやぁ、創造神様も予想外だと言っていたよ。まさか第一のイルディミアの住人が紛れ込むなんて」
予想外? それは、意図的にここに呼んだのではなく。偶然だった? 次々に明かされる真実。自分は最初何か目的があり、ここに転生されたのかと思った。
だが、パラレルワールドを創造した者にとって自分は予想外の存在。
「え? ジェイクが……第一のイルディミアの住人?」
「そうだ、蒼髪の少女よ。彼は、この世界の住人ではない。確かに、ジェイク=オルフィスという人物はこの世界でも有名人だが……彼は、アルスにより転生された時に偶然この世界に紛れ込んだジェイク=オルフィスなのだ!!」
「ジェイク=オルフィス……それって、もう死んだ人じゃ」
フランは、ジェイクのことをジェイク=オルフィスだとは思っていなかったようだ。ジェイク自身も、正体を明かしていないため仕方がないことではある。
「そいつは、もう八十歳を越えている! 今は、十代の体だけど。じじいなの!! そして、か弱い女の子を襲う獣!!」
わけがわかないと頭を抱えているフランに、ようやく喋りだしたエルフェリア。最初はあっているが、その次の語られたことは、ジェイクは否定したい。
「そう、だったんだ……」
「黙っていてすまない。話そうとは思っていたんだが……」
「……別にいいよ。中身がおじいちゃんだったとしても、私はジェイクくんへの対処は変えないから」
「フラン……」
「うむ。実にいい友情だ。しかし! 僕の話はまだ終わっていない。たとえ、この空間が後、三分で消滅しようとも僕は語るのをやめないと断言しよう!!」
とんでもないことをさらっと言い出すジルハルトに、ゼインは切りかかろうとするもルーシアが容易く止める。焦るのも無理はない。
三分でこの空間が消滅すると言われれば、誰でも焦るだろう。
「これ以上、悠長に話など聞いていられない。そこを退いて貰うぞ!!」
「させない」
ゼインは、ルーシアの剣を弾き横を抜けジルハルトに切りかかろうとする。が、空手だったルーシアの左手から神々しい光の剣が発現した。
「なにっ!?」
咄嗟に魔力刃で防御の構えをしたためダメージは負わなかったが、後ろに弾き返されてしまった。
「私は、剣。創造神様を、ジルハルト様を守る神なら剣。ジルハルト様の話が長かろうと、私が居る限り邪魔はさせない」
白銀の実体剣と黄金に輝く光の剣。
その二振りの剣を構え、ルーシアは立ちはだかる。
「いいぞ、ルーシア。では、話の続きだ。なーに、もう半分以上は話した。すぐに終わる」
といい始めた瞬間。
周りの空間に亀裂が入り始めた。ジルハルトの言葉は偽りではなかった。もう崩壊が始まっている。
「聞け! 第二イルディミアの民よ! 時期に、我らが創造神アダー様がアルスを凌駕する! その時こそ、我らが本物のイルディミアの民となろう!!」
創造神アダー。
それが、アルスの干渉を防ぐほどの力を持つ神。ずっと、気になっていた。知りたかった……敵の名前。
「ジルハルト様! ジルハルト様!! もう出ないと、私達も巻き込まれちゃうよ!?」
空間は揺れ、崩れ、暗き闇は広がっている。
エルフェリアは、慌ててジルハルトへと伝えると「おっと、そうだな」と頷き、再度ジェイク達を見詰める。
「ずっと吐き出したかったことを言うのはいい気分だ。では、次に会う時はどうなるかは君たち次第だ」
指を擦ると崩れ去る空間の中に居るジェイク達、ジルハルト達を青白い光の粒子が包み込む。
転移する前に、ジェイクは言っておかなければならない。
決意した瞳でジルハルト達を睨み、声を張り上げる。
「アダーに伝えておけ!」
「ん?」
「そんなことはさせない! 必ず……必ず、お前に辿り着き倒して見せると!!」
「ふーんだ! ただの人間にアダー様が倒せるはずないでしょ! ちょーしにのるなー!!」
ジルハルトの返事を聞く前に、エルフェリアの罵倒を最後にジェイク達は転移する。伝えるべきことは伝えた。
創造神アダー。
エルフェリアの言っていたことは、わかる。レベルが100だったしても、ジェイクは人間だ。創造神であるアダーに敵うとは誰もが思わないだろう。
しかし……それでも、自分を転生させ、もう一度人生を送れることを許してくれたアルスを守るためジェイクは戦う。
例え、相手が神だったとしても。
もしかしたら、自分がこの第二のイルディミアに紛れ込んだのは……何か意味があるんじゃないかと思っている。
何か……意味が。