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第五十二話

「やっと出口だと思ったが……また違ったダンジョンに転移したようだな」

「最初に居たところが緑っぽかったけど、ここは青っぽいね」


 出口を探し、不思議な空間を奇妙な魔物を倒しながら進んでいたネロとゼイン。ようやく出口だと思い、魔法陣に入ったが、結果はまた違ったダンジョンへと転移しただけ。

 いったいいつになったら元の場所に戻れるのか。

 他の皆無事なのか? と考えながらネロは進んでいるとゼインのほうから話しかけられる。


 未だに、距離は離れているが多少は慣れてくれたのだろう。ゼイン側から話しかけてくれたのが、なによりの証拠だ。


「ネロ。ひとつ聞きたいことがある」

「なに?」

「お前の妹、フランと言ったか? あいつは、なぜお前のことを殺したがっていた? あれは、異常なものだった」


 やっぱりそのことか、とわかっていたかのようにネロは冷静に受け入れる。

 誰でも、兄に対して妹があれだけの殺意を持って切りかかってきたら気になってしまうだろう。ゼインの問いかけはなんとなくだがわかっていた。


「……フランのことを話す前に僕の正体を明かすね」

「いや、必要ない。黒十字のネロ。才能溢れる戦闘能力と高水準の任務遂行率。過去、ひとつの任務を覗けば、必ず任務を達成させる殺し屋」

「あはは。よく調べたね」


 そこまで知られているのは、殺し屋としては少し恥ずかしい限りだと苦笑い。

 別に全てを隠していたわけじゃない。

 ネロが生業としている殺し屋は、裏家業だが表に広まっていても不思議ではない。


「情報収集は、趣味みたいなものだからな。それに、俺の情報は随分と古い。まさか、性別が変わっているとは思わなかったからな」

「趣味でそこまで調べられれば、大したものだよ」


 ネロは殺し屋だ。

 世の中には、殺し屋を正義だと思ってくれる人々もいる。しかし、金で人の命を奪うため完全なる正義と呼ぶのは難しい。


「殺し屋の中にも、色々と種類があり。金目的で殺しをしている者やただ単純に殺しをしたいから殺し屋をしている者もいるんだ」

「お前は、自分が汚れることで人々の平和を守る者、か?」


 僕はそんな大層な人間じゃないよ、と微笑む。


「それよりも、フランのことだよね?」

「……ああ、そうだな」

「僕は、君の知っている通り、才能在りし殺し屋って言われていた。父も母も”たった一人の子供”である僕をそれはもう大事に育ててくれたよ」

「……ということは、フランは」


 自分の胸に手を当て、ネロは静かに答える。


「フランは、僕の本当の妹じゃないんだ。父と一緒に任務で訪れた屋敷で……一人血まみれになりながら短剣を持った少女。それがフランだったんだ」


 ネロの語りに、ゼインは真剣な表情で耳を傾ける。

 彼女から語られる妹フランの真実。


「父は、フランを自分の子供として育てることを決めた。でも、殺し屋としてじゃなくて普通の女の子として。身寄りのないフランは、僕も本当の妹のように接した。でも、フランは自分から僕達と一緒で殺し屋をやりたいって言い出したんだ」




☆・・・・・




「ねえ、お兄ちゃん。私もね、お兄ちゃんたちみたいに殺し屋をしたいの」


 まだネロが男だった頃。

 フランを家族として受け入れてから一ヶ月も経たない頃に、フランからそう言い出した。当然、フランはネロや父と母が殺し屋をしていることは知っている。

 当初、ネロは九歳でフランは七歳だった。 


「フランは、このまま普通の女の子として」

「普通の女の子なんてつまらないよ。それに、私はお兄ちゃんみたいになりたいの」

「僕みたいに?」


 それが殺し屋でなければ、嬉しい言葉だ。

 フランを最初に見た時から彼女には、普通じゃない何かを感じた。任務のため父親と共にとある屋敷に向かった時には、殺しをして欲しかった標的とその家族は……一人の少女によって殺されていた。


 フランは、標的がつれてきた孤児だった。標的は、身寄りのない孤児を集め卑劣な人体実験を繰り返していた。

 まだ七歳の少女が、それほどの戦闘力がないにしろ大人の男を殺すなど簡単じゃない。


「そう! だって、もう私だって人を殺しちゃったもん。別に殺し屋をしても、問題はないんじゃない? 人の命を奪ったのに、普通の女の子として生きていくなんて……無理だよ」

「……」


 フランは、七歳とは思えない言動が多い。

 孤児だということだけで、他にはなにもわかっていない。フラン自身からも何も語られていない。結局、フランの折れない精神に父親と母親が折れ、殺し屋になることを承諾した。

 それからは、まだ経験が浅いということで父親や母親の任務に同行したり、共に修行に励んだ。


 殺し屋になってからのフランは確かに生き生きとしていた。

 だが、彼女を殺し屋にしてしまったことで、彼女の底にある何かを目覚めさせてしまったのかもしれない。


 フランが殺し屋になってから数年。

 もう一人で任務を遂行できるようになっていたネロとフランは、任務以外は普通に遊ぶ仲のいい兄妹。任務から帰ってくれば、普通にお帰りやお疲れ様などと言い合う。

 今日も任務から帰ってきたネロは、フランはどうしているだろう? とフランを探していた。


「あああっ!?」


 突然の悲鳴に、ネロは駆ける。

 そこに居たのは、ネロも知っている同業の少年。男同士の付き合いということでよく、話し合い遊んでいたこともある。

 そして、彼には将来結婚を約束した許嫁もいた。


「ふふ……くふふふっ……」

「ふ、フラン!? もしかして、フランが?」


 血に塗れた刀を持ち、怪しく笑う妹と血まみれになって倒れている友を交互に見る。信じたくない。だが、この状況は明らかに。


「あ、おにいぃちゃぁん。お帰り~。えへへ、また殺しちゃったよ」


 やはり、フランが彼を。

 ネロは表情を強張らせフランに詰め寄る。


「どうして! どうして彼を!」

「だってさ……せっかく仲良くしようと思っていたのに、私を襲ってきたんだよ? 身を守るのは当たり前じゃん」


 確かに身を守るのは当たり前だ。だが、彼がなんの理由もなしに、人を襲うなんてありえない。彼も殺し屋だが、理由もなく人の命を奪うことはないはず。


「フラン。ちゃんと話して。彼は理由もなく、人を襲うような人じゃない」

「理由? ……あ、そういえば仲良くなるのに邪魔で一人の女を殺したかな?」


 それを聞いた瞬間、ネロは彼の許嫁だと察した。それを、妹は……フランは笑顔で語った。やはり、フランには何か普通じゃないものがある。


「……フラン」

「なーに、お兄ちゃん?」


 ネロは、刀を抜きフランに突きつける。


「兄として、僕はフランをしつけなくちゃならないようだ」

「何をするの?」

「真剣勝負だよ。条件付のね。僕が勝ったら、今後無闇に人の命を奪わないこと」

「じゃあ、私がお兄ちゃんに勝ったら?」

「大丈夫。僕は……負けない」

「面白いね。じゃあ、本気でいっちゃうよ!!」


 そして、フランはネロに手も足も出ずに負けた。確かに殺しの才能はあった。しかし、それだけではネロには敵わない。

 尻餅をつき、刀を突きつけられたフランは悔しそうにネロを睨みつけている。


「僕の勝ちだね。さあ、フラン。約束通り、無闇に殺しをしないこと」

「殺しをしないって、じゃあ殺し屋をやっている意味なんてないじゃん」

「無闇に、て言っているんだ。殺し屋という裏家業をしている以上、僕達はもう汚れている。殺しをしなくていいとまで言っていない」


 もう何年も人の命を奪ってきている。

 だから、自分の手は体は……血で染まっている。もう後戻りなんてできない。だったら、この命が尽きるまで殺し屋として生きていかなくちゃ。

 そして、殺しをするにもしっかりと任務として、やってほしいとフランには言っている。


「……ないよ」

「え?」

「わかんないよ! 命を奪うのに理由がいるなんてさ!」

「それは―――」


 全てを言い終わる前に、フランはネロから離れていく。

 刀をその場に残し、ふらふらと歩き始めた。


「フラン!!」

「……先に帰ってる」


 短くそう言い、フランは歩いていく。だが、フランは家には帰ってなどいなかった。あれ以来、フランは行方不明。

 何度も捜索をしたが、見つからず、時が経ちネロはとある任務に失敗し、少女へとなってしまった。

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