第五十一話
ユーカ、メアリス、ネロ、ゼインと離れ離れになってしまったジェイクは、唯一一緒に居たネロの妹フランと共に不思議な空間を移動している。
だが、ただそのまま安全に移動できるわけもなく。
道を阻むように魔物らしき存在が現れた。
「うわ、なにあれ。きもっ!」
フランは、とても嫌そうな表情でジェイクにくっつく。
彼女が嫌がるのも無理はない。
ジェイク達の目の前に現れた敵は、触手のようなものが密集していて、壺のようなものから生えている。
もう一種は、悲しさを表現した仮面が光の粒子を纏って浮いている。
こんな魔物は、見たことがない。
「道はこの先しかない。何も出ないとは思っていなかったが……」
鞘から剣を抜き、前へと出る。
例え、見たことがない魔物だったとしても。
「俺は、止まらない!」
魔力を込める。
すると、剣が共鳴し刃にあった溝から魔力刃を構成した。触手の魔物はその触手を一気にジェイクへと伸ばして攻撃を仕掛けてくる。
仮面の魔物は、魔法を詠唱しているようだ。
ここは……。
「【雷刃走】!!」
雷のように鋭く。そして力強く、動き切り裂くスキル。壺から伸ばされた触手は魔力刃によりバターのように切り裂かれ、止まる事なき突貫力で二体の魔物を撃退した。
「大分、ものにしてきたな」
一呼吸入れると、魔力刃は消えいつもの溝のある珍しい剣に戻る。鞘に収めると、背後からフランがにょきっと顔を出す。
「すごい! すごいね! 強いとは思っていたけど、予想以上だよ! それに、さっきの剣はなに? ねね! 見せて! 見せて!!」
「あ、ああ。別にいいぞ」
刀身に溝はあるが、切れないわけではない。
気をつけろよ、と注意しフランに剣を渡す。
「おぉ……こんな風に刃に溝があるなんて珍しい剣だね」
初めてのものを見る子供のようにマジマジと剣を観察しているフラン。観察し終わると、ありがとう! とお礼を言って剣を返してくれた。
そして、もう一度鞘に収めたところで質問を投げつけられる。
「ねえ、さっきその剣光ってたけど、あれはなに?」
「魔力刃だ。魔力で構成する刃なんだが、こいつはほんの少しの魔力だけで硬く、鋭き魔力刃を構成することができるんだ」
この剣を手に入れてから、何度も試行錯誤を繰り返した。
宿屋に戻り、二人が眠った後も。朝早起きをして素振りをした後も。この溝はいったい何の意味があるのか。どういう理由で作られたのか。
頭をフル回転させ、ゼインが使っていた魔力刃がなんとなく頭を過ぎった。まさか……と思い魔力を込めたところ、構成することに成功したのだ。
「へぇ。そんな剣もあるもんだね」
「まあな。世の中には、魔剣や聖剣と言った特殊な力を持った剣が存在することだし。こいつもその部類だと思う」
今までは、そんな感じはしなかったが……落ち着いてよく考え、色々と試すとわかることがある。レベル上げをしていただけの時では、おそらく、そこまで頭が回らなかっただろう。
「あれ?」
「どうした?」
フランは、剣を握りむむっと眉を顰めている。
「この剣、今魔力を込めているんだけど、全然反応しないよ?」
「……ちょっといいか」
そう言って、フランから剣を受け取る。そして、魔力を込めると。
「わっ。これって、ジェイクくんの魔力しか受け付けないってことなのかな?」
普通に魔力刃が構築された。
やはり、この剣はジェイクのことを主だと思い、ジェイク以外の一斉の干渉を受け付けないようだ。
「まあ別にいっか。私、そこまで魔力量多くないし、そういう武器は扱えないかも」
「武器にも人にも相性っていうものがあるってことだな」
「だね。私は、この刀があれば十分だし」
見せ付けるように二振りの刀という武器を鞘から抜く。
ジェイクが知らない武器だ。
ネロの武器を見ていた時からどんな武器なのかは気になっていた。
「フランの使っている武器も珍しいものだよな」
移動を再開しながら、ジェイクは問いかける。片刃の剣は普通にあるが。ネロやフランが持っている刀という武器は、通常の片刃剣よりも細く、そして薄い。
あーこれね、と前置きをし、フランは軽く説明を始める。
「私達のような殺しを生業とした人たちに伝わる武器なんだって。話によると、大昔に異世界人がこの刀を私達のご先祖様に教えたとか」
「じゃあ、それは異世界の剣ってことなのか」
「そだね。いい切れ味してるよ? これ。一見、細いからすぐ折れそうな感じだけど。こうすぱーっと、簡単に切れちゃうんだよねー」
その場で素振りをするものだから、ジェイクは危ないと感じ避ける。異世界人からは、色々と技術や知識を得ている。
ジェイクが生きていた時も、ちらほらと異世界人の話は聞いていたが。それほど昔から存在していたとは。
「もしかしたら、ジェイクくんのその剣も異世界のものだったりしてね」
やっと刀を鞘に収めたフランは、ジェイクの剣を見詰める。
異世界の剣。
確かに、古代の遺跡から発見したものだからそうとも考えられる。結局は、どの時代、どのような陣仏、どのような理由で作られたのかもわからない。
可能性としては高いほうだろう。
それからは、二人で協力しあい魔物を撃退しながら兎に角前に進んだ。一体どれだけ進めば出口に辿り着くのだろうか。
いや、そもそもここに出口はあるのか? そう思い始めた。
もしかしたら、ここはあの謎の声が作り上げた出口のない空間で自分たちは閉じ込められたと考えられる。
「あっ、ジェイクくん! あれ見て!」
ふと考え事をしていると、フランが声を上げる。
なんだ? と視線を送ると……そこには魔法陣があった。今まで、この光の粒子が漂う空間をただただ進むだけだたったが、ついに進展しそうなものを発見。
「あれに入れば、元の場所に戻れるのかな?」
「そう思いたいが。罠という可能性も考えたほうがいい。今のところ周りを見る限り、魔法陣がひとつだけ。他にもあるかもしれないが……」
何度か、分かれ道に差し掛かったことがある。そちらの方向に進めば他の魔法陣があったかもしれない。しかし、今は悠長に戻っている暇はない。
こうしている間にも、ユーカやメアリス、ネロ、ゼインが危ない目にあっているかもしれない。そう簡単にやられないとは思ってはいるが。
「考えていてもしかたないよ。いこ! ジェイクくん」
「ああ。そうだな」
フランに手を引かれ、ジェイクは共に魔法陣の中へと入っていく。
二人が入ったことで、魔法陣はより輝きを増し、ジェイク達をどこかへと転移させる。
「……ここは」
「色合いとかはさっきのところと同じだけど……最初にいたダンジョンになんとなく似てるね」
転移した先は、壁に覆われた場所。
だが、相変わらず青白い光の粒子がちらほらと漂っている。フランの言うとおり、雰囲気はあのダンジョンに似ている。
可能性としてあのダンジョンに戻れると思っていたジェイクは少し残念そうに落ち込むも、すぐ気持ちを切り替えた。
「確実に前には進んでいる。早く皆と合流しないと」
「……合流か」
ジェイクが意気揚々と前に進んで時、フランは立ち止まったままぼそりと呟く。
「フラン?」
足を止め、俯いているフランを見詰める。
表情が隠れていて、今どんな顔をしているのか良く見えない。
「ねえ、ジェイクくん。このまま仲間のところに戻れたらさ……ジェイクくんはやっぱり、お兄ちゃんの味方をしちゃうんだよね?」
「……」
そうだ。このまま元の場所に戻り、仲間と合流するということはネロとも会う事になる。そうなれば、またあの時のように……。
ジェイクは、まだ表情を隠しているフランに近づき頭に手を優しく置いた。
「ジェイク、くん?」
「なあ、フラン。ネロとの間に何があったのかは俺にはわからない。だけど、俺はネロの仲間でもあり……お前の友達だ」
「友達……」
「だから、なにかあったら俺に頼ってくれ。何ができるのかは、はっきりとは言えないが。友達として、話を聞いてやったり、一緒に悩んでやったりはできる」
フランは無言のままジェイクの言葉を聞いている。
これでちゃんと伝わっているのかは、わからない。
けど、兄妹同士で、家族で争うのは……悲しい。
「……そだね。えへへ、いいこと言うじゃん! ジェイクくん!!」
「励ますのは得意じゃないんだけどな。元気が出てよかった」
「うん、元気元気! じゃ、その勢いで先に進もうー!」
なんとか元気付けられた。
しかし、本当にどうしてネロをあんなに殺そうとするのだろうか……。あの元気の裏にいったいどんな秘密を隠しているんだ?