第四十八話
「ここは……」
「うわあ、見てください! ジェイクさん! 部屋の中央に木が生えていますよ!!」
大岩の罠をなんとか回避したジェイク達は、逃げ込んだ横道を進み辿り着いたのは……神秘的な空間だった。
部屋の中央には苔だらけの木が生えており、その木を照らすように天井から光が差し込んでいる。周りを見渡すと進むべき道は四つ。
ジェイク達が通ってきた道を合わせると東西南北に道があるようだ。
「しかも、何かあるわね」
「……石版、かな?」
罠や魔物に警戒しつつ中央にある樹木へと近づいていく。
何の変哲のない木かと思いきや、石版のようなものを取り込んでいる。何か文字が書かれているようだが……ジェイクには読めなかった。
古代文字、というものだろうか。
「誰か、この文字を読めるか?」
「わ、私は当然無理です」
「僕もちょっと」
ということは、一番読めそうななのはメアリスだ。旅の途中でも、宿に泊まっていた時も必ず読書を続けているほど知識を求めている。
魔法使いは、読書好きな者が多い。中には、そうでもない者も少なくはないが。四人の中で三人は無理となった。
メアリスは、石版の文字を見詰めしばらく黙り込む。ジェイク達は、ただただメアリスの反応を後ろで待っている。十秒ほど時間が経ち、沈黙は破られる。
「……ふむ」
「ど、どう? メアリス」
くるっと振り返り、メアリスは言う。
「読めないわ」
「メアリスでも、無理なのか……」
もしかしたら、この世界の謎が何かわかるかと思ったのだが……と残念がるジェイクにメアリスは、続いて発言する。
「勘違いしないで。文字自体が読めないわけじゃないわ」
「え? じゃあ、いったいなにが」
と、ユーカが問いかけると石版のとある場所を指差す。ずっと文字が続いているが、そこから破損で文字がなくなっている。
つまり、メアリスは文字自体は読めるが破損しているところは読めないということを言いたかったのだろう。
「それならそうと言えばいいのに」
「あら、ごめんなさい。ちょっとしたお茶目よ」
相変わらずのメアリスで安心し、ジェイクは表情を引き締めなおした。
「それで、改めて聞くが。その石版にはなんて書いてあるんだ?」
「……真実を知りたいなら、こっちに来い。そうすればって書かれているわ。後は、破損で読めない。ちなみにこれは五百年前に滅んだとある一族の文字ね」
「こっちに来いって……なんだか、途中から投げやりになった感じがすごいんだけど」
しかしながら、真実を知りたいのなら、という文体にジェイクは考えさせられた。いったい何の真実なのかはわからないが、もしこの世界の真実であるのなら……。
「そのこっちってどこなんだろう?」
ネロは自分達が通ってきた道も視界に居れ見渡す。おそらく、この部屋から文字を書いたであろう者の場所へいけるようになっているはず。
何か目印のようなものはないか、一度部屋中を探してみたほうがいいだろう。
「もしかしたら、この破損しているところにどの道を進めばいいかって書いてあったのかもね」
「そうだったとしたら、手がかりなしになっちゃうよ!」
「兎に角、この部屋を調べよう。何か手がかりがあるかもしれない」
そして、どの道に行くべきかの手がかりがあるかどうか部屋中を手分けして探すことになる。床、天井、壁。生えている木の周りやその天辺。
ありとあらゆる場所をくまなく探したが……手がかりなしという結果に終わった。
「何もなかったわね」
「やっぱり、この破損部分にどの道に進めばいいかって書かれていたのかな?」
「どうしましょう? ジェイクさん」
「……」
どうする? やりたくはないが手分けしてそれぞれの道に進むか? だが、それでもし合流できなかった場合は……。
三人の視線が突き刺さる中、ジェイクは眉を顰め思考する。
『木の後ろの道』
「―――っ!?」
声が響いた。
ライザムと戦った時に聞いたあの声。
「ど、どうしたんですか?」
勢いよく目を開け、いきなり周りを見渡し始めたことでユーカは心配そうに見詰めてくる。こちらからの呼びかけには答えてくれなかった声。
ライザムとの一戦から何度も試みたのだが、あれ以来全然反応がなかった。その声が、またあちら側から一方通行の発言。
「……」
木の後ろの道。
ジェイクはその言葉を信じるか、信じないか。あの時の言葉もまだ頭に染み付いて離れないで居る状態。そんな状態で、信じるか否か。
「決まった、のかしら?」
「…………ああ」
ジェイクが出した答えは。
「こっちの道に進む」
☆・・・・・
「ちょっと、本当なの? このダンジョンにお兄ちゃんがいるっていう情報」
「間違いないって! 黒髪ツインテールの女がそこに行ってみるって情報を提供した奴から聞いたんだ!」
「物好きな兄だな、フラン。ダンジョンに入っていくなんてな」
「そうね。昔から、結構冒険好きなところがあったからね」
昔を思い出し、くすっと笑うフラン。
標的である黒髪ツインテールの少女を求め、新しく出現したダンジョンへと入り込んだレックス、フラン、ヨウスケの三人。
未だに、フランはその標的にしている実の兄が黒髪ツインテールの少女だということが信じられない。
何年も会っていないだけで性別が変わるというのだろうか。
「けどレックスの兄貴! ダンジョンと言えば財宝っすよ! 情報通りだとまだこのダンジョンの財宝は誰も手に入れていない! これは俺達が取るしかないっすよ!!」
「ダンジョンの宝か……俺の聞いた話だと、その財宝ひとつで大金持ちになったって奴がいるらしいが」
「私は興味なしー。お兄ちゃんと殺りあえればそれでいいから」
結局、昨日はカイオルを堪能しただけで終わった。
殺しも好きだが、街探索も好きなフラン。
「そういえば、その兄貴の名前ってなんていうんだ?」
標的としか認識していなかったため、名前を知らなかった。
「なんだ、ヨウスケ。お前はフランに聞いていなかったのか?」
「え? 兄貴は知ってるんっすか!?」
「あんたには話していなかったからねー。まあでも、今回は特別に教えてあげるわ。よーく聞いてなさい」
なんだかんだで、自慢の兄を紹介するのだ。まるで自分のように胸を張る。
「ネロよ。ちゃんと覚えておきなさい!」
「お、おう。……って!? 兄貴、フラン! なんかやばいのが!」
なんだ? と出たばかりの通路から視線を左に向けると……なぜか大岩が転がってくるではないか。
どこも罠を発動させるようなスイッチを押していないというのに。
「ちっ! 誰かが罠を発動させやがったんだ!」
「そのまま、私達関係ない人達を襲いますーって感じか、ふむ」
「いいから逃げるっすよ!!」
「ハッ!? まさか、この罠はお兄ちゃんが……?」
自分達の存在には気づいている。
だからこそ、それを見越しての罠? と考えたフランだったが。
「そんなわけないっか。お兄ちゃんはそんな非道なことはしないからなぁ」
「なんでお前は、そんなに冷静なんだ……おかしいよ! 俺なんて追いつかれて潰されるんじゃないかって心臓ばくばくなのに……!」
どこか回避できるところはないかと探すレックス。その横で、フランの謎の冷静さに突っ込みを入れるヨウスケ。
「あんたは相変わらず胆が小さいわねー。人殺しをするのに、そんなんじゃダメダメよ」
「う、うるさい! 俺は、非戦闘員だからいいんだよ! 情報収集が主な仕事なの!?」
「お前ら! 回避できる道がない! 兎に角今は走れ!!」
こうして、彼らは一分ほど全速力で走り、無事回避できたそうだ。
どうして、こんな視点がぐるぐる変わるようにしてしまったのか……。