第四十七話
ちょっと短めです。
青空が広がっている。
白い雲達が、ゆっくりとどこへいくのか……風に吹かれ漂っている。闘技場の何本もある柱の一本に、ゼイン=レイヴァードは背を預け空を見上げていた。
今日は試合がない。
チャンピオンだと言って、毎日のように闘技場に来ることはないのだが、ここに来ることが習慣のようになっているため自然と足が動いてしまう。
相変わらず人々の声と金属と金属のぶつかる鈍い音が聞こえる。
「……ん?」
これから何をしようか。そう思ったところにマジフォンの着信音が響く。ズボンのポケットから赤い色のマジフォンを取り出し、届いたメールを確認する。
「カイルか」
送信者にはカイル=イノセリアと書かれていた。手馴れた感じにマジフォンを操作し、文面を確認。それを見たゼインはふっと笑う。
「そうか。あいつもあのジェイク=オルフィスに会ったのか……」
手早く返信を書き入れ、カイルへと送信した。
「なあ、お前は行くか? あの新しく出現したダンジョン」
「あー、どうしようかなぁ。噂によると結構変な罠とか魔物が多いって聞くからなぁ……」
送信してすぐ、闘技場内へと入っていく冒険者達が最近カイオル付近に出現したダンジョンの話をしていた。
ダンジョンは、不思議なことにどこかれ構わず構築される。しかも、ひとつひとつダンジョンの構成も違い出現する魔物も違う。稀に、ダンジョンとダンジョンが繋がっているということもあるらしい。
「……ダンジョンか」
特に今日は、用事があるわけじゃない。修行も兼ねて行ってみる価値はある。闘技場内にも、ダンジョンへの入り口はあるが、そこには通いなれた学校のように行っている。
ここにいるのも落ち着いて良いが、やはり体を動かしたい。
決まったからには、さっそく行かなければ。
が、またマジフォンの着信音が鳴りゼインの足を止める。
「またカイルか。……なるほど」
カイルのメールに「了解」と短く書き返信し、歩き出す。カイルから送られてきた文面は、こうだ。
〈そうだ、ゼイン。カイオルに居る騎士団からの情報だが。最近、無差別に人を殺し、金目のものを奪い取る謎の集団がカイオル近辺にいるらしい。もし、出会うことがあれば気をつけてくれ〉
★・・・・・
ダンジョンは、多くの罠と多くの魔物。多くの財宝と夢が詰まっている。ただ我武者羅に進むだけでは攻略することはできない。
周りを観察し、思考して、行動する。
時としては、勇気ある選択も必要となる。
「ひいいっ!? あの岩どこまで追ってくるんですかー!!」
「わからない。だが、兎に角走るんだ! 潰されるぞ!!」
ジェイク達は、初めてのダンジョンに苦戦していた。周囲を、警戒して進んでいたはずが足元で何かを踏んでしまった。
カチッという音がしてすぐに丸い大岩がジェイク達を襲ってきたのだ。
「まさか、あの伝説のジェイクさんが罠にかかってしまうなんてねぇ」
くすくすと面白そうに笑うメアリス。
そう、この罠を発動させたのはジェイクだった。事実なために、何も言い返せないジェイクは眉を顰める。
「じぇ、ジェイクさんだって人間! 人間、失敗することはいっぱいあるんだよ!」
なんとかフォローしようとするユーカ。
この罠にかかるまで、三つほど罠を発動させてしまった人間が言うと説得力があるなぁっと思いつつ「わかってるわよ」とメアリスは答える。
「皆見て! あそこ!」
ネロが指差すところには、大岩が通れないほど横道があった。
「よし! 皆、あそこに飛び込め!!」
ジェイクの叫びと共に、転がるように横道へと飛び込んだ。それにより、大岩を回避することができやっと一息。
坂道だっただけあって、余計に足腰にきてしまった。
そして、冷静になったところでユーカが一言。
「ね、ねえメアリス。思ったんだけど、あの岩メアリスの魔法だったら砕けたんじゃ?」
所詮は大きな岩。
慌てていたせいでその考えに至らなかったが、メアリスの魔法であれば簡単に砕けたかもしれない。が、メアリスは汗ひとつ流さず涼しい顔でこう答える。
「馬鹿ね。こんな狭い場所で魔法なんて使ったら周りの壁やら天井やらが崩れて余計危なくなるでしょう?」
「あっ……そうだった」
転がってきた大岩は通路ギリギリの大きさ。
壁や天井を見る限りそれほど脆くはないだろうが、でかい魔法を一発発動すればその衝撃で崩れることがあるかもしれない。
そうなってしまえば、崩れてきた天井岩に押しつぶされてしまうだろう。
「いやぁ、ダンジョンって思っていたより大変だね。魔物も奇妙なのがいるし」
「《ゼリーム》だと思ったが、少し生態が違ったな」
「苔に同化していましたもんね……いきなり飛びついてきた時はびっくりしましたよ」
四人揃ってダンジョンに入ったのは今回が初めて。
ダンジョンだけの魔物や、多くの罠に苦戦しつつも実は少し楽しんでいたりしている。外では、味わえないスリルと未知。
なんで今まで入らなかったのだろうと後悔していたりする。
「ダンジョンに潜って、結構経つけど……どれくらい進んだのかしらね」
「まだ情報が少ないダンジョンだからね。僕に情報をくれた人は途中で帰ってきたらしいよ。中間地点には外に出れる転移魔法陣があるらしいから」
つまり、まだ半分もいっていない可能性があるということ。
今のところ、転移魔法陣らしきものは見ていない。
「それじゃ、まずはその中間地点を目指すか。終着点に行くのはそこで考えよう」
「私としては、終着点まで行ってもいいのだけれどね」
「私は、次のどんな罠がくるのかって体が震えるんだけど……」
合計四つの罠にかかっているユーカにとっては、ダンジョンの恐ろしさが身に染みているようだ。
「どっちに進む? このまま横道を進むか。そっちの大きな道を進むか」
すでに大岩は奥へと消えていった。もう転がってくることは……ないと信じたい。回避ポイントになった横道だが、少し薄暗いが先には光が見える。
この罠や魔物が大量にあるダンジョンを考えると、大きな道のほうが良いと考えるジェイク。狭い道だと罠が発動した時に、回避するのが難しい。
「……よし。このまま横道を進んでいこう」
が、わざわざ回避ポイントのように存在している横道だ。距離もそれほどないように見える。大きい道は大岩のせいで道が塞がっている可能性が高い。
まだどういうダンジョンなのかわかっていないが、ここは冒険者に必須な……勘でいこう。
「それは、長年の勘ってやつかしら?」
メアリスには勘で選んだことがわかってしまったようだ。対し、ジェイクは隠すことなくふっと笑う。
「ああ。冒険者にとって勘は大事だ。時として良い方向に進むことがあるからな」
「逆に、悪い方向に行くこともあるけどね。……でも、僕もよく勘とかに頼る時があるからジェイクの決定には賛成かな」
「私も、ジェイクさんを信じてついていきます!」
「じゃ、決定ね」
これは責任重大だな、と頭を掻きながら先に見える光目指して歩き出した。