エピソード・メアリス
二人よりもちょっと短いかな? まあ、まだメアリスは謎が多いですからね。
メアリス=A=ラファトリアは闇属性をこよなく愛する少女である。光属性や闇属性は他の属性とは違い適合率が高くなければそう簡単には扱いきれない属性。
あらゆる職業のスキルはレベルにより覚えるが、どのスキルも光と闇の属性スキルがあることは稀と言われるほど。
そんな属性をメアリスは、極めようと日々研究を重ねている。
今も、とある屋敷の一室で一人魔道書を静かに読みふけっていた。ただただページが捲られる音と時計の針が進む音が聞こえる。
「…………ふう」
魔道書を閉じ、一息つく。
窓から見える外の風景を見詰め、メアリスは短く呟いた。
「外、か」
もうしばらく外に出ていない。一通り本も読破した。そろそろ、動く時か。メアリスは、魔道書を退け何もない空間よりとあるカードの束を取り出す。
奇妙な絵が描かれているカードだ。
それを円状に並べ、一枚手に取る。
手に取ったカードには天使と悪魔が手を握り合っている奇妙な絵。
「奇妙な者との出会い、ね」
くすっと小さく笑い、カードの束を仕舞ってメアリスは椅子から離れる。魔道書を元の棚に戻し、静かに部屋から出て行った。
部屋を出ると、大勢の人間が廊下を歩いていた。出てきたメアリスを見て、驚いた顔をしたがすぐ避けるように視線を逸らし何事もなかったかのように歩き出す。
メアリスは最初から彼らの反応を気にもせず、廊下を歩いていき鉢合わせたスーツ姿の老人に笑いかける。
「貴重な情報だったわ。ありがとうね」
「いえ、とんでもございません。もう発つのですか?」
「ええ。ここで得られる知識は、大方得たからね。それに……」
「どうかなさいましたか?」
メアリスはなんでもないわと言って老人から離れていく。その後は、他の誰かと会うこともなく外へと出たメアリス。
強い日差しを防ぐために傘を差し、歩き出した瞬間見知った少女と出会う。
「あら、ラヴィ。ごきげんよう。お店のほうは今日はいいの?」
メアリスが、ストラートに到着してから知り合った少女。家は、道具屋らしくよくどれだけ大変かを話し、本好きということでオススメなどを互いに言い合っていた。
「うん。今日は、友達に付き合うことになっているから。メアリスは……もしかして、もう発つの?」
「そうなの。あなたには少なからず世話になったから、挨拶をしに行こうと思っていたんだけれど。手間が省けたわ」
ラヴィは少し寂しそうな表情をするも、ぐっと堪え手を差し出す。
「そっか……寂しくなるけど、メアリスは冒険者だもんね。またいつか会える、よね?」
「またいつか、ね。世界を一周すれば、またここに来ることになるわ」
手を交し合う二人。
共通の趣味があったことで仲良くなれたからこそ、別れは辛い。
「長いなぁ……でも、待ってるよ。また出会えるって信じて」
「……出会い、か」
「どうしたの?」
「なんでもないわ。それよりも、あなたの友達って噂の子?」
占いで出たことを思い出すメアリスだったが、話を逸らす。
「うん、そうなんだ。相変わらず、一人で冒険に出ない子なの。今日は、休憩を兼ねて一緒にケーキ屋に行くことになったの」
「大変そうね。……それじゃ、私は行くわ。名残惜しいけどね」
「……元気でね。メアリス」
「あなたもね、ラヴィ。そのお友達が旅立ったら、教えて頂戴。もしかしたら、出会うかもしれないし」
そう言って、マジフォンを見せた。
すでに連絡できるように登録はしている。これで、直接出会うことはないが今どうなっているかと連絡しあえる。
「うん、わかった。まあ、いつになるかわからないけど。もしかしたら、追いつくことないかもしれないね」
「まあ、普通はそうよね。もし追いついて来た時は、丁重に先輩として付き合ってあげようかしら」
「お、お手柔らかにね? 結構純粋だから」
楽しみだと、悪戯がしたくてしょうがない子供のように笑いながらラヴィの元から離れていく。
闇を極めるため、そして今度は……奇妙な者との出会いというものが本当にあるのかと楽しみにして、メアリスは旅立った。